第73話:影
「モニカ……先輩! 攻撃をやめてください! 俺です! ディアボロです! モンスターじゃありません!」
モニカ先輩に向かって叫ぶ。
俺をモンスターと誤認している可能性があった。
調査隊で同士討ちなんて、一番最悪なパターンだ。
呼びかけるも、モニカ先輩は反応がない。
代わりに、右の手の平を俺に向けた。
「……《風槍》」
「モ、モニカ先輩っ」
槍のように凝縮された空気の槍が、何本も猛スピードで襲い来る。
回避に集中することでどうにか避けられた。
壁や床に当たるたび、旋風が巻き起こり表面を削る。
遺跡は全体が古代魔法で守られているはずなのに……。
モニカ先輩の魔法の威力が示されるようだった。
「《風時雨》」
今度は天井付近に、空気の弾が無数に出現する。
松明に照らされ、俺の顔は見えているはずだ。
だが、モニカ先輩は戦闘をやめようとしない。
このままじゃ、互いに消耗するばかりだ。
「俺はモンスターじゃないですよ! ディアボロです! モニカ先輩と同じ、"エイレーネ聖騎士学園”の生徒です!」
モニカ先輩が手を振り下ろすと、空気の弾がそれこそ疾風のごとく飛んできた。
左右に避けても前後に避けても被弾は免れない。
それなら……。
「《闇の個結界》」
一人用の小さなバリアを展開して身を守った。
防御性能はそのままに、大型のものよりだいぶ魔力を節約できる。
風の弾丸がバリアに直撃するたび、激しい振動が伝わった。
最初は真下に落ちるだけかと思ったが、よく見たら上下左右死角なく襲ってくる。
全面に注意を巡らせなければ……。
魔法が深く浸透したこの世界でも、風属性は結構強い扱いだ。
なぜなら、眼を凝らさないと攻撃がよく見えないから。
モニカ先輩の魔法も、《闇の眼》を使っていなければ避けるのは難しかっただろう。
彼女の攻撃を凌ぐうちに、俺は一つの可能性にぶち当たった。
――もしかして……モンスターに襲われた体で俺を殺そうとしているんじゃ?
……あり得る。
俺は暴虐の名を欲しいままにした、あのディアボロだ。
殺されるほど恨まれていてもおかしくない。
己の過去の悪行にがっくりする。
ふと、モニカ先輩の後ろにぼんやりと空気の歪みが見えた。
最初は風魔法の前兆かと思ったが違う。
うまく隠されているが、あれは魔力の塊だ。
そして、俺はこの遺跡で同じ密度の魔力を見た。
あいつは……。
「モニカ先輩、後ろにシャドーがいます! 迷彩魔法で隠れているんです! 気をつけてください!」
シャドーは魔力を隠し、暗闇に溶け込んでいる。
モニカ先輩は取り乱すことなく、また俺を風魔法で攻める。
ど、どうして……。
本当に俺を殺すつもりなのかと思ったが、すぐ別の原因に行き着いた。
――モニカ先輩はあのシャドーに操られているんだ。
ゲームでもプレイヤーを操る魔法が使える個体がいた。
俺やアルコル師匠と同じ闇属性のシャドーだ。
まずはモニカ先輩との繋がりを切らなければ。
「《闇の遮断壁》」
魔法を遮断するバリアでモニカ先輩を覆う。
防御能力はまったくないが、その分遮断効果は高い。
バリアが展開された直後、モニカ先輩はぐたりと跪いた。
「うっ……当方に何があった……」
「大丈夫ですか、モニカ先輩っ」
「ディアボロ……。なぜ貴様がここにいる……? と当方は問いかける」
「シャドーに操られていたんです。すぐ後ろにいます」
俺が言うと、モニカ先輩は慌てて後ろを見る。
わずかな空間の歪みが徐々に大きくなり、その姿が明らかとなった。
操作魔法を使っている間は、攻撃魔法が使えないからな。
頭部は大きく手足は細長い、歪な人型のモンスター。
"這い寄る人影”クリーピングシャドーだ。
モノアイは紫色に光るので、やはり闇属性の個体だった。
モニカ先輩は悔しそうな顔でシャドーを睨む。
