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第51話:行方不明の冒険者パーティー

「「えっ、行方不明がいるんですかっ!?」」

「はい……帰還予定日をもう3日も過ぎていまして……生きているのかさえわからない状況です……」


 ドロシーさんは沈んだ顔で話す。

 反面、ギルドは相変わらず賑やかだ。

 俺たちはそこそこ大きな声で驚いてしまったのだが、周りの冒険者たちは気にも留めない。

 冷たい連中のような印象を持ちがちだが、冒険者という特性を考えると不思議でもなかった。


「やっぱり、捜索隊は結成されていないんですか」


 俺がそう尋ねると、ドロシーさんは寂しく言った。


「ええ……皆さんもご存じの通り、クエストは基本的に自己責任ですので……わざわざ行方不明者を捜索したりしないのです」


 ギルドは学校じゃない、ということなんだろう。

 冒険者は誰でもなれるし、経歴なんてものは不要だ。

 試験さえクリアすればいい。

 間近に夢を追えるロマンあふれる一方で、保証なんて何もないのも事実だ。

 たとえ帰れなくなっても、ダンジョンで何日も迷っても、ギルドは助けちゃくれない。

 ライセンスを取得した時点で、全て自己責任扱いにされる。

 だから、遭難した他パーティーの捜索などは、仲の良い有志が自発的に向かうことが多かった。

 クエストの達成だけじゃなく、横の繋がりを作ることも大事というわけだ。

 最初、シエルとマロンはその方針に反発を抱いていたが、クエストをこなすうちに少しずつ受け入れていた。


「俺たちでよかったら探しに行きますよ」


 頼まれる前に口をついて出た。

 シエルとマロンも、こくりとうなずいている。

 命の危機にある人たちを放っておくことはできない。

 俺たちの反応を見て、ドロシーさんの瞳がウルウルと潤む。


「ありがとうございます……ディアボロさん、シエルさん、マロンさん……。あなたたちは本当にお優しい方々ですね」

「いえいえ、困っている人を……しかも、死ぬかもしれないような人を助けるのは当たり前のことですから」

「ディアボロの言う通りだわ。そもそも、私たちは人を救う力を身に着けるために学園へ通っているわけでもあるし」

「断る理由などありません。その冒険者たちは絶対に助けてみせます」


 俺たちが力強く言うと、ドロシーさんはもう泣きそうだった。

 二十代半ばと年上なのだが、良い意味でとても感情豊かな人なのだ。

 そのまま、彼女は涙を拭いながら話を続ける。


「私がギルドに勤めたときに、ちょうど冒険者となった子たちで……こう言っては大げさですが、見ていると故郷の弟や妹を思い出すんです」

「「そうだったんですか……」」


 きっと、年の頃も近いんじゃないかな。

 ドロシーさんは面倒見の良い人だし、ずいぶんと心配していることがわかる。

 行方不明者の救出。

 生きているかはわからないが、死んでいるとも限らない。

 少しでも希望があるなら、それにかけるべきだろう。

 冒険者たちの名前や特徴などを聞き、準備を整えすぐに出発した。


□□□


「ここが冒険者たちの行き先か……」

「生きているけどいいけど……」

「ここまで来たら信じるしかありませんね……」


 ギルドから馬を走らせ小一時間ほど。

 俺たち三人は冒険者の目的地とされるダンジョンへと到着した。

 鬱蒼とした森の中、大きな口を開けるように来訪者を待ち構えている。


 ――ダンジョン、“睨みし者(グレアード)”。


 最深部は第六層。

 入口は洞窟のような場所だ。

 風が吸い込まれるような感覚を覚え、身体が自然と戦闘モードになる。


「入る前に冒険者たちの情報を確認しておこう」

「ええ、そうしましょう」


 ドロシーさんに貰ったメモをみんなで見る。

 冒険者パーティーは全部で三人。

 水魔法を駆使するリーダーの黒髪剣士――アラン君、巨大な盾と土魔法で仲間を守る茶髪の盾役――ライアン君、火魔法の遠距離攻撃で援護する金髪魔法使い――ジーンさん。

 みんなCランクのようだ。

 メモにはそれぞれの見た目や装備、魔法の特徴などが詳細に書かれていた。

 これだけ情報があれば、初対面でも判別できると思う。


「彼らが受けたクエストは、第三層での鉱石採取か……。依頼のランクはCだけど、イレギュラーモンスターに襲われた可能性もあるな」

「じゃあ、まずは第三層が目的地ね。それまでも、注意深く見ながら進みましょう」

「途中、ほかの冒険者パーティーにあったら何か知らないか聞いてみますか」

「捜索だが、俺にちょっと考えがあるんだ。犬を使う」

「「でございますか……?」」


 シエルとマロンは揃って首を傾ける。

 “オートイコール”校との親善試合で、ジャメルは水で生成した蛇を使って攻撃してきた。

 そのときから、俺も魔法で動物を生み出せないかと試行錯誤していたのだ。


「魔法で犬を生成して、臭いで探そうと思うんだ……《闇の暗黒犬(ダークネス・ハウンド)》!」


両手を地面にかざして魔力を込めると、黒い犬が現れた。

耳はピンッと立ち、見た目はボーダー・コリーのようだ。

シエルとマロンは喜ぶ。


「あら、可愛い犬」

「ディアボロ様にそっくりでございますね」

「そ、そうか……?」


 メモと一緒に、ドロシーさんから預かってきたアラン君のハンカチをかがせる。

 暗黒犬はクンクンと臭いをかぐ。

