第42話:冒険者ギルドでの実地訓練
「皆さん、お久しぶりです。休暇は楽しく過ごせましたか? ふむ……その様子だと、十分すぎるほど楽しまれたようですね」
アプリカード先生の声が、ぼんやりと頭の中に響く。
ここは“エイレーネ聖騎士学園”の教室。
長期休暇が明け、また日常が戻ってきた。
みんなは目をしょぼしょぼさせながらアプリカード先生の話を聞く。
「ほら、皆さん。シャキッとしてください。“エイレーネ聖騎士学園”の生徒たるもの、いついかなるときも規範となるような態度でいてください」
「「……ほぁぁ~」」
注意されるも、みんなどこかぼや~っとしていた。
無論、俺もだ。
長い休みの後は余韻が残るのだ。
この辺りも日本の高校生と変わりなくて安心する。
しかし、フォルト君だけはシャキッとしていた。
さすがは原作主人公。
こんなときでもちゃんとしている。
と、感心していたが、さりげなく俺を睨むのはやめてほしいな。
怖いから。
「さて、休暇明けではありますが、授業は今日から行います。学園外での実地訓練です」
生徒たちからは微かな溜息が漏れたが、徐々に緊張感が増してきた。
今までの訓練はずっと学園の中だ。
初めて、俺たちは外に出ることになる。
みんなもごくりと唾を飲んで続きの言葉を待つ。
「試験は冒険者ギルドでのクエストです。四人一組でパーティーを組み、Bランク以上のクエストをクリアしてきてください」
アプリカード先生の説明が終わるや否や、教室はざわめきで包まれる。
もうこの時点になると、ぼんやりしている生徒は一人もいなかった。
隣のシエルもマロンもワクワクした様子で喋る。
「冒険者ギルドなんて初めて行くわ。なんだか楽しみになってきちゃった」
「私もです。ずっと学園の中にいましたものね。外の世界はどんなところか、考えただけでワクワクしてしまいます」
「ああ、俺も楽しみだよ。なんてったってギルドだもんな。しかもただのギルドではない。冒険者ギルドだ」
他の生徒に違わず、俺も胸を躍らせている。
この辺りは原作でもすごく楽しいイベントだったからな。
ギルドとか行くと、ファンタジー感がグッと増すのだ。
ダンジョンだって学園内の物より複雑で、モンスターたちも強い。
願わくば、実際に俺も戦ってみたいと思っていた。
まさか、こんな形で叶うとは。
人生とは不思議だ。
「それでは、各々好きな方とパーティーを組んでください。魔法や戦闘スタイルの相性をよく考えてくださいね」
説明が終わるや否や、両腕を固定された。
もちろん……。
「ディアボロは私と組みましょう。逃がすはずがないんだから」
「私も忘れないでくださいよ。24時間隣にいることを誓ったんですから」
シエルとマロンにだ。
魔法や戦闘スタイルの相性だとかを考える余地すらなかった。
まぁ、夜のスタイルは合っているんだけどね……って、やかましいわ!
「あの……ディアボロさん……」
「あっ、はい、すみませ……クララ姫っ」
「お取り込み中申し訳ありません。お話ししてもよろしいですか?」
耳をくすぐるような美しい声が聞こえ、振り返るとクララ姫がいた。
女神様のような微笑みを湛え、俺たちを見る。
儚げな雰囲気は消え去り、代わりに肌も赤みが差して健康的な印象だった。
「私もディアボロさんのパーティーに入れてもらえませんか?」
「え! クララ姫がですか!?」
「はい。私を救ってくださったディアボロさんのことを、もっと知りたいんです」
まさか、クララ姫から直接お願いされるとは。
呪いを解いた後は、何だかんだお互いに忙しかったからな。
ここはシエルとマロンの意見も聞こう。
「ど、どうする、二人とも」
「私はぜひクララ姫とパーティーを組みたいわ。あの木属性の魔法はすごかったもの」
「私もクララ様とご一緒したいです。大変光栄なことで緊張してしまいます」
どうやら満場一致のようだ。
というわけで、俺はシエル、マロン、クララ姫とパーティーを組んだ。
意外にも、フォルト君が絡んでくることはなかった。
すでに、適当な生徒とパーティーを組んでいる。
てっきり、クララ姫を独り占めするなとか言うと思ったのに。
もうイキリ期は卒業したのかな。
きっとそうだろう。
「じゃあ、メンバーも決まったし、さっそくギルドに行こうか」
「ええ、早くしないと良いクエストがなくなっちゃうわ。……先に言っておくけど、ディアボロのサポートは私がするから」
「いえいえ、シエル様。ディアボロ様の隣には私が常にいます。そのためにずっと修行を積んできたので」
「私もお話に加えてくださいませんか? 私の植物魔法こそディアボロさんとの相性はピッタリだと思うのですが」
……何となく空気がギスるのはなぜだ?
