表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/96

第37話:対するは……

「ここで死ね、ディアボロ・キングストン。大事なことだから二回言わせてもらった」


 ソフィーは汚物を見るような目で俺を睨む。

 やはり、過去の悪行が未だに尾を引いているようだ。

 過去の所業を考えると、恨まれるのも無理はない。

 俺は納得していたが、シエルとマロンはキツい視線をソフィーに送っていた。


「あの人何かしら。やたらとディアボロを敵視しているけど」

「ディアボロ様に向かって死ねなんて、とても聞き捨てなりません」


 二人は魔力を練り上げる。

 その様子を見て、ソフィーたち三人組もまた魔力を練る。

 一触即発の空気だ。

 すぐにでも戦いが始まりそうだったが、その前に言っておきたいことがあった。


「全部、俺が……昔の俺が悪いんだ。俺が彼女を深く傷つけた……」

「「え……?」」

「ふん、覚えていたか。ならば、私がどれだけ貴様のことを恨んでいるかも伝わっているだろう」

「ああ、痛いほどわかるよ……」


 俺と彼女は八歳の頃に初めて出会い、数週間ほど一緒に過ごした。

 きっかけは貴族のパーティーだったと思う。

 ソフィーは今でこそ筋骨隆々の女性だが、昔は非力な少女だった。

 ディアボロは立場と体格の差を利用して、ソフィーをいじめ抜く。

 しまいには、「そんなに弱くては辺境伯を継ぐ資格などない、夢を見るな。“空想女”が」と吐き捨てた。

 厳密に言うと俺ではなくディアボロがやったことだが、とても他人事のようには考えられない。

 俺はもう……ディアボロなんだ。


「私はディアボロに“空想女”と言われたことを今でも覚えている。そのとき負った心の痛みもだ。だから、いつか貴様を打ちのめすために修行を重ねてきた。貴様に勝ち、辺境伯を継げるに値すると証明してみせる」


 ソフィーの言葉は俺の心を鋭く抉る。

 彼女は……生まれつき心臓が悪い。

 あの一件があって以来、ソフィーは無理に修行を積んできた。

 心臓が悪いのに、それこそ自分を追い詰めるような修行だ。

 結果、類まれな魔力と身体能力を得たが、身体はボロボロになってしまった。

 今も涼しい顔をしてはいるが、本当は横になりたいはずだろう。


「ディアボロの近くにいる二人の女に告げる。今すぐその男から離れろ。何をされるかわかったものではないぞ」

「「……」」


 俺とソフィーの過去を聞いても、シエルとマロンは何も言わない。

 ただ下を向いているだけだ。

 その様子を見るだけで、俺の心は暗くなっていく。


 ――幻滅……しただろうな、二人とも。


 いくら改心したとはいえ、過去は変えられないのだ。

 俺がソフィーを傷つけたのは、れっきとした事実……。


「でも……ディアボロは変わったわ!」


 静寂を切り裂くように、シエルの声が森に響いた。

 ソフィーの眉が訝しげにピクリと動く。


「変わった……?」

「そうです! ディアボロ様は変わられたんです! 今では誰よりも優しくしてくださいます!」


 今度は、マロンが前に出て叫んだ。

 シエルもマロンも、俺を庇うように手を広げている。


「お前たちは何者だ?」

「私はシエル・ディープウインドゥ。ディアボロの婚約者よ」

「私はマロンと言います。ディアボロ様のメイドです」

「婚約者にメイドか……なら、ディアボロの暴虐ぶりは十分知っているだろう。その男は性根まで腐っているんだ」

「「いいえ」」


 シエルとマロンは、揃って否定の言葉を口にする。

 真正面からソフィーを見ていた。


「たしかに、過去のディアボロは最低最悪だったわ。自分のことしか考えないし、暴力だって簡単に振るう。挙句の果てには、私の足の自由を奪った」

「私も昔はディアボロ様に苦しめられました。咳が止まらないのに埃っぽいところで作業させられたり、わざと冷水をかけられたり……正直、命の危機を感じたほどです」


 ソフィーは黙って聞いていたが、やがて重い口を開いた。


「だったら、お前らもそいつを恨んでいるはずだ」

「でも、今のディアボロ様は違います。過去の行いを謝罪し、私の病気を治すために血の滲むような修行を積んだのです」

「私の足だって、彼が治してくれた。おかげで歩けるようになったの」

「だから、何だと言うのだ。そんな話信じられるか」


 ソフィーの顔は厳しいままだ。

 信じられないのも無理はない。

 俺は暴虐令息だったのだから。

 どうやったら信じてもらえるか……と考えたとき、シエルが一息に告げた。


「ディアボロは、闇属性で回復魔法を使えるまでに修行したのよ」

「な……に……?」

「あなたほどの魔法の使い手なら、その苦労がどれほどかわかるでしょう」

「……」


 ソフィーは黙って俺たちを見る。

 事の真偽を推し量るような視線だった。

 必死になって頼み込む。


「ソフィー、謝らせてくれ。本当に悪かった。人の気持ちも事情もわからない馬鹿なクソガキだったんだ。そして……君の病気を俺に治させてほしい。俺に責任を取らせてほしいんだ。この通りだ……頼む」

「いいだろう。私を負かしたら、闇属性の回復魔法とやらを使って構わない。だが、私が勝ったら貴様は二度とその面を見せるな」

「ありがとう、ソフィー。チャンスをくれて」

「私は逃げも隠れもしない。正々堂々と真正面から挑んでこい!」


 ソフィーは槍を握り、力強く構える。

 覇気と魔力が迸り、頬にピシピシと当たった。

 ちなみに、原作では主人公(フォルト君)はソフィーに勝てない。

 いわゆる、負けイベントだ。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 俺の問題は俺が解決する!


