第69話:古代遺跡グリンピア
「さて、皆さん。心の準備はいいですか? いよいよ、未踏破の遺跡の攻略が始まります」
アプリカード先生の声が石造りの広場に響く。
目の前の岩壁に掘られるは、10mはあろうかという巨大な空洞が五つ。
俺たち調査隊はすでに、古代遺跡グリンピアに到着していた。
これから何チームかに分かれて内部に向かうのだ。
周囲には、"エイレーネ聖騎士学園”の1年生6人、モニカたち2年生6人、そして、ソフィーを含むオートイコール校の生徒6人がいた。
空洞の前には教員の方々が並ぶ。
教員は学園側がアプリカード先生、普段は3年生を担当するリオン先生の二人。
オートイコール校側はオリーブ先生と、クロノスという眼鏡をかけた男性の先生だった。
クロノス先生は初めて見るな。
原作では出てこなかった教員だが、オートイコール校にも先生は何人もいるし別におかしくはないか。
オリーブ先生が調査隊のリーダーらしく、一歩前に出て説明する。
「我々の目標は最深部にある石板の入手だ。先人たちの努力により、最深部への地図はすでに製作された。だが、君たちも知っての通り、グリンピアの特性“魔脱”とシャドーの存在が調査隊の行方を阻む」
グリンピアが他のダンジョンと異なるのは、二つの理由があった。
一つはここにしかいない強力なモンスター、シャドーの存在。
二つ目は、“魔脱”と呼ばれるグリンピアの特性だ。
この遺跡には、侵入者の魔力を少しずつ奪う魔法がかけられている。
古の時代の魔法であり、今まで誰も解除できないのだ。
攻略を試みる者はみな、モンスターや罠だけでなく魔力の減少とも戦わなければならない。 石板を入手するにはシャドーの親玉を倒す必要があるが、最深部に行く頃にはへとへとだろう。
緊張感が調査隊を包む中、今度はアプリカード先生が説明する。
「これまでの調査で、どの空洞を通っても最深部に行けるとわかっています。ですが、大人数で行けば行くほど、そのルート上には強大なモンスターが引き寄せられることも判明しています。おそらく、遺跡には侵入者の魔力を探知する仕組みがあると考えられます」
この辺りもまた、原作通りの設定だった。
遺跡に住むモンスターは元々強力な上に、大人数で挑むほど攻略の難易度が上がる。
かと言って、一人で挑むなんて命知らずもいいところだ。
侵入者を阻む意思を持っているかのようなグリンピアの特性が、なかなか踏破できない所以とされていた。
そのままチーム分けも発表される。
1年生は俺、コルアル、バッドの三人、シエル、マロン、デイジーの三人となった。
先生たちは一人ずつ攻略に望むそうだ。
アプリカード先生は懐から小さな板を取り出すと、調査隊に配る。
「命の危険を察したら、この転送カードを折ってください。私の魔力が込められており、瞬時に今から作る魔法陣まで転送してくれます」
硬いタロットカードみたいな板。
原作でも、これを割るとスタート地点に復帰できた。
調査隊のみんなが安心するのが伝わる。
アプリカード先生が手をかざすと、広場の中央に巨大な魔法陣が出現した。
調査が終わると消えるので、遺跡の保護にも問題はないそうだ。
「それでは準備が完了次第、それぞれ調査に行ってください」
「アプリカード氏、一つ質問があるのだがよろしいか?」
生徒たちの中から、ややハスキーな声が上がる。
そちらを見ると、ゴーグルをつけた女性が手を挙げていた。
……モニカ先輩だ。
今までずっと沈黙を保っていたが、ここに来て初めて発言した。
彼女は他人のことを~氏と呼ぶ。
先生たちは毎回その口調を直せと言うが、直す気配はまったく感じられない。
やや呆れた様子で、アプリカード先生が尋ねる。
「はい、なんでしょうか、モニカさん。こういうときくらい先生と呼んでほしいものですね」
「なぜ、暴虐令息のディアボロがいる」
