第6話:マロンの病気を治す
修行を初めてから二ヶ月も経った頃。
とうとう魔力ボールを10個まで乗せられた。
この頃になると、アルコル師匠も俺をクソガキとは呼ばなくなっていた。
相変わらず尻を叩かれることはあるが、認められたようで嬉しい。
ステータスもまた、色々とぶっ飛んでいた。
【ディアボロ・キングストン】
性別:男
年齢:14歳
Lv:45
体力値:1500
魔力値:8000
魔力属性:闇(解放度:★10)
称号:超真面目な令息、給料上げてくれる方、ディアボロ、スパンキングボーイ、すごい努力家、重い想い人
やっぱり、努力っていいな。
本当に気絶しそうになりながら修行したからな。
頑張った達成感があった。
ステータスだって、ラスボスとはいかないまでも、中ボスとか大ボスレベルだ。
しかし、自分の名前が称号なのはどうなんだ?
いや、そんなことよりも……。
「アルコル師匠、回復魔法が使えるか試してもいいですか?」
「ああ、いいじゃろう。しかし、最初に攻撃魔法を使いたいと言わないのが不思議じゃな。闇属性といったら、真骨頂は攻撃魔法じゃが」
「いや、まぁ、いろいろありまして」
“超成長の洞窟”から外に出る。
まずは自分の身体に向けて使ってみるか。
ちょうどいい具合にボロボロだ。
念願の闇属性の回復魔法……どんな感じかな。
「《闇の癒し》!」
俺の全身が淡い黒の光に包まれる。
呪いだとかそういう怖い雰囲気はなく、優しげな光だ。
なんていうか、こう……お風呂に入っているような心地よさだな。
全身にあった細かい傷が消える。
疲労感もなくなり、活力があふれてくる。
おまけに、尻の痛みもキレイサッパリと消え去ってしまった。
「すげえ! 本当に回復できましたよ! 回復魔法が使えました! うおおおお!」
天に向かって拳を突き上げる。
ゲームではちょいちょいと経験値を貯めるだけだったが、実際にやるとこんなに大変なんだな。
困難を乗り越えた分、余計に嬉しい。
一人で感動しきりだ。
アルコル師匠はというと、ただただ呆然と俺を見ていた。
調子にのるな、とまた尻を叩かれるのかと思ったが違うらしい。
俺の前に来たかと思うと、静かに右手を出してきた。
「ディアボロ、貴様はワシが思っている以上の人材だったようじゃ。ここまで実力が突出しているとは思わなかった。……褒めざるを得ないの」
「アルコル師匠……!」
「貴様はワシの一番弟子じゃ」
固い握手を交わす。
最初はどうなることかと思ったが、この人についてきて本当に良かった。
「ようやく……ようやく達成できましたっ! これもアルコル師匠のおかげです!」
「まぁ、それはそうじゃの。……そうか、ディアボロが成長できたのは、100パ―セントワシのおかげというわけじゃ! やっぱり、ワシはすごいんじゃ! ヒャーイヒャイヒャイ!」
褒めたかと思いきや、次の瞬間にはアルコル師匠はヒャイヒャイと笑い出した。
まぁ、いつもの流れなわけだが、本題はこの後だ。
――マロンの病気を治さなければ。
自然と表情が硬くなる。
ついに、断罪フラグと直接戦う瞬間が来た。
ヒャイヒャイ笑うアルコル師匠を連れ、俺たちは離れに向かう。
マロンはちょうどラウームと一緒に、庭の草木へ水をやっていた。
俺を見つけるとマロンは笑顔になるが、ラウームは相変わらず表情が厳しい。
いや、無表情といった具合か。
マロンは嬉しそうにパタパタと駆け寄ってくる。
「お帰りなさいませ、ディアボロ様。今日の修行は終わったのですか? さっそくお風呂の支度を……けほっ、こほっ」
「ほら、あまり無理するなよ。まだ完全に治ったわけじゃないんだから」
「も、申し訳ございません、ディアボロ様……こほっこほっ」
マロンの体調は浮き沈みの経過をたどっている。
一時はよくなったものの、日によっては咳がたくさん出てしまう。
俺もなるべく気遣うようにしているが、やはり完治にはまだ程遠い。
特に、走ったり運動すると、こほこほと咳き込んでしまうのだ。
病気に苦しんでいる彼女を見ていると、前世の記憶が思い出される。
好きに走ることもできない。
病の苦しさは俺が一番よく知っているつもりだ。
「マロン、ラウーム、朗報がある。頑張って修行した結果、回復魔法が使えるようになったんだ」
「誠でございますか、ディアボロ様! あぁ……毎朝、毎昼、毎夜、お祈りを捧げた甲斐がありました!」
マロンはすぐに喜んでくれたが、ラウームは真実か疑っているようだ。
ジッとアルコル師匠を見ている。
「なに、そんなに疑わんでもディアボロの言っていることは真実じゃよ。ワシですら習得できなかった回復魔法を習得しおった」
「なんですと……?」
「だから、マロンの病気を治させてほしいんだ」
俺が言うと、ラウームはマロンの前に立ちはだかった。
「ど、どうしたの、お父さん?」
「……ディアボロ様、申し訳ございません。それでも、マロンの身体を任せるわけにはいきません。もしマロンに何かあったらどうするのでしょうか」