「まさか、この当方が操作されるとは……。このモンスターは極めて強力かつ面倒であることが証明された」
シャドーは高性能なモンスターだが、もちろん弱点はある。
モノアイへの攻撃はダメージが倍増されるのだ。
『……』
シャドーのモノアイが煌めき、白い光線が俺に向かって飛んでくる。
共通の攻撃、《腐壊光線》だ。
当たると"腐壊”と呼ばれる特殊な状態異常に陥る。
ヒットした箇所は徐々に爛れ、やがて身体から腐り落ちてしまう……という設定だ。
エフェクトもキモかったのを覚えている。
絶対に当たりたくないぞ。
シャドーは俺に《腐壊光線》を連発する。
戦えないほど弱ったモニカ先輩の対処は後にして、先に俺から倒すつもりなのだ。
こいつらは強い敵を優先的に狙う性質がある。
ゲーム通りだが、今は逆に好都合だった。
攻撃が当たらないとみると、シャドーは空中に両手をかざした。
魔力が集まり、頑丈そうな双剣となる。
俺もまた《闇の剣》を生み出し、固く握り締めた。
――白兵戦で決着をつけようというわけだな。
迫りくるシャドーに向かって、スピードを落とさずに走る。
勢いそのままに、剣を斜めに振り下ろした。
「薙ぎ一閃!」
『……』
右手の剣でガードされ、左手の剣が俺の首を襲う。
とっさに身を屈めて回避した。
シャドーは無言で双剣を振るう。
一般的に、二刀流は習得が困難とされている。
剣が二本あるのは有利に見えるが、右手と左手で別々の動作を行うのは案外難しい。
不規則な攻撃を意識しても、気づいたらワンパターンな攻撃になってしまうものだ。
しかし、こいつは人間じゃない。
モンスターだ。
古代の時代に作られた強力な人型兵器。
死角を襲うように、淀みなく双剣を扱う。
――……強いな。
剣を交えるうちに、だんだんワクワクしてきた。
強いヤツと戦うのは楽しい。
ゲームですらそうなのに、実際に戦うとなったらなおさらだ。
自然と笑みがこぼれる。
ガギンッ! と重い音が響き、俺とシャドーは距離を取る。
俺の方の剣は、表面が所々欠けていた。
魔力の質がやや負けているのだ。
"魔脱"と消耗の影響だな。
俺とシャドーの剣術はほぼ互角……だったら……。
「《闇の殴撃》!」
『!』
左手を下から突き上げ、シャドーの顎にアッパーを食らわす。
続けて腹にストレートをお見舞いした。
俺は片手が自由だから、双剣との違いを目一杯利用させてもらう。
シャドーの体勢が崩れたところで、足に意識を集中する。
闇の剣を短くし、その分の魔力を下半身に回した。
「《闇の反重力》!」
ドンッ! という衝撃とともに、シャドーへ向かって足を踏み出した。
細かい動きは取れなくなるが、スピードは格段に上がる。
シャドーのモノアイが煌めくのが見えた。
真正面から俺を撃ち抜くつもりだ。
《腐壊光線》が頭目がけて発射される。
……予想通りの展開だな。
「《暗黒鏡面》」
闇の剣を変化させ、楕円形の鏡を生み出した。
魔法攻撃を跳ね返す鏡だ。
《腐壊光線》は鏡に当たると、まったく同じ起動を描いて反射された。
そう、シャドーのモノアイに向かって。
『……ッ!』
自身の攻撃に弱点を撃ち抜かれ、シャドーの頭は爆発する。
ゆっくりと後ろにのけ反ると、遺跡の床に倒れた。
沈黙が訪れる。
しばし警戒するも、二度と動き出すことはなかった。
ホッとひと息つき、モニカ先輩の下へと急ぐ。
怪我はしているものの、命に別条はなさそうだ。
「大丈夫ですか、モニカ先輩」
「当方に触れるな」
手を差し伸べたが、プイッと顔を背けられてしまった。
シャドーは倒せた。
だが、それ以上の強力な壁が目の前にある。
「俺にあなたの傷を……あなたの目を治させてもらえませんか?」
意を決して告げた。
いよいよ、断罪フラグとの対面だ。
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