いや、気のせいだろう。
俺を取り合うなんて、そんなことはあり得ないことなのだ。
□□□
学園から馬車で小一時間ほど。
俺たちは冒険者ギルド――“命知らずの集い”に着いた。
二階建ての大きな木造建築。
木がむき出しになっていて、無骨だが頑丈そうな建物だ。
当たり前だが、“エイレーネ聖騎士学園”のような貴族的な趣はまったくない。
三人とも、硬い表情でごくりと唾を飲んでいた。
俺はゲームで見慣れていたが、やっぱり緊張するんだろう。
シエルとマロンは学園にいるときと同じ格好だが、クララ姫はさすがにフードで顔を隠していた。
みんなを先導して扉を開ける。
「「失礼しま~す」」
静かに入る必要はないくらい、ロビーは賑わっていた。
冒険者たちのざわめきや歓談の音でいっぱいだ。
俺たちに注目する者など一人もおらず、それが逆にリラックスできた。
まずはみんなでカウンターらしきスぺースに行き、受付嬢さんに話しかける。
「すみません、クエストを受けたいのですが受付はここでいいですか?」
「ええ、そうですが。初めての方ですかね? でしたら、まずは冒険者登録が必要ですよ」
「申し遅れました。俺たちは“エイレーネ聖騎士学園”の生徒です」
「ああ~、そういうことでしたか」
受付嬢さんは納得した様子で手をポンと叩く。
すでにギルドには、学園の方から連絡が届いている……という設定だ。
特例扱いなので冒険者登録は必要ないとのことで、クエストボードの場所を教えてくれた。
「うわぁ……紙がいっぱい貼ってあるわ。これが全部クエストなの?」
「ああ、そうだよ。ランク毎に貼られている場所が違うんだ」
「さすが、ディアボロさん。学園外の事情にもお詳しいですね」
「Cランクにはどんなクエストがあるんでしょう」
“命知らずの集い”はこの辺りでも大きなギルドなので、ボードの依頼はたくさんだ。
これだけあれば絶対に良いのが見つかるだろう。
「おぉい、どうしてガキがこんなところにいるんだぁ?」
「ここはガキが来るようなところじゃねえんだぞぉ?」
みんなでボードを眺めていたら、後ろからガサツな声が聞こえた。
振り返らなくても、どんなヤツらかはわかる。
肩をグイッと掴まれ振り返ると、いた。
「おぉい、聞いてんのかクソガキィ。こっち向けってんだよぉ」
「俺たちがクエスト行けるか評価してやるよぉ」
いかにも……な風体をした男の二人組みが。
向かって右はくすんだ金色のモヒカンにビリビリに破れた服、左側も似たような髪型とファッションだ。
もはや、冒険者というかならず者といった印象だな。
貴族界隈には絶対にいないであろう男たちを見て、三人は俺の後ろに隠れちゃった。
さっきから語尾を微妙に伸ばした話し方をするのはなぜだ。
「すみません、俺たち今クエスト探しているところなので……」
「おぉい、可愛い子たちがいるじゃねえかぁ。お前の連れかぁ?」
「クソガキにはもったいない女だなぁ。こんなガキじゃなくて俺たちとパーティー組もうぜぇ」
二人組はじりじりと近寄ってくる。
シエルたちを見て、欲望をむき出しにしてきた。
「ディアボロ、どうしましょうかしら。お望みとあらば肉塊に変えるけど」
「灰にする準備はできていますが?」
「蔦でがんじがらめにすることもできますよ?」
「いやいやいや!」
容赦のない三人を慌てて止める。
クララ姫も意外と好戦的だった。
そういえば、今の俺のステータスはどうなっているんだろう。
……ちょっと見てみるか。
――ステータス・オープン!
