第62話:登山演習
「ディアボロさん……一段と吹雪いてきましたね」
「クララ姫、俺から離れないでください。この吹雪じゃ、少し離れただけで完全に見失ってしまいます」
俺はクララ姫の手を強く握る。
入り乱れるように雪が舞い、数m先もろくに見えない。
冷たい雪は容赦なく俺とクララ姫の体力を奪う。
体の芯まで凍え、肌は痛いほどに寒い。
雪山の苦しさを、まさしく身をもって体感していた。
どうしてこんな厳しい山にいるかというと、俺たちは今、登山訓練の真っ只中だった。
◆◆◆
「皆さん、おはようございます。今日は大事なお知らせが二つあります」
教室にアプリカード先生の声が響く。
暗黒街での調査が終わった後も、学園生活はいつも通りだった。
授業を受け、訓練を積む。
何の変哲もないが尊い日常だ。
大事なお知らせの一つは、きっとあの件だろうな。
「まず、退学処分となったフォルト君についての話です。収監予定でしたが、道中の馬車から脱走しました」
「「フォルトが……!?」」
アプリカード先生の言葉を聞き、教室はどよめく。
やはり、そうか。
暗黒街での調査を報告した後、注意喚起を含めてフォルトの話は生徒たちにも伝えると、クルーガー先生から聞いていた。
「先生、脱走ってどういうことっすか。あいつは今どこにいるかわかってんすか?」
バッドが手を挙げて質問する。
こういうときでも物怖じしないのはさすがだ。
アプリカード先生は静かに首を振りながら言う。
「わかりません。現場には重症の衛兵と、破損した護送車しかありませんでした。衛兵たちは頭に強い衝撃を食らったようで、脱走前後の記憶がない状況です」
そのまま、アプリカード先生は事の経緯を説明してくれた。
罪人は監獄へ収監される前に、一度街の収容施設に運ばれるらしい。
襲撃はその道中。
衛兵は手練れの者たちが揃っていたが、襲撃者は彼ら以上の実力だった。
おそらくかなりの強者、しかもフォルト君と無関係とは考えにくいと……。
アプリカード先生の話を聞くと、バッドはおろか他の生徒たちも顔が引き締まった。
「みなさん、“魔族教会”という名前は聞いたことがありますか?」
「「ま、“魔族教会”……?」」
みんなは疑問の声を出す。
当たり前だが、知っている人は一人もいなかった。
アプリカード先生は魔王の復活を目論む新興組織……という旨を話す。
その存在は知らなくても、名前を聞いただけでどんな組織かわかる。
案の定、教室は硬い空気で包まれる。
「“水葬の暗黒街”と呼ばれるペル・ペリドに“魔族教会”の支部があるという情報を得、学園は潜入捜査を計画しました。そして、今回の調査を遂行したのはレオパル先生とシエルさん、そしてディアボロさんでした」
俺が酒場で悪漢を倒したことや、《闇迷彩》を使ってアジトの廃れた教会に侵入し、フォルトの痕跡を見つけたことなどなど……。
アプリカード先生の話に、教室中がざわめく。
みんな、一斉に俺とシエルを見た。
「今回もディアボロか。あんないつも最前線に行くヤツ初めて見たよ」
「相変わらず努力を怠らない男だ。知らないうちに色んな魔法が使えるようになってる……」
「シエルさんも伯爵令嬢なのに暗黒街に行くなんて度胸あるよな」
前から後ろから、「おお~」、「すげぇ~」といった声が聞こえる。
これまで悪目立ちしないよう細心の注意を払ってきたが、そうもいかなくなってきた。
今では学園内を歩くだけで、上級生からの注目も集めるほどだ。
すれ違うたびこそこそと噂される。
「また、フォルト君と関連は不明ですが、ゾゾネ刑務所が謎の集団に襲撃を受けた……という報告が入ってきました。囚人たちは全員脱走。消息不明です。学園周辺は安全だと思いますが、今まで以上に十分注意してください」
ゾゾネ刑務所を襲ったのは“魔族教会”……だと俺は思っている。
概ね、先生たちも同じ考えのようだ。
もしそうだとすると、“魔族教会”は大幅に戦力を増強したことになる。
学園としても早急な対策が求められていた。
「では、二つ目のお知らせに移ります。“魔族教会”やゾゾネ刑務所の件などを踏まえ、例年より早く“オートイコール校”との合同演習を行うことが決まりました。“ゲーナ山岳”での登山演習です」
話は変わり、実習の連絡となった。
【エイレーネの五大聖騎士】の世界にも四季がある。
今は秋の始まり。
身体を焼くような猛暑は過ぎ去って、徐々に風が涼しくなってきた。
一年の内で一番快適な季節だ。
例年、“ゲーナ山岳”での登山演習は冬に行われる。
季節が早いので安心できそう……ではない。
“ゲーナ山岳”は年中吹雪が吹き荒れる厳しい山で有名だった。
「登山演習は全員参加ですので、みなさん気合を入れるように。基本的に二人一組です」
シナリオが少しずつ変わってきている。
改めて実感し緊張するわけだが、俺のやるべきことは変わらない。
精進を重ね強くなり、みんなの笑顔を守ること。
「マロン、勝った方がディアボロを独り占めすることでいいわよね?」
「もちろんでございます、シエル様」
俺の両隣では、いつものように勝手に事が進む。
「では、チーム分けを発表します。パオロ・スタラーチェ、デリア・パパレオ、ロベルト・マリガン……」
そうか、またソフィーと会うんだな。
どれくらい強くなっているのか、今から楽しみだ。
チーム分けを聞きながら、俺は登山演習へ向けての気持ちを一段と強くする。
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