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第74話:軋轢と

「当方は其の方のようなたわけと話す言葉を持っていない。故に、これ以上の会話の続行は不可能であることを通告し、意思の疎通を終了する」


 モニカ先輩はそっぽを向いたまま淡々と言う。

 ずいぶんと嫌われてしまったものだな。

 無理もない。

 失明の一端は、ディアボロが原因なのだから。

 だが、ここで諦めるわけにはいかない。

 フォルトは表舞台から消えたものの、断罪フラグはまだ消えていない可能性が十分ある。

 命の危機は未然に防ぎたい。

 そして、断罪フラグの解除だけではない。

 ディアボロとして日々過ごすことで、俺は過去の悪行を清算したい気持ちが強くなっていた。


「モニカ先輩、あなたが俺を嫌っていることはよくわかっています。顔を見たくもないでしょう。でも、これだけは言わせてください。……本当に申し訳ありませんでした」


 頭を下げて言うが、モニカ先輩は俺を見ようともしない。

 壁の方を見るばかりだ。

 俺は話すたびディアボロの記憶が蘇る。

 そのどれもが、決して見過ごせないようなひどい記憶ばかりだった。


「まだ子どもだったとはいえ、俺はそれこそ馬鹿でたわけでした。モニカ先輩は熱で動けなかったのに、見捨ててしまったんですから……」


 ディアボロは風邪をひいていたモニカ先輩を無理やり外に連れ出し、病状を悪化させてしまった。

 結果、モニカ先輩は立てないくらいの高熱が出る。

 すぐ医術師を呼べばよかったものの、ディアボロはモニカ先輩の急変にビビって逃げ出した。

 屋敷に戻って医術師を呼んだときには、モニカ先輩の視力は失われていた……。

 反吐の出る話だ。


「でも、俺は変わりました。努力して、闇属性で回復魔法を習得したんです。だから、俺のせいで失った視力を取り戻させてください」


 モニカ先輩は壁を見たまま呟く。


「これ以上当方への会話を臨むのであれば、然るべき対応を取ることを宣告する」


 冷たいナイフで刺されるような声音だ。

 このまま会話を続ければ攻撃されるかもしれない。

 今度はモニカ先輩の意志で。

 俺たちの間には、深い溝があった。

 絶対に飛び越えることができない、海溝のように深い溝。

 俺なんかがいくら何を言っても、この軋轢は解消できないかもしれない。

 それでも……。

 攻撃されるのを覚悟し、モニカ先輩の前に回り込んだ。

 ゴーグルで覆われた目を正面から見て言う。


「ゴーグル越しではなく、あなたの目にたくさんの素晴らしい景色を見せてあげたいのです。今まで見られなかった分を取り返すくらい……」


 しばし沈黙が包む。

 モニカ先輩は何も言わず俺を見る。

 ゴーグルで表情は見えないこともあり、心中では何を考えているのか余計わからなかった。 永遠とも思える時間が過ぎ、やっぱりダメかと諦めかけたとき、モニカ先輩の口が静かに開いた。


「当方に魔法を使うことを……一度だけ許可する」


 俯きながらも、そう……言ってくれた。

 チャンスは一回あれば十分だ。


「ありがとうございます、モニカ先輩……」

「唯一の機会であることを改めて明言する」


 わかっています……。

 俺はモニカ先輩に両手を向け、魔力を集中する。

 絶対に失敗は許されないのだ。

 

「《闇の癒やし》!」


 モニカ先輩の身体を淡い黒い光りが包む。

 全身の細かい切り傷などの怪我がどんどん消える。

 やっぱり、闇属性の回復魔法は強力だ。

 回復は順調なのだが、進むにつれて異変が起きる。

 ……おや? モニカ先輩の様子が? 頬に紅が差して? 身をよじって?


「……っ! くぅぅ……んぁぁああ~! ぁぁぁぁ~あぁぁぁ!」

 

 遺跡にハスキーな嬌声が鳴り響く。

 もちろん、モニカ先輩の。

 反響してとんでもなく大きな嬌声となる。

 でも、よかった。

 モニカ先輩と二人っきりで。

 シエルとマロンに見られていたら、また大変なことになっていただろう。

 別にやましいことは何もないわけだが……。

 しばし嬌声が鳴り響いた後、モニカ先輩は静かになった。

 力なく座り込んでいるので心配になる。


「ど、どうですか、モニカ先輩。大丈夫ですか?」


 声をかけたが微動だにしない。

 回復魔法はいつも通りうまくいったはずだが……。

 思わず、ごくりと唾を飲んだそのとき。

 モニカ先輩は顔に手をやると、ゆっくりとゴーグルを外した。

 鮮やかなエメラルドグリーンの瞳が露わとなる。

 一筋の涙が松明に照らされた。


「ゴーグルを通さないで見る世界は……隅から隅まで澄んで見える。見えている景色は同じはずなのに……。殺風景な光景も、今や絢爛な輝く世界に等しい」


 モニカ先輩は涙を浮かべた目で周囲を見る。

 松明の火が反射し、彼女の瞳は星のように輝いていた。


「目が見えるようになったんですね。俺は……嬉しいです」

「ディアボロ氏、当方は其の方に感謝の意を伝える。過去の一事は水に流すこととする」

「モニカ先輩……」 


 胸の中に喜びがあふれる。

 断罪フラグの解除もそうだし、また一つ過去の悪行を精算できたのだ。

 そう思うと、心に明るい光が差し込んだ。

 モニカ先輩は俺の手をそっと握る。

 先ほどまでの攻撃的な雰囲気は、もう感じられなかった。


「これからも当方の傍にいることを要求する」

「ええ、もちろん。ずっとモニカ先輩の傍にいますよ」


 よかった……俺の命が救われた……。

 モニカ先輩とわかり合うことができた。

 得も言われぬ充足感に心が満たされたそのとき。


「「……ディアボロ(様)?」」


 突然、真後ろから聞き慣れた声が聞こえ、心臓が飛び出るかと思った。

 ギギギ……と首を後ろに向ける。

 光りの消えた眼で、にっこりと微笑む婚約者様とメイド様がいた。

 ……あれれ~? なんでいるのかなぁ~?


「目を離すとすぐこれねぇ。いつの間にか、年上の女性とも仲良くなるなんて。女性を悦ばすことはどんどん得意になるわねぇ」

「ディアボロ様は行動力がありますが、裏を返せば手が早いということでしたねぇ」

「申ぉぉぉし訳ありませんんん! 悪いのは回復魔法なんですぅぅう! 意図したわけではないことを誓って申し上げますううう!」


 見られていた。

 モニカ先輩のんぁぁ~を。

 せっかく断罪フラグを解除したのに、別の命の危機が迫る。

 二人はじりじりと俺に近づく。


「「ずっとモニカ先輩の傍にいます……?」」

「うわあああああ!」


 最悪だ。

 全身が砕かれそうな重力と全身が灰になりそうな地獄の業火のプレッシャーを感じながら、俺はとにかく平身低頭しまくるしかなかった。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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― 新着の感想 ―
[一言] 迂闊すぎる…! コイツなんでずっと一緒に即答してるんだろう…
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