「行くぞ、ソフィー! 俺は勝って君の病気を治す!」

「さあ来い、ディアボロ! 私は逃げも隠れもしない!」


 全身に力を込め、勢い良く走り出す。

 それが合図かのように、シエルもマロンも各々の敵と戦いを始めた。

 俺の目の前にはソフィーだけ。

 正真正銘の一騎打ちだ。


「《闇の剣》!」


 魔力で剣を生成。

 ソフィーは遠距離攻撃も強いが、近距離戦がメインだ。

 きっと、この勝負はただ勝つだけではダメだ。

 彼女の得意な領域で勝ってこそ、真の勝利になるのだと思う。


「《雷撃刺突》!」


 ソフィーの間合いに入った瞬間、雷をまとった槍が襲い掛かった。

 修行を積んだ後でさえ、注意深く見ていないと追いつけないスピードだ。

 剣で刃先をいなして懐に飛び込む。

 たったそれだけで、先ほど戦ったジャメルの蛇とは、比べ物にならない魔力の質と重さを感じた。


「くらえ! ディアボロ斬り!」

「あまいぞ」


 隙をついたはずだったが、ソフィーは即座に体勢を整えて防いだ。

 槍の柄の部分で俺の剣を受け止める。

 見た目通りのすごい筋力だ。


「《雷気の閃光》!」

「くっ……!」


 ソフィーの槍が光り輝き、視界が真っ白になる。

 彼女の得意技の一つだ。

 視界を奪ってひるませてから、槍の一撃で仕留めるつもりだろう。

 眩しさに思わず目をつぶったが、魔力は探知できている。

 俺の喉元めがけ、彼女の槍が襲い来る……!


「……驚いたぞ、ディアボロ。この攻撃を防いだのは貴様が初めてだ」

「必死に修行してきたからな。……君の病気を治すために(ひいては断罪フラグを回避するために)!」


 光が収まり目を開けると、ソフィーの槍はすぐ目の前で止まっていた。

 俺の剣が受け止めているのだ。

 ソフィーの魔力の練度は素晴らしいが、俺も修行を積んできたんだ。


「修行したというのは認めてやろう。嘘じゃないようだ。だが、この勝負に勝つのは私だ」

「俺だって負けるつもりはない。死んでもソフィーの病気は治す!(じゃないと本当に死ぬから! 俺が!)ディアボロの舞!」

「な、なに……!?」


 足払いし、彼女の体勢を崩す。

 鍔迫り合いのような状況にあったら、誰でも足元が不注意になる。

 槍の柄を剣で強打し、彼女の手から落とした。

 地面に倒れたソフィーの喉に剣を突きつける。


「俺の勝ちだ、ソフィー」

「私の……負けか。まさか貴様に負けるとはな。……自分の努力不足が恥ずかしくて仕方がない」


 ソフィーは力なく笑う。

 その瞳には、一滴の涙が零れた。

 ちょうどシエルとマロンの勝利も決まったようで、森には少しずつ静寂が戻る。


「さあ、勝敗は決した。とどめを刺せ」

「いや……本当に悪かった……。謝ったから何だと言うかもしれないが、謝らせてほしい」


 剣を消滅させ、頭を下げた。

 ソフィーは何も言わない。

 彼女の視線が頭に刺さるのを感じる。


「……ディアボロ、何をやっている?」

「見ての通り、謝罪の意を示しているんだ」

「……謝罪?」


 ソフィーの顔は見えないが、怪訝な顔をしているのはわかった。


「俺が君を傷つけた事実は変わらない。でも、謝らずにはいられないんだ。俺のせいで、君は心臓が悪いのに無理は修行を積んだんだ。今も本当は胸がすごく痛いはずなんだ」

「なんでそんなことまで……」

「俺はソフィーのことなら何でも知っているよ。……だから、俺の回復魔法で治させてほしい」


 これも全部、前世で得た知識だ。

 原作なら、主人公(フォルト君)に彼女が直接話す。

 ソフィーはしばしの間考えていたが、やがて静かに言った。


「……どうやら、何でもお見通しのようだな。わかった。勝負にも負けたことだし、貴様の提案を受けよう」

「ありがとう、ソフィー」


 ソフィーはスッ……と立ち上がり、俺の正面に佇む。

 深呼吸し、彼女の胸元に手をかざした。


「《闇の癒し》!」

「ぐっ……!」


 黒くて淡い光が、彼女の胸を包み込む。

 ソフィーの心臓を癒してくれ!

 魔力を込めるたび、ソフィーの顔には赤らみが増してきた。

 な、なんだ?


「くぁっ……あああ~ん! いやぁあっ! ダ……メェ……!」


 ソフィーの見た目からは想像もつかない、艶やかな声が森に響く。

 ふ、ふむ、ギャップもあって想像以上になまめかしい様子で…………ちょっと待て!

 ギギギ……と後ろを見る。


「「……ディアボロ(様)?」」

「あああああー! 違うんですうう! 回復魔法使うとこうなっちゃうんですううう! 本当にソフィーの怪我を治したかっただけで他意はありません! どうか……どうか、お許しをおおお!」

「「ソフィー(さん)のことなら何でも知っている……?」」

「ああああああ!」


 シエルとマロンに、ジャンピング土下座なんて通じない。

 その程度ではダメなのだ。

 心の底から誠意を見せなければならず、結局、超絶奉仕の約束をして波乱の親善試合は幕を閉じた。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】


少しでも面白いと思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!

評価は下にある【☆☆☆☆☆】をタップorクリックするだけでできます。

★は最大で5つまで、10ポイントまで応援いただけます!

ブックマークもポチッと押せば超簡単にできます。


どうぞ応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