第63話:冬山
「視界が真っ白になってしまいましたわ」
「完全にホワイトアウト状態ですね」
吹雪は時間が経つにつれ勢いを増し、俺とクララ姫を白銀の世界に閉じ込めた。
当然の如くとても寒い。
冬山用の防寒具と装備を学園から支給されているものの、骨の芯まで冷え切る。
地面には膝下近くまで雪が降り積もり、立っているだけで体力を奪った。
「こんなに吹雪いていては見つかる物もみつかりませんわ」
「ええ、下手に動かない方がいいでしょうね。どこか少しでも休めるそうなところを探しましょう」
登山演習の目的は、“ゲーナ山岳”のどこかにある銀色のフラッグを回収すること。
いたってシンプルなルールだが、結構難しい。
頂上だったり、はたまた麓だったり……ゲームではいつもランダムだった。
性格の悪いことに、雪の中で銀色は見にくいのだ。
赤とかピンクだとわかりやすいのに。
白じゃないのが不幸中の幸いか。
期限に制限はなく、誰かのチームが見つけるまでこの演習は無限に続く。
食料や暖を取る燃料なども、自給自足が求められた。
前世では敢えてダラダラとプレイすることもあったが、今世ではさすがに真面目にやるぞ。
なぜなら死ぬから。
クララ姫の手を引き、前方へと足を踏み出す。
吹雪く前に森があるのを見た。
ふきっ晒しの場所にいるよりは幾分かマシなはずだ。
クララ姫は手で顔を抑えながら呟く。
「シエルさんとマロンさんは大丈夫でしょうか……いや、他のみなさんも……」
「きっと大丈夫です。学園の生徒たちはみな優秀ですから」
「そうですわね。それに、まずは自分の身の安全を確保しなければっ……!」
クララ姫はグッと拳を握る。
大丈夫と言いつつ、俺もみんなが不安だった。
シエルはマロンと同じチーム。
まぁ、でもマロンには火魔法があるから平気か。
重力魔法も応用すれば雪をどかしたりできそうだ。
とは言え、今は自分たちの心配だ。
森を目指せ。
森に行けばクララ姫の魔法も強い効力を発揮する。
ずしりずしりと歩いていると、雪に混じって黒い影が見えてきた。
「クララ姫、もう少しみたいですよ。頑張りましょう」
「森の傍から離れないよう探していたのが功を奏しましたわね」
俺たちは森目指して進む。
“ゲーナ山岳”は雪山だから、遭難の心配は常に念頭にあった。
だから、目印になる場所をチェックしなだらの探索プランだ。
ふと、ゆらりと黒い影が動いた気がする。
きっと、風で樹木が揺れたのだろう。
すごい吹雪だしな……いや、違う!
納得したのもつかの間、次の瞬間には樹木じゃないとわかった。
雪風に混じり、微かに獣の臭いもする。
とっさにクララ姫を抱いて横に飛んだ。
「危ない、避けてください!」
「モ、モンスター!?」
間一髪で爪の一撃を避けた。
今や黒い影は、俺とクララ姫を取り囲むようにして周りを歩く。
吹雪の隙間から影の正体が見えた。
こいつらは雪嶺熊。
ここ“ゲーナ山岳”を縄張りにするBランクの熊型モンスターだ。
雪に擬態するよう全身が白く、強靭な爪と牙は上質な鉄すら容易に切り裂く。
筋肉が詰まった身体は鋼のように硬く、しっかりレベルを上げていないと返り討ちにされる強敵だ。
ざっと数えて四匹いるな。
吹雪のせいで接近に気づかなかった。
だが、俺は焦ってはいない。
隣のクララ姫もだ。
「休息はこいつらを倒してからですね」
「はい、一緒に倒しましょう、ディアボロさん。目標は無傷の勝利です!」
「もちろんです!」
困難は自分の手で打ち砕くこと。
“エイレーネ聖騎士学園”で過ごすうち、自然とそういった思考が身に着いた。
フォルトの件もあり、俺たちはみな強くならなければならない。
クララ姫を見ると、彼女はコクリとうなずいた。
「《蔦刃の舞》!」
分厚い雪の層を突き破り、地面から何本もの蔦が出現した。
どれも先端は刃のように鋭い。
雪嶺熊の一体……ちょうど目の前にいるヤツに猛スピードで向かう。
目や口を突き破って体内に侵入。
内側から全身を突き破る。
断末魔の叫びとともに、真っ白な雪原が赤く染まった。
「さらにもう一体いきますよ!」
必殺の蔦が死んだ雪嶺熊の右側にいたヤツに飛びつき、同じようにして倒した。
……どうやら、クララ姫はグロテスクな戦いが好みのようだ。
『『ゥルァッ!』』
一瞬の沈黙の後、残りの雪嶺熊が二体同時に襲い掛かってきた。
右からは大きな爪が、左からは何本もの牙が迫りくる。
ぼんやり眺めている暇はないぞ、ディアボロ。
今度は俺の番だ。
魔力を手に集中し、ボクシングのようなファインティングポーズをとる。
雪嶺熊に向けて、勢い良く拳を二回突き出した。
「《闇の殴撃》!」
拳の形をした魔力が雪嶺熊に当たると、勢い良く吹っ飛ばした。
雪嶺熊は二体とも後方の木に当たり動かなくなる。
無事に倒したようだ。
普通に魔力弾を放つより消費量は多いが、その分威力が高い。
ピンポイントで身体の一部を狙えるから応用力もありそうだ。
新技も少しずつ増やしていこう。
俺たちは周囲を警戒するが、新手の気配はない。
「お見事ですわ、ディアボロさん。また新しい魔法が使えるようになったのですね」
「いえいえ、クララ姫こそすごいじゃないですか。蔦が剣みたいでした」
「これでも陰では特訓を重ねているんですよ」
うふふと笑うクララ姫と会話を交わす。
突然の戦闘だったが、無事に退けられてよかった。
心なしか、吹雪も弱まってきた気がする。
「では、森の方に進みましょうか。あと少しですよ」
「そうですわね。雪嶺熊の死臭に別のモンスターが寄ってくるかもしれないですわ」
「森の中は安全だといいですね」
歩き始めたとき、不意にゴゴゴ……という地鳴りが聞こえた。
地面が揺れる感覚とともに、山の上方が白いもやに包まれる。
クララ姫が悲鳴に近い叫び声を上げる。
「ディ、ディアボロさん、大変です!」
俺たち目掛けて、大量の雪崩が迫ってきた。
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