第56話:学生らしい課題
「では……皆さん。今日は歴史の授業を行います……課題はエイレーネ王国の建国と五大聖騎士について……です」
教卓でぼそぼそと呟くのは、寝ぐせが跳ねた丸眼鏡の女性。
魔法学担当のサチリー先生だ。
今日はアプリカード先生の講義や模擬試験ではなかった。
“エイレーネ聖騎士学園”は実技形式の試験が多いが、もちろん座学もある。
シエルやマロン、クララ姫と一緒に、俺も頑張って勉学に励んでいた。
学園には五大聖騎士に匹敵する人材を育てる……という目的があるから、俺たちは魔法以外にも幅広い知識の習得を求められた。
ちなみに、彼女と恋仲になるルートはない。
「王国と五大聖騎士については……皆さんもご存じだと……思いますが……自分の手で調べると……一段と理解が深まり……ます……」
要するに、レポート発表みたいな授業かな。
日本だと嫌われ筆頭の課題だが、ここは目標の高い貴族が集う学校。
文句を言うヤツは一人もいなかった。
無論、俺もだ。
調べ物は学園付属の図書館で行うことになり、俺たち生徒は移動する。
適当な四人席を確保した。
右にはシエル、正面にはマロン、その横にはクララ姫。
彼女らの視線はさりげなくバチバチとぶつかる。
まるで実技試験みたいだな。
やる気があふれていて何より…………いや! ま、まさか、今回も……!
「……言っておくけど、一番高い点を取った人がディアボロを独り占めするんだからね」
「承知しております、シエル様。ディアボロ様を手に入れるため、図書館中の本を調べるつもりです」
「私も全力で取り組ませていただきますわ。王宮教育の本気を見せて差し上げます」
ふむ、当分疲れる夜が続くというわけか。
課題を進めながら、俺はこれまでの状況を整理し、今後の予想を立てることにした。
ちょうど、じっくり考えるのに適した環境だしな。
となると、一番の懸念点は……。
――ゲームのシナリオはどうなっているんだろう……?
ずっと気にかかっている。
フォルト君は表舞台から姿を消したから、シナリオを気にする必要はもうないと思っていた。
だが、クリスの件を考えると、まだイベントは生きていると考えるべきだ。
彼女は原作通りの場所に住んでいたし、取り巻く環境も同じだった。
つまり、イベントが生存しているということは、断罪フラグも生存……。
「……どうしたの、ディアボロ。首がもげそうなほどうなだれているけど」
「い、いや、何でもないんだ。そう、何でもない……」
言い聞かせるように呟く。
いつになったら将来安泰と言えるのか。
さらに、断罪フラグもそうだが、それより心配な点がある。
――“魔王”の復活。
その名の通り、全ての魔族を支配する絶対王。
数百年前、人類の英雄“五大聖騎士”に封印されたが、徐々に効力は弱まっている。
主人公と仲間たちは終ぞ、魔王と対峙……。
俺が生きているゲーム世界、【エイレーネの五大聖騎士】の一番大きな山場だ。
だが、問題が一つある。
魔王の復活はランダムなのだ。
いや、ランダムというと語弊があるか。
どうやら複雑なアルゴリズムで決まるらしく、いつ復活するのかまったく予想もつかない。
学園のミニゲームやサブイベントが楽しくて、そればっかりやっていたらいきなり魔王が復活。
低レベルの主人公は何もできずあっさりゲームオーバー……なんて報告もあった。
――いつ魔王が復活するか、どうすれば復活してしまうのか、誰一人としてわからない。
それがこのゲームに、独特の緊張感をもたらしていた。
「じゃあ、ディアボロ。ちょっと席外すわね。一番書庫に行ってくるから」
「でしたら、私は二番書庫に行きます。隅から隅まで探しますよ~」
「私は三番書庫に行きましょう。良いまとめを作るには、良い資料が必要です」
彼女らの声で現実に戻った。
シエルたち三人は席を立ち、資料を探しに行く。
手元の羊皮紙を見ると真っ白だった。
片や、三人はもう半分以上埋まっている。
すっかり考え込んでしまったようだ。
課題は課題でちゃんとやらなければ。
将来の心配より、まずは目の前の課題だな。
俺もとりあえず資料を探すか。
前世の知識と照らし合わせてみよう。
書庫は一番から三番まであるが、どこも生徒たちでいっぱいだ。
しょうがないので、一番人気がない地下書庫に来た。
背の高い本棚が等間隔に10個ほど並ぶ。
適当に探すと、目を引かれるタイトルが見つかった。
――“五大聖騎士の伝承と伝説”……か。ちょうどいい。
魔王を封印した英雄たち。
彼らは“五大聖騎士”と呼ばれ、人々の尊敬を今も集めていた。
巨大な斧であらゆる敵を駆逐した老戦士、“終わりの斧”――ゲオルク。
一人で七属性もの魔法を操った大賢者、“叡智の結晶”――トリスタン。
どんなに遠くからでも必ず心臓を撃ち抜いた弓の名手、“心臓撃ちの弓”――シャルロット。
燃え盛る拳で湖すら干上がらせた至高の拳闘士、“烈火の宝拳”――リリヤ。
そして、類まれな聖属性を扱い彼らの導き手となった聖騎士、“清浄の守り手”――ヘルト。
簡単に言うと、勇者パーティーみたいなもんかな。
この辺りの伝承は原作通りか……。
他にも調べてみようと本棚を探っていると、後ろから可憐な声が聞こえた。
「ディ、ディアボロ君。あなたも資料探しに来たの?」
振り返ると、デイジーが立っていた。
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