第66話:今日はお休み
「ねえ、ディアボロ。この青いワンピースと赤いポンチョ、どっちが私に似合うかしら」
「ディアボロ様、こちらにある太陽のブローチと月のネックレス、どちらが私に似合うでしょうか」
シエルとマロンは、あれこれと服やアクセサリーを選ぶ。
普段は麗しい貴族令嬢と頼れるメイドだが、今は年相応の少女だった。
微笑ましい光景に俺も心が明るくなる。
「どっちも似合うんじゃないかな」
「「さっきからそればっかりじゃない(でございます)」」
素直な気持ちを伝えたのに、不機嫌な顔で言われてしまった。
俺は今、学園近くの街でショッピングの真っ最中だ。
いや、正確にはその付き添いだな。
朝から、シエルとマロンの買い物に同行していた。
今日は休日。
授業も休みだし、冒険者ギルドでのクエストもなし。
さすがに、ずっとフルで活動し続けるのは大変だからな。
健康的に過ごすには、たまの休息も重要だ。
リフレッシュを兼ねて、街で買い物しているのだ。
ほとんどシエルたちの服屋巡りだがな。
資金源はクエストで稼いだ正真正銘自分のお金なこともあり、二人とも本当に楽しそうだ。 お店を眺めてまわり、ここは三軒目だった。
「さて、このお店はこれくらいにしましょうか」
「そうですね、また後で見に来ましょう」
「あれ? 買わないの?」
二人はせっかく選んだ服やらアクセサリーを棚に戻す。
てっきり買うのかと思っていたが違うらしい。
「全部のお店を見てからに決まっているでしょう。まだ三軒しか回っていないわ」
「無駄遣いしてはお金がもったいです。吟味に吟味を重ねて買わなければなりません」
「そ、そんな……」
嬉々としてお店を出るシエルとマロン。
そういえば、一つ目の店でも二つ目の店でも、彼女たちは同じようなことを言っていた。
全部の店を見て吟味してから買うと……。
年頃の女の子のショッピングって、これが普通なのか?
女の子と買い物など行ったことがない俺には、勝手がわからなすぎる。
もしかして、一日連れ回されることになるんじゃ……。
ふと、店の隅にあるベンチを見ると、真っ白に燃え尽きた屈強なオジサンが座っていた。
その近くには何着もの服を見るお姉さん。
オジサンは俺に気づくと、にこり……と微笑んだ。
(頑張れよ、少年……。俺の屍を超えてゆけ……)
は、はい……頑張ります。
俺の未来が彼のようにならないことを祈る。
その後二軒ほど別のブティックを巡ると、12時の鐘が鳴った。
腹も減ってきた。
「ねえ、そろそろお昼ご飯にしましょうかしら」
「賛成です。お腹が空いてしまいました。ディアボロ様はいかがですか?」
「俺もペコペコだよ。あっ、あの店とかどうかな」
ちょうど目の前にあったレストランに入る。
シエルはトマトのクリームパスタを、マロンはシーフードグラタン、そして俺はハンバーグステーキを頼んだ。
学食もうまいが、この店の食事も美味だった。
お昼ご飯を三人で食べ、また買い物を再開。
結局、シエルは髪と同じ濃い藍色のワンピースを、マロンは三日月の飾りがついたネックレスを買った。
二人とも嬉しそうで俺も嬉しい。
俺はファッションに興味はないので、特に何も買わなかった。
シエルとマロンは満足げに買い物袋を揺すりながら歩く。
「良い買い物ができて良かったわ。ここのブランドの服、ずっと欲しかったの」
「少々予算オーバーしてしまいましたが、私も納得のいく買い物ができました」
「でも、ディアボロも何か買えばよかったのに」
「この先、街に来る機会はなかなかないかもしれませんよ?」
二人は何も買わなかった俺を気遣ってくれる。
たしかに買い物はしなかったが、十分満足していた。
「いや、俺はいいよ。二人の楽しそうな顔が見られただけで幸せさ」