 うまくいくかはわからないが、手探り状態で進むよりは良いだろう。

 数分も経たず、ダンジョンへと進む。

 俺たちも馬を近くの木に繋ぎ、暗黒犬の後を追った。

 洞窟のような見た目に違わず、ごつごつとした道が続く。

 自然が作った小さな横穴などもあり、中をチェックしながら進む。

 暗黒犬は反応を示さず真っすぐ歩くので、入口周辺にはいないようだ。

 俺はすでにクエストを一つこなした後ではあったが、特段疲れてはいなかった。

 シエルとマロンも同様のようで、軽快な足取りだ。


「さっそく、学園での模擬試験が役に立ちそうだな」

「真面目に取り組んでおいてよかったわ」

「毎日の努力が大切ということですね」


 今話しているのは、あのダンジョン脱出試験についてだ。

 学んだことがさっそく活かされるのは、自分が誰かの役に立っているようでテンションが上がる。

 第一層は特段モンスターは見当たらず、すぐに第二層へ到達できた。

 地図を見る限り、第三層までの道は単純のようだ。

 一番太い道をまっすぐ進めばいい。

 この辺りからモンスターが増えるようだが……。


『『ブギャギャ……!』』


 そう思うや否や、横道から小ぶりのゴブリンが二匹現れた。

 手にはいつもの棍棒。

 俺たちを襲うつもりだ。


「《炎の大熱線(ヒート・レイ)》……あびゃあああ! ゴブリンの脳が燃えてるぅぅぅ! いい匂いぃぃい!」

「《抗重力(アンチ・グラビティ)ボール》……ふむ、やっぱり重力を反転させると体が弾けるのね」


 棍棒を振りかぶることもなく、頭を熱線で打ち抜かれ、重力を反転させたボールに閉じ込められ身体が破裂した。

 その後も進むたびモンスターが襲い掛かってくるが、シエルとマロンに蹴散らされる。

 暗黒犬の戦闘力も高いと思われるが静観していた。

 モンスターの死骸やポーションの空き瓶なんかは落ちているものの、遭難者は見つからない。

 他の冒険者に会うこともなく、第二層も踏破。

 階段を下ると、アラン君たちの目的地である第三層に到達した。

 このダンジョンは深く進むほど広くなるようで、上層階にはない広場みたいな空間に出た。

 奥には三本の分かれ道が。


「どれに進めばいいのかしら」

「結局、他の冒険者に出会うことはありませんでしたね」

「うむ……一度地図をチェックしてみよう」


 地図を見ると、それぞれの道は別の場所に繋がるようだ。

 途中で合流することもない。

 となると……。


「ここは暗黒犬に頼るしかなさそうだな」

「冒険者たちの臭いはわかるかしら」

「どうか見つけ出してくださいっ」


 暗黒犬はしばしの間鼻をひくつかせていた後、真ん中の道に向かって走りだした。


「俺たちも急ぐぞ!」

「ええ(はい)!」


 全速力で駆ける。

 徐々に静けさが消え、代わりに騒然とした音が少しずつ満ちていく。

 薄っすらと響く叫び声や金属が接触するような甲高い音……これは戦闘の音だ。

 自然と顔がこわばる。

 シエルとマロンもまた、険しい表情だ。

 数分も走ると広けた空間に出た。

 すかさず、マロンが火魔法で明かりを灯す。

 部屋の右奥に、モンスターに襲われている人間たちがいた。


「ク……クソッ! 倒しても倒してもキリがない……!」

「アラン! ジーンの体力が限界だ!」

「わ、私のことは気にしないで……」


 アラン君たちだ!

 彼らを襲っているのは、トキシン・スパイダーの一団。

 個体のランクはDだが、数が増えると脅威が増す。

 糸と毒で敵の身動きを止めるのだ。

 見たところ十匹はいる。

 すぐにでも助けなければ。


「《闇・浮遊ダーク・フローティング》!」

『『キシャッ……!?』』


 トキシン・スパイダーを宙に浮かべる。

 こいつらは体液にも微弱な毒が含まれているので、なるべくアラン君たちから離すのだ。

 そのまま、反対側の壁に叩きつけて倒した。

 アラン君たちは力尽きたように、がくりと崩れる。


「大丈夫か!?」

「「あ、あなたたちは……?」」

「ギルドから助けに来たのよ!」

「ドロシーさんに皆さんが戻ってこないと聞いたんです!」


 アラン君たちは糸と毒で身体がボロボロだ。

 シエルが重力魔法で糸だけを浮かせ、マロンが火魔法で燃やす。

 瞬く間に彼らの身体は自由になった。


「「あ、ありがとうございます……まさか、助けに来てくれるなんて……」」


 疲労と怪我で辛いだろうにお礼を言ってくれた。

 無論、これで終わりではない。


「すぐ怪我も毒も癒すからジッとしていてくれ……《闇の癒し》!」


 いつもの黒くて淡い光がアラン君たちを包む。

 彼らの傷はどんどん治る。

 ああ、よかった。

 やはり闇魔法は便利だな……ん?

 何か忘れているような……。


「「くっ……あああ~!」」


 アラン君とライアン君は身をよじり、ダンジョンに似つかないなめまかしい声を上げる。

 もちろんジーンさんも。


「「……ディアボロ(様)?」」

「回復魔法ぉぉぉお!」


 早く治れ! と念じれば念じるほど、アラン君たちの嬌声は大きくなる。

 八方塞がりの状況の中、俺は冷や汗をかきながら彼らの治療を終えた。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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