第65話:ソフィーの話
「お、俺に話?」
「ああ、そうだ。いずれお前たちの学園から伝えられる話だろうが、一足先に直接話したかったんだ」
ソフィーは火の勢いを調整しながら言う。
こんな物静かな表情は、ゲームの中でも見たことがない。
「ソフィーがそこまで言うなんて気になるな」
「話とは……古代遺跡グリンピアについてだ……お前たちも名前くらいは知っているだろう」
「ああ、もちろんだ」
「知っておりますわ」
思ってもみなかったことを言われ、俺とクララ姫は驚く。
――古代遺跡グリンピア。
エイレーネ王国の南端にある古代の大迷宮だ。
深部には、五大聖騎士の伝説について記された石版が納められている。
ゲームでも重要な場所だ。
今まで何度も調査隊が派遣されたが、未だめぼしい成果は上げられていない。
道は迷路のように入り組んでおり、罠も多く、生息するモンスターも外界の個体より強いためだ。
特にモンスターは、外界とランクが同じでもレベルが10くらい高い。
外殻が金属のように硬く、それこそ弾丸のように飛翔して人間を襲うスティール・バグ、七つの目で未来を先読みする七つ目オオカミ、霊気をまとったブレスで骨まで腐らせる霊気猫……。
どれも討伐に難儀する厄介な敵だ。
前世で何回もやり直した記憶があるな。
フォルトが表舞台から姿を消した今、聖騎士の伝説にも変化が起きていないのか気になるところだ。
「近々、オートイコール校とエイレーネ聖騎士学園が、合同で調査に乗り出すらしい。もちろん、教員だけじゃなく生徒も調査に赴く。特別演習として、数名の生徒が選ばれるようだ」
「そうなのか? 結構重要な情報じゃないか。ソフィーはよく知っているな」
「学園ではまだ噂にもなっていませんわ」
クララ姫の言うように、グリンピアの調査なんて初耳だ。
俺たちが言うと、ソフィーはドヤ顔で告げた。
「校長が話しているのを偶然聞いたんだ。私は校内の散歩が趣味だからな。これぞ一石二鳥というヤツだ」
「そ、そうか……」
「それは結構なご趣味で……」
ソフィーのまた新しい一面が見えた。
そこまで話すと、彼女はいつものキリッとした表情に戻る。
「おそらく、調査団は優秀な生徒が選ばれる。私もメンバーの中にいた。ディアボロ、お前も確実に選ばれるだろう。もし選ばれたら……絶対に来いよ」
彼女の瞳は真剣そのものだ。
俺もまたソフィーの瞳を真正面から見る。
「ああ、もちろんだ。選ばれたら絶対に行く」
「ディアボロ、私はもう一度お前と真剣に勝負がしたい。グリンピアの調査はよい舞台となるだろう」
「そんなの願ったり叶ったりだな。俺だってソフィーとはまた戦いたいと思っていた」
そう言って、ソフィーは右手を差し出した。
俺もまた、彼女の手を固く握る。
ソフィーはゲームのヒロインだが、良きライバルでもあった。
学校が違うこともあり、普段から会うことは少ない。
それでも、違う学校に切磋琢磨し合える大事な仲間がいると思うと、日々の生活に張り合いが生まれる。
ソフィーはクララ姫を見ると、彼女にも握手を求めた。
「王女クララ、私はお前とも戦いたい。宣戦布告だ」
「喜んでお受けしますわ」
「それでこそ、この国の王女だな」
クララ姫もソフィーの良いライバルになりそうだ。
予期せぬビバークとなってしまったが、貴重な時間を過ごせてよかった。
握手を交わした後、外を見たクララ姫が言った。
「あら……お二人とも外を見てください。吹雪が止んだようですわ」
「なに、本当か?」
「そういえば、吹雪の音も聞こえなくなりましたね」
俺たち三人は、かまくらの入り口から顔を出す。
知らぬ間に吹雪は止んでおり、青空が広がっていた。
どうやら、話しているうちに吹雪は収まったらしい。
ソフィーは真っ先に外に出ると、手を広げて思いっきり深呼吸する。
「……くぅぅっ、吹雪いた後の空気は冷たくてうまいな。ほら、ディアボロと王女クララも深呼吸してみろ」
「よし、わかった……っはぁ、めちゃくちゃスッキリするなぁ」
「こんなに清々しい空気は下界じゃ味わえないですわね」
クララ姫と一緒に爽やかな空気を堪能する。
元より、山の空気は澄んでいる。
雪が汚れを地面に落としたこともあり、一段と爽快感があった。
「いつもこんな天気だといいのに……って、あれ? ソフィーは?」
「ソフィーさん?」
気がついたら、いつの間にかソフィーが姿を消していた。
どこかへ隠れたのか?
