第67話:古代遺跡への遠征と新たな断罪フラグ
「皆さん、おはようございます。さあ、席についてください。授業を始める前にお知らせがありますよ」
アプリカード先生の声が教室に響き、ぞろぞろと生徒たちが席に着く。
オートイコール校との登山演習から一週間ほどが経った。
今日もいつも通りの授業かな、と思っていたが違った。
アプリカード先生は黒板にとある単語を書く。
“グリンピア”……と。
「先日、エイレーネ聖騎士学園はオートイコール校と、古代遺跡“グリンピア”の合同調査を決定しました。各学校から、何人かの選抜メンバーが調査に行きます」
言い終わる前から、教室はどよめきで包まれる。
ここ最近で一番のニュースだ。
ソフィーの言っていた通りというわけか。
教室のあちこちから生徒の声が上がる。
「先生、僕も調査に連れていってください。グリンピアに行きたいです」
「せっかくだからクラス全員で行きましょうよ。確実に勉強になること、この上ないです」
「父に頼んで独自に調査隊を結成してもらいましょうか?」
みんな、目を輝かせてわいわいと好き勝手に発言する。
アプリカード先生が注意するも、今回ばかりはなかなか静かにならなかった。
彼らの興奮する気持ちは痛いほどわかる。
古代遺跡なんてロマンの塊だからな。
外界には存在しないアイテムの数々や、強力なモンスター、踏破した者には特別な加護が与えられる……なんて噂もある。
男も女も、若者も老人も興味を惹かれていた。
前世の俺も、このストーリーは一段とわくわくしながらプレイしたものだ。
隣のシエルとマロンも楽しそうに話す。
「ねえ、グリンピアの調査だって。聞いただけでワクワクしちゃう。どんな謎が眠っているのかしら」
「ディアボロ様はいかがですか」
「もちろん、俺も調査に行きたいよ」
グリンピアについては、考古学的にも未だ謎が深い。
五大聖騎士を讃えるために建造された、ということくらいしか判明されていない。
ゲームの中でも、終ぞ明らかになることはなかった。
……いや、やり込めば建造した人物や時期、加護の正体なども明かされるはずだった。
ただ、【エイレーネの五大聖騎士】は用意されたサイドストーリーが膨大であり、アプデやDLCにより、頻繁にコンテンツが追加された。
俺は全部やり込むつもりだったが、途中で具合が悪くなり断念せざるを得なかったのだ。
生徒たちのどよめきが徐々に落ち着くと、アプリカード先生が静かに言った。
「興奮する気持ちもわかります。ですが、グリンピアは未知の世界です。皆さんも知っての通り、王国は今まで何度も調査を試みましたが、いずれも失敗しました。今回の調査にも危険が付き物なことを、今一度説明しておきましょう」
アプリカード先生は魔法で空中に映像を出す。
現時点でグリンピアについてわかっている情報と、調査の歴史だった。
今までの調査は全部で五回、総勢五十人ほど。
歴戦の戦士や名の知れた魔法使いなど、国が選んだ優秀な人材ばかりだったが、その約半数近くが未だ行方不明となっている。
その主な原因が、強力なモンスターと多種多様な罠の存在だ。
盗賊を追い払うためなのか、外界から棲みついて独自の進化を遂げたのか、はたまた五大聖騎士の時代から封印された存在なのか、いずれも不明だが、遺跡には強力なモンスターがいる。
罠もまた外界のダンジョンより高度で、殺意が高いものが多い。
映像が進むにつれ、生徒たちは言葉少なになる。
「……特に、グリンピアの中でも強力なモンスターがこのクリーピング・シャドーです」
アプリカード先生の話に、生徒たちの緊張感が一段と強くなる。
映像にいくつかのモンスターが現れた。
頭でっかちの頭部には不気味なモノアイが光り、細長い手足が歪な体型を作る。
遺跡を守るように巡回する古代の人型兵器、“這い寄る人影クリーピング・シャドー”。
たしか、作中ではシャドーと略されていたな。
身体はあのアイアンゴーレムをも上回る強度を誇る鉱石<星降り原石>で構成され、一体につき一属性の高度な魔法攻撃を持つ。
ランクとしてはA+だが、レベルは80前後もある。
これは外界のSランクモンスターに匹敵する強さだ。
しかも、厄介なのが複数体いる点。
さすがに何十体もたくさんはいないが、一体倒すだけでも相当な消耗を強いられる。
過去の調査では、まだ二体の討伐報告しかないほどだ。
シャドーの姿が流れたところで、映像は消えた。
教室はシーン……と静まり返る。
最初は古代遺跡というロマンあふれる存在にみな目を輝かせていたが、今は厳しい現実に表情が硬くなっていた。
「……さて、肝心の選抜メンバーですが、今3年生は魔法局“退魔戦闘部門”のインターン中です。よって、異例ではありますが、2年生と1年生の両方から6人ずつ選ばれることになりました」
魔法局、退魔戦闘部門……。
封印された魔王及び、魔族との戦闘の最前線に立つ王国の組織だ。
エイレーネ聖騎士学園を卒業した生徒でも、選りすぐりの人間しか入れない狭き門。
フォルトと魔族教会の件により、シナリオや学園のイベントにも変化が起きている。
本来なら、グリンピアの調査に行くのは3年生がメイン。
原作主人公は一番好感度が高いヒロインとともに、特別に同行を許可される流れだった。
「今回の調査は危険が伴うため、調査メンバーは学園側ですでに決定いたしました。今から発表します。皆さん、よく聞いてくださいね。まず一年生は天」
アプリカード先生は生徒の名前を告げる。
俺、シエル、マロン、コルアル(アルコル師匠)、バッド、デイジーの6人だ。
そして2年生の名前を聞いたとき、心臓がドクンッと強く脈打った。
「……モニカ・ラブロックの6名です。2年生の先輩たちの足を引っ張らないよう、精一杯努力するように」
モニカ・ラブロック侯爵令嬢、年は俺の一個上だから16歳。
このゲームのヒロインの一人。
彼女は目が見えず、専用のゴーグル型魔道具で周囲の光景を見る。
例によって、失明した原因というかきっかけは、俺にあった。
幼少期、家の繋がりで一緒に遊んだとき、モニカ先輩は高熱が出た。
俺が助けを呼んだのが遅く、命は救われたものの視力を失ったのだ。
忘れかけていた断罪フラグが、それこそ這い寄る人影のようにヒタヒタと迫りくる。
「マロンさん、ディアボロの独り占め勝負はお休みしようと思うのだけど、どうかしら。いつもよりずっと危ない場所だから」
「賛成です。今回はお休みしましょう。興奮して注意が散漫になったら危ないです」
「俺も賛成。よかった……ははは……」
シエルやマロンと話しながらも、俺は自然と表情が硬くなる。
ソフィーとのバトルもそうだが、何よりシナリオの変化について確認したい。
そのためには、まず最深部の石板にたどり着かなければならない。
モニカ先輩の件もあるから、断罪フラグも回収しなければ。
となると、目下の目標は二つだ。
遺跡の最深部に行き石板を回収すること、モニカ先輩の断罪フラグを回収すること。
断罪フラグは怖いし、緊張しないと言ったら嘘になるが、徐々に楽しくなってきた。
謎に包まれた古代遺跡と強力なモンスターたち。
成長した実力を試すときだ。
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