第49話:“魔族教会”(Side:フォルト④)
「フォルトさん、着きましたよ。この街に“魔族教会”の支部があります。そこで一緒に力をつけ、ディアボロと学園に復讐しましょう」
「は、はい……」
フェイクル先生(厳密に言うと先生ではないが、流れでこう呼んでいる)に助けられてから数週間後。
僕は“魔族教会”の拠点があるという街に案内されていた。
中心部には大きな運河が流れており、水辺に沿うように建物がそびえる。
一見すると、どこにでもあるような街だ。
――だが……ベレジア村や学園近くの街とは明らかに違う……。
すでに足を踏み入れているのだが、僕は次の一歩を踏み出せないでいた。
目の前に広がるのは、不気味な静けさを湛えた建物ばかり。
人はおろか犬や猫すらまったく歩いておらず、生き物の気配がまるでしない。
通りには薄暗い魔灯がぽつぽつと等間隔に佇む。
宵闇が訪れつつあることもあり、一段と不気味な雰囲気を醸し出していた。
「どうしましたか、早く進みましょう。もう夜も近いです。暗くなるとさらに危険が増しますよ」
「ま、待ってください。こ、この街って……ペル・ペリドですよね?」
緊張のあまり絞り出すように尋ねる。
顔がこわばる僕をよそに、フェイクル先生は笑っていた。
ただただ薄っすらと。
「ええ、おっしゃる通りです。まぁ、たしかに悪い噂が有名ですが、住めば都というヤツです。立ち話もよくないのでもう行きましょうか」
「フェイクル先生っ」
歩き出すフェイクル先生を慌てて追いかける。
彼女は何の気なしに話すが、僕は気が気じゃなかった。
――ペル・ペリド。別名、“水葬の暗黒街”。
行く当てのないならず者が集まる街だ。
スリや強盗から始まって、人殺しや冒険者パーティーの裏切り者、果ては王国騎士団の脱走兵までいると聞いたことがある。
名前の由来は、毎日必ず運河に死体が流されるから。
日常的に人殺しが行われている世界……。
さすがの僕も緊張せざるを得ない。
なるべく足音を立てないよう歩いていると、フェイクル先生がそっと話しかけてきた。
「いいですか? 正面だけを見て歩いてください。決して横を見てはいけません」
「は、はい……」
人の気配はしなかったはずなのに、どこからか視線を感じる。
それも一人や二人ではない。
さりげなく周囲の様子を窺うが、暗くて何も見えなかった。
数十分か数時間か……いや、もしかしたら数分かもしれない。
しばらく歩くと、今にも朽ち果てそうなほど寂れた建物の前に着いた。
ここは……。
「……教会?」
「ええ、私たちの組織はまだそれほど大きいわけではありませんので、人目につかないようこのような廃れた建物を使っているんです」
「なるほど……」
フェイクル先生に促され中に入る。
外からの印象通り、室内もまた寂れていた。
長椅子や壁は薄汚れ、教会の清廉潔白という印象は微塵もない。
描かれた天井画もまた剝がれたり汚れたりで、どんな絵か見えないほどだ。
奥に掲げられた巨大な十字架ですら所々錆びている。
ひどく寂れていることを除けば一般的な教会。
少なくとも見た目は。
得体の知れない化け物が隠れているようで緊張していると、フェイクル先生にそっと背中を押された。
「フォルトさん、落ち着いてください。我々の組織は地下にあるんです」
「地下……?」
フェイクル先生に連れられ、十字架の下に向かう。
今気づいたが、そこには寂れた聖櫃が置かれていた。
「……我らの同胞よ、道を開けたまえ《魔族に栄あれ》」
フェイクル先生が呪文を唱えると、十字架の下に安置された聖櫃が少しずつ動く。
瞬く間に、なんと階段が現れた。
地下へ地下へと続いている。
「す、すごい……こんな仕組みがあるなんて……」
「この教会を見つけたとき、色々と手を加えたのです。フォルトさん、教会員――デモンズ・メンバーにはすでに伝えてあります。そして、あなたには……我らの“導き手”になっていただき、私たちを導いてほしいのです」
フェイクル先生は僕の手を握り、真摯な表情で告げた。
みんなを導く……。
そんなの答えるまでもない。
「もちろん、やらせてもらいます。全身全霊をかけて」
「さあ、どうぞ。我らの“導き手”よ」
笑顔のフェイクル先生の後に続き、階段を下りる。
体感で建物二階分ほど下りると、一番下までたどり着いた。
重厚な木の扉が出迎える。
フェイクル先生が開けると、思わず明るさに目が眩んだ。
「「お帰りなさいませ、フェイクル様。フォルト様」」
ゆっくりと目を開けると、黒いローブに身を包んだ人間に囲まれていた。
全部で15人くらいか?
みな、フードはおろしているので顔は見える。
若い男に若い女……比較的年齢層が高いようだ。
「フォルトさんは先に入浴を。お疲れでしょう。その間に食事を準備を進めますので」
風呂に入り、用意された仕立てのいい服に着替えたところで、食堂に案内された。
地下は上の教会からは想像もつかないほど広くて清潔だ。
「フォルト様は聖属性の使い手なのですよねっ。私、初めてお会いしました」
「しかも、あの“エイレーネ聖騎士学園”に通っていたなんて、相当優秀なんでしょう」
「お会いできて光栄です、フォルト様。あなたのような方がいらっしゃれば、私たちの勢力はどんどん拡大するはずです」
褒められ讃えられ、豪勢な食事を振舞われる。
まさしく、僕が待ち望んでいた待遇だ。
“魔族教会”……なかなかに良いところじゃないか。
さすがに学園を超えるような環境ではないが、今の僕には十分すぎる。
「さあ、皆さん。私たちを導いてくださるフォルトさんに祈りを捧げましょう」
「「あなたに出会えたこと、魔族に感謝いたします。我らの“導き手”よ……」」
教会員は膝まずき、僕に向かって祈りを捧げる。
フェイクル先生もそうだ。
これほどの優越感は学園でも感じられなかった。
優雅な気持ちでグラスを傾け、冷えた上等なソーダ水を飲む。
僕はここでじっくりと力をつける。
ディアボロ、そして“エイレーネ聖騎士学園”……お前たちを地獄の底に突き落とすために……。
お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます
本日より、第二部が始まりました!!
ディアボロの活躍やフォルトの行く末など、物語はさらに一段と広がっていきます!
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