いや、いた。
30mほど向こう側にソフィーはいる。
そして、その手元の雪には銀の……。
「「ま、待って!」」
一瞬の隙をつかれ、探し求めていた銀のフラッグを奪われてしまった。
ソフィーは笑いをかみ殺しながらこちらへ来る。
銀のフラッグを見せびらかしながら。
「油断したな、ディアボロに王女クララ。そんなんでは聖騎士を目指すなど夢のまた夢だぞ」
「「ぐぎぎ……」」
俺とクララ姫は悔しさを噛みしめる。
すっかり彼女のペースに乗せられてしまった。
[ソフィー・バリンスカ、パオラ・ロッコのチームが銀のフラッグを回収。登山演習を終了いたします。転送魔法でゲーナ山岳の麓に帰還しますので、その場で待機するように]
手の甲にあるエイレーネ学園の紋章からアナウンスが聞こえる。
十秒も経たずに、転送魔法の白い光に包まれた。
光が完全に視界を支配する前に、ソフィーの勝ち誇った顔が見える。
一位を逃しはしたものの、無事に演習を終えることができた。
□□□
「では、一位のチームを表彰します。見事一位を獲得したのは、ソフィー、パオラチームです! 見事、エイレーネ聖騎士学園の三連覇を阻止してくれました!」
「「うおおおお! いいぞー、ソフィー、パオラー!」」
麓の広場にオリーブ先生の声が響く。
試練の島にもいた、オートイコール校の先生だ。
パオラもまた女生徒で、騎士を思わせるポニーテールのキリッとした人だった。
ソフィーたちは同胞の生徒たちの歓声に笑顔で答える。
反面、我らがエイレーネ聖騎士学園はテンションが低い。
アプリカード先生も隅っこの方で不機嫌そうに拍手する。
我が校が負けると、彼女はとても悔しがるのだ。
「ディアボロさんっ!」
「は、はいっ!?」
突然、厳しい声で呼ばれた。
なんでぇ!?
「ソフィーさんから聞きましたよ! 銀のフラッグに気づかず、のんきに山の空気を楽しんでいたとか! 目標を前にして油断するとは何事ですかっ!」
「ええっ!」
そのまま、いくらか小言を言われる。
クララ姫がまったく怒られないのは、なんとなくわかっていた。
それにしてもあんまりだ。
俺の心境などいざ知らず、アプリカード先生は高らかに宣言した。
「転送魔法で学園まで帰るつもりでしたが、歩きで帰ります! 夜の生活ばかり熱心な方がいるようですからね! 少しでも鍛錬します!」
いっせいに非難の目が突き刺さる。
俺に。
ゲームでは、勝っても負けても転送魔法で帰してくれた。
キビキビ歩き出すアプリカード先生と、だるそうに後に続く生徒たち。
心の中で、俺は謝るしかなかった。
――すまん、みんな。……シナリオ、また変えちまった。
二日ほど歩き、学園に帰宅。
寮に入った瞬間、ひと息吐く間もなく、今度はシエルとマロンに捕らえられた。
「さて、ディアボロ。ソフィーさんとのビバークについて聞かせてもらおうかしら」
「ソフィーさんから、ディアボロ様に甘えられて大変だったと聞きました」
「え」
風呂場へ連行され、雪山で冷え切った身体を互いに暖める。
翌日アプリカード先生に怒られるだろうが、俺にはどうしようもなかった。
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