第36話:親善試合
「お前があの暴虐令息――ディアボロ・キングストンか。まさか、この島にやってくるとはなぁ。おい、どんなズルをしたんだ?」
「何もズルはしていない。学園からの正当な評価だよ」
「へっ、どうだかな。努力嫌いで有名じゃなかったか? ここはお前みたいな世間知らずのガキが来るところじゃねえぞ」
「戦ってみればわかるさ」
目の前にいるのは、黒い衣に身を包んだ男。
背は高く顔も大人びている。
金髪から覗く碧の目は、勝ち誇った様子で俺を見ていた。
辺りの空気はピリピリと張り詰める。
俺のことを見下していたくせに、彼は魔力を密に練り上げていた。
「《多蛇水の集い》!」
男の周りの空間に穴が開き、大量の蒼い蛇が飛んでくる。
水属性の魔力で生成された蛇だ。
右から左から、上から下から……死角なしの攻撃が襲い掛かる。
この攻撃だけで、彼が腕の立つ魔法使いだとわかった。
魔力は精錬されていて澱みないし、空中で消えてしまうこともない。
これだけの攻撃は消費量も多いだろう。
だが、俺の魔法なら十分に対処できる。
手の平を男に向けた。
「《闇光線の多連撃》!」
「な、なに!?」
無数の黒い光線が放たれ、全ての蛇を撃ち落とす。
バシャバシャと水が落ちる音がし、辺りには静寂が戻った。
男の顔から余裕が消え、焦りが生まれる。
「な、なんだよ、その魔法……今のは俺が3か月かけて習得した魔法だぞ……休み時間も自由時間も削って練習したのに……」
「こっちは朝から晩まで、血反吐を吐くような修行を1年した。それだけの話さ」
即座に男の背後に回り込む。
「ディアボロ手刀!」
「うぐっ……!」
俺の華麗なる手刀を食らい、男は地面に崩れ落ちた。
戦闘を見ていたかのように、ちょうどベストタイミングで手の紋章から声が聞こえる。
〔ジャメル・キノン……ダウン!〕
現在、俺たちはオートイコール校との親善試合の真っ只中だった。
通称、“試練の島“。
だだっ広い無人島が会場だ。
“エイレーネ聖騎士学園”から、船で一週間くらいの距離かな。
この試験はサバイバル形式。
最後に立っていた一名が優勝だ。
それまではチームを組んで戦ってもいいし、個人同士で戦ってもいい。
例年通りというか、恒例というか、なんとなく“エイレーネ聖騎士学園”対“オートイコール校”の構図になっていた。
まだ試験が始まって一時間も経っていないが、すでに島の各地は戦闘状態だ。
今も地鳴りが聞こえたり、爆発の振動が伝わっていた。
――さて、さっさとこいつを動かすか。
ジャメルを木陰に移し、一旦草むらに隠れる。
いつしか、俺は戦闘を反芻する癖がついていた。
――それだけの話さ。
我ながらカッコいい決めゼリフだと思う。
……これからも使うか。
心の中で決めゼリフリストを更新していると、手の紋章から声が聞こえた。
〔ニコラ・ボルナレフ、ケイシー・シュミット……二名ともダウン!〕
どうやら、また誰かが“オートイコール校”の生徒を倒したらしい。
誰だ? と思う間もなく、上空からはシエルが、正面の木陰からはマロンが現れた。
「その人を倒したのね、ディアボロ。上空で見ていたけど、やっぱりあなたの魔法は格別だわ」
「私たちはまだまだ足元にも及びませんね。さっきだって、少々手間取ってしまいました」
「いやいや、二人ともすごいじゃないか。初めて来た場所なのに冷静に戦えて。怪我とかしてない?(断罪フラグが復活してませんように!)」
「ええ、大丈夫よ。ディアボロって……本当に優しいわね。惚れ直しちゃう……」
「私も問題ありません。ディアボロ様は……優しさの権化でございます……」
シエルとマロンの顔は赤らみが増し、笑顔があふれる。
……熱はないよな?
毎回心配になるのだが。
「そういえば、マロンさんより私の方が早く倒したわよね」
「いえいえ、私の方が早かったですよ。ほんの少しだけですけど」
「な、なんで、二人は張り合っているのかな?」
嫌な予感を感じ、戦々恐々と尋ねる。
「「勝った方がディアボロ(様)を独り占めできるの(です)」」
「ふむ……」
これもまた恒例というか、いつも通りというか、干からびる日々が続きそうだ。
親善試合のメンバーは、全部で六人。
俺たちの他は、バッドとデイジー、そしてフォルト君。
ちなみに、アルコル師匠……じゃなくてコルアルは、選ばれていたのになぜか辞退した。
「それにしても、コルアルさんはどうして辞退したのかしらね」
「わかりません。私も彼女と戦うのが楽しみだったんですが」
きっと、島なんて娯楽のないところには来たくなかったのだろう。
アイスもないだろうし。
無人島だから。
まぁ、そのおかげでフォルト君は繰り上げで選ばれたわけだが。
フォルト君はやらかしてはいるが、意外と模擬試験の結果は上位なんだよな。
そのとき組んでいた仲間が優秀なのかもしれないが。
「これからどうする、ディアボロ」
「そうだな~……せっかくだからみんなで行動する? まだ全体の状況も掴めていないし」
「賛成です。最後は、この三人で戦いたいですね」
一旦共同戦線を張ることにして、俺たちは歩を進める。
他のみんなはどこにいるんだろうな……と思ったとき、前方から強い魔力を感じた。
とっさに、シエルとマロンをかばう。
「危ない! 下がれ、二人とも!」
「「なっ!」」
激しい雷が俺たちの目の前の地面を抉る。
状況を把握する間もなく、木陰から女生徒が現れた。
黒い制服に身を包んだ三人組。
いずれも険しい顔つきで、俺たちを睨む。
中でも、中央に佇む女性の存在感がヤバい。
風に舞うは鮮、鮮血のように鮮やかな赤色の髪。
金色に輝く瞳は力強く、睨まれただけで背筋が凍えるようだ。
身体に至っては、男の冒険者にも負けないほどガタイがいい。
他にもオートイコール校の生徒がいるというのに、彼女しか見えないほど、吸い込まれるような気迫だった。
魔力で生成された巨大な槍が、歴戦の猛者のようなオーラを放つ。
「久しぶりだな、ディアボロ・キングストン。ここで死ね」
このイベントにおける最重要人物、新たなるメインヒロイン――ソフィー・バリンスカだ。
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