「ちょっと、お父さん! ディアボロ様は毎日必死に修行されているんだよ!」
マロンに服の袖を引っぱられても、ラウームは表情を崩さない。
娘を守りたいという、父親の意思が伝わった。
元より、俺だって無理矢理回復魔法を使いたくはない。
「頼む……この通りだ。俺はどうしても、マロンの病気を治したい。彼女に元気になってほしいんだ」
頭を下げて必死に頼み込む。
俺の信頼がないのは、今までの行いのせいだ。
彼は少しも悪くない。
しばし沈黙が過ぎた後、ラウームは静かに言った。
「そこまで仰るのなら……」
渋々と脇にどき、マロンへの道を空けてくれた。
「ありがとう、ラウーム」
「何かあったらすぐ公爵様に報告いたしますが」
「もちろんだ」
マロンはいつにも増して、緊張した様子で佇んでいる。
安心させるよう、彼女の肩に手を乗せた。
「マロン、すぐ終わるからな。何もしなくていいぞ。リラックスしていてくれ」
「は、はい」
ドキドキした表情のマロン。
俺も静かに深呼吸し、回復魔法を唱えた。
「《闇の癒し》!」
即座に、マロンの身体を黒い光が覆い始める。
いい感じだ。
俺が自分に対して使ったときと全く同じ光景だった。
ラウームが緊張した様子で話しかける。
「ど、どうだ、マロン。苦しくないか?」
「うん、全然問題ないよ。むしろ、お風呂に入っているような気持ちよさ……んんっ! ……あぁあ~!」
突然、恍惚とした嬌声を上げ、マロンはなまめかしい表情で身体をくねらした。
しかも、頬が赤く照っており非常に艶っぽい。
え、え、え……なにこれ。
人に使うとこんな感じになるの?
ラウームの顔は途端に彫刻のように硬くなる。
俺はどっと冷や汗をかく。
「……ディアボロ様?」
「ま、待ってくれ! これは違うんだ! これは違くて……!」
「っ……ああ~ん!」
ひと際大きな喘ぎ声を上げ、マロンは静かになった。
落差が激しく、かなり不安になる。
「だ、大丈夫か、マロン?」
「……はぃい! なんだかすごく元気になりましたぁあ! 今ならいくら走っても疲れない気がしますぅう!」
「あっ、ちょっ……マロン!」
いきなり、マロンは全速力で庭を走り出した。
そ、そんなに走ったら咳が……!
俺とラウームはヒヤリとしたが、マロンが咳き込む様子はない。
以前なら、十秒も経たずに動けなくなっていたのに。
「お父さーん! 私、元気になったよー! ディアボロ様が病気を治してくれた! ディアボロ様ー! 本当にありがとうございまーす! こんなに走れるなんて夢のようです!」
マロンは走りながら、笑顔で俺たちに手を振る。
その光景を見ていると、じわじわと喜びがあふれてきた。
無事に……無事に、マロンの病気を治せた!
これで断罪フラグの一つを潰せたわけだ。
くぅぅぅ……! 素晴らしい達成感!
将来の不安が消えるのは、なんて清々しいんだ。
「ディアボロ様、私にもその回復魔法を使ってください」
心の中で喜んでいたら、ラウームが告げた。
「え、ラウームも? どこか具合悪かったっけ?」
「五十肩がございます。ディアボロ様の回復魔法をこの身でも体験したく思います」
原作にない裏設定の提示。
きっと、ディアボロが本当に治したか確かめたいのだろう。
そういうことなら断る選択肢などない。
「わかった。じゃあ、いくぞ。《闇の癒し》!」
「……んっ……あぁんっ! ……あぁぁあ~!」
ラウームの嬌声が天に昇る。
彼もまた両手で身体を抱えてはくねらしていた。
それを見ては、ヒャイヒャイと笑うアルコル師匠。
正直なところ、おじさんの恍惚とした表情を見せられ、少々複雑な気持ちにはなった。
「ど、どうだろうか、ラウーム。身体の調子は?」
「……ぅぅぅぅう! 素晴らしく元気になりましたぁあ! これが……! これが、闇属性の回復魔法なのですね! マロンの病気を治してくれてありがとうございますぅう!」
ラウームはお礼を叫んだ後、嬉しそうに体操を始める。
どうやら、元気いっぱいになったようだ。
安心すると同時に不安になる。
毎回こんな感じなのかな。
……いや、問題ないだろ。
きっと偶然が重なったんだ。
諸々大丈夫そうでホッと一息ついていたら、ランニングを終えたマロンが興奮しながら話しかけてきた。
彼女の顔に、もう白い布はない。
にっこりした笑顔が爽やかだった。
「ディアボロ様、本当にありがとうございます。おかげで身体がすこぶる元気になりました。こんなに空気をおいしく吸えるなんて、生まれて初めてでございます」
「いやいや、それなら良かった。マロンの笑顔が見られて、頑張った甲斐があったよ」
「なんだか……ディアボロ様のことを考えると身体が熱くなってしまいます」
マロンは頬を赤らめ、またもや身体をくねらす。
……本当に病気は治ったよな? 体調はもう問題ないんだよな?
俺はやはり心配になってしまうのであった。
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