第71話:罠
「罠か……。どうやら、この場所に立つと発動する仕組みだったようだな」
「チッ、ぬかったぜ。罠があるんなら扉に書いとけよ」
「それじゃあ、罠の意味がないじゃろうが」
両側から壁が迫るという危機的な状況でも、二人は取り乱したりせず落ち着いている。
さすがは"エイレーネ聖騎士学園”の生徒、そして"死導の魔女”だ。
バッドは右腕を突き出すと、魔力を練り始めた。
「罠なんて関係ねえ。力ずくで突破してやる。……《氷河の拳》!」
彼の右腕に空気中の水分が集まり、次々と氷に変わる。
瞬く間に巨大な氷の腕が完成した。
扉に向かって駆けると、勢いよく殴りつけた。
部屋が揺れるほどの衝撃が起こる。
だが、扉が壊れることはなく、逆にバッドの氷が砕け散ってしまった。
「な、なにっ!? 俺の攻撃が効かねえなんて……!」
「どけ、クソガキ。今度はワシの番じゃ」
驚くバッドを押しのけ、今度はアルコル師匠が前に出る。
膨大な魔力を練り始めると、周りの空間が歪みだした。
バッドは、はわはわと口に手を当てる。
「す、すげえ……コルアルさんが魔力を練るだけで空間が歪んでいるぞ……。あの"死導の魔女”みたいだ……」
本人なんだが。
バッドもまた、コルアルの正体に気づいていなかった。
アルコル師匠が杖の先端を扉に向ける。
魔力が集まると、ドリルのような形を作った。
「《暗き暴力》」
ドリルが扉に激突し、猛スピードで回転する。
耳をつんざくような掘削の音が鳴り響き、扉がゴリゴリと削られる振動が伝わった。
バッドが興奮した様子で話す。
「おい、ディアボロ、いけそうだぞ。コルアルさんと一緒のチームでよかったな」
「ああ、だがまだ油断できないぞ。グリンピアは全体が古代魔法で守られているんだから」
グリンピアは古の時代に作られた。
よって、今では誰も使えない魔法――古代魔法が遺跡全体にかかっている。
その特異性のためか、遺跡の罠や宝物などは、どれもこの時代では製作ができない物ばかりらしい。
ロストテクノロジーみたいな設定があった。
やがて、アルコル師匠が生成した魔力のドリルが少しずつ薄くなり消えた。
なんと…………扉は破壊できなかった。
表面は削れているものの、未だ健在だ。
アルコル師匠は感心した様子で呟く。
「……ふむ、なかなか堅いの。さすがは古代魔法といったところか」
「コルアルさんの魔法でも突破できないのかよ。どうする、ディアボロ。本格的にヤバくなってきたぞ」
超頑張ればごり押し突破できそうな気もするが、時間がかかりすぎる。
両側の壁に挟まれ死んでしまうだろう。
バリアでやり過ごすにしても、"魔脱”がある状況ではジリ貧だ。
転送カードを使えば脱出できるだろうが、こんなところでは使いたくないな。
まだ第三層なのだ。
そう思ったとき、ふと頭の片隅に何かが引っかかった。
……この罠と部屋には見覚えがある。
必死に記憶を探ると思い出した。
俺は原作でもこの部屋に来たことがある。
「バッド、アルコ……コルアルさん、よく聞いてくれ。この星座と文章が鍵だ。謎を解けば罠は止まる」
「なに? そうなのか?」
「わかっているのなら先に言わんか」
いや、すみません、今思い出したんです。
三人で奥の壁をよく見る。
壁の文章は古代文字で書かれていたが、古代史を勉強したおかげで解読できた。
描かれているのは十二星座と、一つの文章だ。
[白昼と黒夜を天秤にかけ、水平に保つ星の座はどれか。唯一の答えを示せ]
十二星座が描かれた石を、一つだけ選んで押すのだ。
正しく押せば罠は止まるが、間違った星座だと迫る壁のスピードが倍になる。
状況を考えると一回きりのチャンスだ。
「天秤座じゃねえのか?」
「ワシは獅子座がいい。強そうじゃから」
バッドとアルコル師匠は言うが、どちらも違う答えだ。
だが、前世でこのゲームをやり込んだ俺は正解を知っている。
白昼とは昼間、黒夜とは夜のこと。
それらを水平に保つとは、昼夜の時間が同じという意味。
つまり、春分の日を指す。
星座が生まれたとき、その身体に春分点を含んでいた星座が正解となる。
「残念ながら二人とも違うよ。答えは……牡羊座だ」
牡羊座が刻まれた石を押す。
ゴゴゴ……という余韻を残して、迫り来る壁は止まった。
よかった。
ゲームをやり込んだおかげだな。
ホッとひと息吐いたら、バッドが俺の背中を激しく叩いて喜んだ。
「すげえ、本当に壁が止まったぞ! やるなぁ、ディアボロ!」
「いやいや、たまたまだよ」
「ディアボロにしては悪くない成果じゃ。まぁ、ワシなら罠を解除せずとも、壁でも扉でも破壊できたがの」
そこはもっと褒めてくれ、アルコル師匠……とは思ったが、無事にゲーム知識を使い、罠から脱することができてよかった。
そっと扉を開けて外の様子を確認する。
先ほどのシャドーも姿を消していた。
今がチャンスだ。
俺たちは素早く外に出て、十字路へと戻る。
「ディアボロ、どれに進むかお前が決めていいぞ。罠をクリアしてくれた礼だ」
「じゃあ、右がいいかな」
「面倒な道だったらしばくからの」
尻にアルコル師匠のプレッシャーを感じながら、右の通路へと歩く。
次はどんな敵や罠が襲いかかってくるかわからない。
今一度気を引き締め、俺たちは下層へと進む。
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