第46話:僕は特別な人間なのに(Side:フォルト③)
「フォルト、お主は自分の行いについてどう思っておるんじゃ?」
「ぐっ……」
男の声が聞こえ、目が覚めた。
こ、ここはどこだ?
僕は冷たい床に転がっていた。
身体を動かそうにも動かせない。
縄で縛られていることに気づくまで、少しの時間を要した。
「ダンジョンでの落盤事故の誘発……これは重い罪じゃの」
目の前にいるのはクルーガー。
“エイレーネ聖騎士学園”の学園長だ。
周りには学園の教員たち。
僕を取り囲むような弧を描いたテーブルに座り、一様に厳しい視線を向けていた。
壁際には数人の屈強な男。
衛兵か?
ま、まずい。
どうやら、僕が裏で画策していたことが知られているらしい。
だが、まだ誤魔化せるはずだ。
決して罪を認めてはいけない。
「じ、事故の誘発とはなんでしょうか。僕には何のことかさっぱり……」
「お主がディアボロを殺そうと、ダンジョンの床を崩したことじゃよ。ちょうど、ディアボロたちが暗黒炎龍の巣の真上に来たときにな。覚えておるはずじゃ。自分でやったんだからの」
クルーガーは淡々と僕の作戦を告げる。
怒鳴ったりしないものの、逆にそれが威圧感にあふれ恐ろしかった。
喉がカラカラになり呼吸が浅くなる。
「しょ、証拠はあるんですか。僕がダンジョンの床を崩した? 証拠は」
「証拠ならある。崩落した床の破片から魔法陣の痕跡が見つかった。足を踏み入れると床を壊す術式のな。フォルト、お主の魔力も感知されたぞよ」
そう言って、クルーガーは石の破片を見せてきた。
薄っすらと魔法陣の一部が浮かんでいる。
クソが、余計なことをしやがって。
しかし、どうする。
どうやって誤魔化せば……そうだ!
あの女のせいにしてやれ!
「ぼ、僕はフェイクル先生に唆されたんです! いえ、脅されたんです! 全部、フェイクル先生の陰謀です!」
「フォルト、フェイクルなどという先生はおらんぞ?」
「…………えっ?」
慌てて教員たちの顔を良く見る。
アプリカード、レオパル…………その中に、フェイクルはいなかった。
ど、どういうことだ。
「なんで……なんでいないんですか! おかしいでしょう! 今すぐ探してください!」
「学園の先生はワシを含めて十二人しかおらん」
そ、そんな……。
フェイクルは教員じゃないだと?
じゃあ誰だ。
そう考えていると、じわじわと実感してきた。
――僕は……嵌められたんだ。
フェイクルの目的はわからないが、僕はあの女に利用されたのだ。
騙された怒りに身を焦がす。
……いや、いっそのこと、全てあの女の責任にしてしまえ。
「クルーガー先生、聞いてください! フェイクルという女は僕に<逆転の実>という謎の木の実を渡してきたんです! それを食べなければ殺すと言われ……」
フェイクルとの一件を話す。
上手く言葉を選んで、僕のせいじゃないと主張してやったぞ。
これで免責されるはずだ。
「……ふむ、お主がフェイクルと名乗る女と接触したことはわかった。まさか、学園にしのような不審人物が侵入しているとは思わなかったの。これからはもっと警備を厳重にしよう」
「じゃ、じゃあ……!」
「しかし、脅されていたなら、お主はなぜワシや他の先生たちに相談しなかったんじゃ?」
クルーガーの言葉を聞いた瞬間、時が止まったような錯覚に陥った。
「あ……そ、それは……その……」
「他の学生から、フォルトはディアボロを嫌っていたという話もあるの」
「だ、だから、それはあいつが貴族を鼻にかけて振舞うからで……!」
「ワシやアプリカード先生たちの目から見ても、ディアボロは真面目で質実剛健。少なくとも、他人に迷惑をかけるような人間には見えないが?」
「ぐっ……」
なんだよ、これはぁ!
どいつもこいつもディアボロの味方をしやがる!
これだから貴族の優遇は……。
「フォルト、お主は本日をもって退学処分とする」
…………は?
クルーガーが告げた言葉に思考が止まる。
「お、お待ちください、クルーガー先生! 僕は……!」
「また……」
問いただす前に遮られた。
ま、まだ何かあるのか?
身構えて待っていると、かけられたのは思いもしない言葉だった。
「お主の危険性と為害性を鑑みた結果、収監処置が決まった」
「…………は?」
思わず、素の声が出た。
収監処置?
誰を?
「牢の中で反省せよ。さあ、連れて行け」
「「はっ!」」
「ま、待ってください! 待てよ!」
部屋の壁際から、数人の屈強な男たちが近づいてきた。
みな、胸には剣が交差した紋章がある。
王国騎士団だ。
抵抗する間もなく、ガシッと掴まれ連行される。
「「学園長……念のため、フェイクルという人物の調査を始めた方が……」」
「ああ、そうじゃな。フォルトにも牢で詳細な話を聞くかの」
連れ去られる中、教員たちの話し声が遠くに聞こえた。
「ふ、ふざけるな! 僕は無罪だぞ! 悪いのは全てフェイクルだ!」
教員はおろか衛兵も聞く耳を持たず、騎士団の一人とともに馬車に押し込められた。
ガシャンッ! と重そうな錠が落ちる。
馬車が動き出すとともに、少しずつ認識する。
全て…………僕の行いが悪かったのだと。
カンニングでズルして試験を通過し、学園では希少な聖属性を鼻にかけて傲慢に振舞い、僕より優秀な人物を妬むばかり。
まさしく愚か者だ。
――どうして…………もっと真面目に過ごさなかったんだ。ディアボロとだって仲良くしていれば今ごろは……。
せっかく故郷でまたとないチャンスをもらったのに。
自分で台無しにしてしまった。
まっとうに努力して期待に応えれば良かったのだ。
心の中は後悔で満たされる。
僕を待っているのは暗い牢獄だけ。
心の中はぐちゃぐちゃになっていく。
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