念じると、頭の中に映像が浮かんだ。
【ディアボロ・キングストン】
性別:男
年齢:15歳
Lv:76
体力値:9500
魔力値:23000
魔力属性:闇(解放度:★10)
称号:超真面目な令息、給料上げてくれる方、ディアボロ、スパンキングボーイ、有望株、すごい努力家、重い想い人、堕執事、今夜も想う婚約者、有望だが夜行性が惜しい生徒、注目株、目指したい人、俺の熱い目標、白馬の王子様
……こりゃすごい。
能力値はもちろんのこと、称号もなんかたくさん増えていた。
たぶん、この二人組がレベル76を超えていることはないと思う。
何となく雰囲気でわかるんだ。
彼らは近づいてくると、俺の顔めがけて思いっきり殴りかかってきた。
右の男は右手で、左の男は左手で。
「こちとら何年も女を抱いてねえんだぁ! 一人くらい渡しやがれってんだよぉ!」
「独り占めしてんじゃねえぞぉ! モテない男の気持ちを考えたことあるのかぁ!」
そういうことをするからモテないのでは?
ギリギリまで引きつけて、ひょいっと後ろに動いて避けた。
彼らの拳が激しくぶつかり合う。
「「ぐあああ!」」
手を押さえてのたうち回る二人組。
……一応、回復してあげた方がいいのかな。
「あの……大丈夫ですか? 俺は回復魔法も使えますけど……」
「うるせえぇ! そう言って攻撃してくるつもりだろぉ!」
「モテるヤツはなに考えているかわからねえからなぁ!」
捨てゼリフを吐き、彼らは逃げて行った。
二人組がギルドからいなくなると、パチパチと拍手の音が聞こえてきた。
他の冒険者や依頼人と思わしき客たちが手を叩いている。
「いいぞー。学生のくせにやるじゃないか」
「あいつらも良い薬になっただろう」
「兄ちゃんたちクエストも頑張れよー」
やっぱりというか何というか、二人組の男は嫌われていたようだ。
「ディアボロはさすがねぇ。戦わずに勝つなんて」
「私だったら手加減なんてしなかったかもしれません」
「無駄な争いを避ける姿勢が素晴らしいですね」
「まぁ、あの人たちも大きな怪我がなくて良かった」
気を取り直して、みんなでクエストを探す。
数分も経たずに、良さそうな依頼が目に入った。
「あっ、これとかどうかな?」
ボードから一枚の紙を取る。
〔“竜虎の迷宮”の第五層に生息している、ネオ・アルミラージの角を五本採取せよ〕
「あら、良さそうなクエストね」
「私も賛成です」
「意義なんてございませんわ」
「……決まりだな」
受付嬢さんのところに持っていき、登録をすませる。
「ネオ・アルミラージのクエストですね。……はい、受注しましたよ」
「ありがとうございます。じゃあ、俺たちはこれで……」
「あっ、ちょっとお待ちください。“竜虎の迷宮”に行かれるなら、一つお伝えしておきたい情報があります」
そう言うと、受付嬢さんはカウンターから一枚の紙を取り出した。
「今、第六層で暗黒炎龍の目撃情報が報告されています。ご存じかと思いますが、非常に強力なSランクモンスターです。ネオ・アルミラージがいるのはそれより上層ですが、くれぐれも注意なさってください」
彼女の言葉を聞いて、俺たちの間に緊張が走る。
――暗黒炎龍・ダンケルヘイト。
その口から吐く黒い炎は、生き物に触れると朽ち果てるまで消えないと言われる。
俺たちは学園に入学してからも修行を積んできたが、Sランクモンスターは別格の強さだ。
さすがにドキドキするな。
「だ、大丈夫かしら、ディアボロ……」
「そうだなぁ……クエストだから確実に安心とは言えないけど、近寄らなければ平気だと思う。十分に気を付けて挑もう」
最終準備もそこそこに、俺たちは“竜虎の迷宮”へ歩を進める。
お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます
【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】
少しでも面白いと思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!
評価は下にある【☆☆☆☆☆】をタップorクリックするだけでできます。
★は最大で5つまで、10ポイントまで応援いただけます!
ブックマークもポチッと押せば超簡単にできます。
どうぞ応援よろしくお願いします!