素直な感想を述べる。
自分の大事な人の幸せが俺の幸せなのだと……。
なんだか急に静かになったので、気になって隣を見る。
「「ディアボロ(様)……」」
二人は顔を赤らめ、くねくねしていた。
例のごとく彼女らの体調不良が心配になるが、表情を見る限り大丈夫そうでホッとする。
空は少しずつオレンジ色に染まりつつあった。
夕方だ。
寮に帰るか、まだ遊ぶか、俺たちの中に迷いが生まれる。
夜まで時間はあるが、明日からまた忙しい日々だ。
名残惜しいものの、早く帰って学業に備えた方がいい気もする……。
何とも言えない哀愁を感じながら歩いていると、ふとジェラートの屋台が目に入った。
アルコル師匠にお土産を買った方がいいだろうか……うん、買おう。
後で文句を言われながら尻を叩かれるのはごめんだ。
「二人とも、あのジェラート屋に寄ってもいいかな。アルコル師匠……ごほん、コルアルさんにお土産を買おうと思うんだ」
「いい案ね。きっとあの子も喜ぶわ」
「アイスが好きでいらっしゃいますものね」
屋台の前に行く。
いくつか看板が置かれており、メニューのイラストが描かれていた。
何個かアイスを重ねるのがおすすめらしい。
ガラスケースの中には、色とりどりのジェラートが見える。
おいしそうだ。
アイスなら何でもよさそうだが、適当に組み合わせるとそれはそれで怒られそうだ。
……店員さんに聞いてみるか。
四段重ねのアイスを頼むことにして、味はお任せに決めた。
「すみませーん、四段重ね一つください。味はお任せにしたいんですけど……」
「かしこまりました。柑橘類の組み合わせがおすすめで……って、ディアボロ君!?」
聞き覚えのある声がして頭を上げる。
店員さんの顔を見ると、俺もまた驚いた。
いつもは垂らすだけの長い黒髪を、今日はポニーテールにしている。
それだけで地味な印象が明るい印象になった。
「え……デ、デイジー!?」
まさかのデイジーが店員さんだった。
彼女に気づくと、シエルとマロンも驚きの声を上げる。
「あら、デイジーさん、こんにちは」
「ここはあなたのお店なんですか?」
「いいえ、少しでも学費の足しになるようにバイトさせてもらっているの」
みんなで偉いなぁ~と感心していたら、デイジーの後ろからふくよかな女性が現れた。
店主のようだ。
「あなたたちはデイジーちゃんのお友達かい? こりゃあまた可愛い子たちだね」
友達の好ということで、四段重ねのところを五段重ねにサービスしてくれた。
店主の女性はアイスにも保冷魔法をかけてくれる。
デイジーに手を振り、俺たちは寮へと帰る。
なんだかんだ楽しい一日だったな。
□□□
寮に帰宅し、まずみんなでアルコル師匠の部屋を訪れた。
ノックするとボサボサ頭の不機嫌そうな少女が出てくる。
休日はだいたい、アルコル師匠は惰眠を貪るのだ。
俺を見ると視線が一段と厳しくなった。
「なんじゃ……ディアボロか。ワシの睡眠を邪魔するとはいい度胸……」
「アルコル師匠……ごほん、コルアルさん。お土産を買ってきました。五段重ねのジェラートです」
「ほぉ、クソガキのくせに気が利くのぉ。ありがたくいただいてやるぞよ」
アルコル師匠は偉そうにアイスを受け取る。
ペロペロ舐めながら部屋に戻った。
「じゃあ、俺たちも部屋に行くか」
「お風呂の前に晩ご飯を食べましょうよ。お腹空いちゃった」
「その後は買ってきたものを見せ合いましょう」
晩ご飯を食べ、シエルとマロンのファッションショーを見て、夜は徐々に更ける。
明日からの忙しい日々に向けて、英気を養うことができた。
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