モニカは俺を指さす。
ゴーグルで表情は見えないが、良い感情を抱いていないことだけはわかる。
過去の軋轢もそうだし、俺だけ呼び捨てだしな。
いたたまれない気持ちになり、心なしか身体が縮むような感覚に陥る。
「それはもちろん、優秀だからです。成績も人格も。2年生はまだあまり知らないでしょうが、ディアボロさんは改心したのですよ」
「するわけない。あいつの心は真まで悪に染まっているのだ」
「あなたもディアボロさんと話せばわかるはずです」
「……騙されている可能性に言及し、質疑を終える」
そう言うと、モニカはそっぽを向いてしまった。
シエルやマロンも微妙な表情だ。
ただ一人、アルコル師匠だけは楽しそうに笑いをかみ殺していた。
こちらの気も知らないで……。
何はともあれ調査についての説明は終わったが、みな動こうとしなかった。
様子を見ている……といった感じだ。
無理もない。
未踏破のダンジョンなんてそれだけで緊張するからな。
みんなの様子を眺めていたら、シエルとマロンに話しかけられた。
「今回、ディアボロとは離ればなれになっちゃったわね」
「一緒のチームじゃなくて残念でございます」
「まぁ、こればっかりはしょうがないさ。でも……必ず最深部で落ち合おう」
そっと手を出すと、二人は微笑みながら手を乗せてくれた。
最深部で再会することを誓い、二人と別れる。
調査が終わるまでしばしの別れだ。
「おいおい、ディアボロ。泣かせてくれんじゃねえか。相変わらず羨ましいヤツめ。うおおおおっ、俺にも早く婚約者が現れないかなぁ!」
「うるさいの、こいつ」
代わりに今回のメンバー、バッドとアルコル師匠がやってきた。
バッドは婚約者うんぬん叫ぶ。
彼の興奮が落ち着いてから進もうとアルコル師匠と話していると、スッ……と背中に気配を感じた。
「君がディアボロ君だね。今日会えるのを楽しみにしていたよ」
「「リ、リオン先生!」」
振り返ると、いつもは会う機会が少ない黒髪の優しそうな先生がいた。
3年生の高度魔法を担当する――リオン先生だ。
解放度で言うと、★7以上の魔法を主に扱う。
すかさず、俺とバッドはピシッと姿勢を正す。
アルコル師匠だけは、だらだらとめんどくさそうに姿勢を整える。
「みんな、楽にしてくれていいよ。別に、王国騎士団でもないのだから」
「「は、はい」」
リオン先生の声で俺たち(俺とバッド)はホッと力を抜いた。
ゲームでは都合上、原作主人公が3年生になるまではあまり接点がない。
なので、リオン先生も来ると聞いて楽しみだった。
なんと、この人はレオパル先生のお兄さんなのだ。
妹と違って……というと怒られそうだが(レオパル先生に)、見た目通りとても優しい。
ゲームでは良き理解者の一人になる。
現在、3年生はみなインターン中なので、リオン先生も応援に来たとのことだ。
「ディアボロ君、僕はずっと君の実力をこの目で見たかったんだ。入学試験のときからね。今回の調査は、君の力が多いに役立つと思う。楽しみにしているよ」
「が、頑張りますっ」
褒められてしまった。
素直に嬉しくてテンションが上がる。
バッドは悔しそうに拳を握り、アルコル師匠はぶわぁぁぁ~と大あくびしていた。
それじゃあ先に行くね、と言い、リオン先生は一人で空洞の中に進んでいく。
見送ると、バッドが顔を叩いて叫んだ。
「よっしゃ、行くぞお前ら! いいか? 俺たちが一番最初に最深部へ到達し、石版を回収するんだ。俺の実力もリオン先生に見せてやるぜ!」
「こいつ、いつになったら静かになるんじゃ?」
「すみません。ずっとうるさいと思います」
先生たちに見送られながら、俺たち三人はグリンピアに足を踏み入れる。
いよいよ、前人未踏のダンジョン攻略が始まった。
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