第35話:白馬の王子様(Side:クララ①)
私はエイレーネ王国の王女として、この世に生を受けた。
優しい両親や周りの人に囲まれ、幸せな日々を送っていた。
そう、あの日までは。
今から数年前、私は魔族の襲撃を受けた。
王国騎士団が撃退してくれたけど、呪いを授かってしまった。
――“落命の呪い”。
全身に黒い痣のような紋様が刻まれた。
日に日に黒さを増し、私の身体を苦しめる。
どうにか症状を抑えるのが精いっぱいで、あらゆる回復魔法や秘薬を使うも、終ぞ治ることはなかった。
呪いを受けてから、私の毎日は暗い。
太陽の光や爽やか風でさえ、以前のように楽しめなくなった。
考えないようにしても、呪いのことを考えてしまう。
死が少しずつ色濃くなる感覚……。
気のせいか、目に映る景色は全て灰色に見える。
とうとう専属の医術師から、あと半年程度の命だろうと告げられた。
ショックを受けなかったと言えば嘘になる。
でも、私は心のどこかで覚悟していた。
死は目前だろうと。
結局、体調の悪化から入学時期を延ばし、“エイレーネ聖騎士学園”に入学した。
――学園に入学したのは、人生の思い出を残すため。
せめて、人生の最期は楽しい時間を過ごしたかった。
ある種の諦めを抱きながら入学すると、彼に出会った。
そう、あの暴虐令息ことディアボロ・キングストンに。
呪いを受ける前、噂をいくつか聞いていた。
暴虐で傲慢で人を物としか思っていないような男と……。
キングストン家は公爵だから、鼻にかけてしまったのだろう。
他人の家のことながら憤りを感じはしたものの、やがてその認識は改めることになる。
ディアボロさんは改心しているらしい……?
使用人への態度を改め、魔法の修行をし、メイドの病や婚約者の怪我を治した……などなど、前評判からは想像もつかない善行の数々だ。
初めは嘘の噂だと思った。
でも、間違いない。
グランデ公爵が直々に話しているのだ。
嬉々として。
鉄仮面とも評される本人だが、ディアボロさんを語るときの彼は嬉しそうだ。
言葉の端々には自慢が滲んでいるので、息子の改心を喜んでいるのだと思う。
呪いに侵されつつも、“エイレーネ聖騎士学園”に通うのが……ディアボロさんに会うのが楽しみになった。
それからしばらくして、私は待望の学園に入学した。
先生たちは言わずとも、呪いは私の身体を深く蝕んでいて、もう先が長くないことはわかっている。
だとしても、私は最期まで精一杯生きるつもりだった。
暗い気持ちを隠しながら自己紹介をした後、ある男の人の声が教室に響いた。
「クララ姫の病気を俺に治させてもらえませんか?」
ディアボロさんだ。
暴虐令息という噂があった人。
あろうことか、私の呪いを治したいと言った。
いや、言ってくれた。
国中の医術師が諦めた呪いなのに……。
いくら優秀な学園の生徒と言っても、まだ学生だ。
ディアボロさんのことは噂でしか知らないけど、彼に治せる力があるとは思えない。
でも、冗談で言っているような雰囲気は感じなかった。
――会ったこともない私の病気を、ディアボロさんは真剣に治そうと考えてくれているんだ。
ただその気持ちが嬉しかったのを覚えている。
彼はしばらく粘っていたが、アプリカード先生に断られ引き下がった。
結局、私はディアボロさんとフォルトさんと同じチームを組んだ。
試験内容は、“隠しの森”での魔石採取。
シンプルな模擬試験だったけど、私は楽しみだ。
森の中を探索している間、フォルトさんが色々と気を遣ってくれた。
手を引いてくれたり、ゴブリンを倒した魔石をくれたり……ありがたかったけど、少し疲れてしまった。
そして、そのすぐ後、巨大な鹿のモンスターが現れた。
Bランクのアーマーディア。
体表を頑丈な鱗に覆われた、強固なモンスターだ。
とても、今の私たちに倒せる相手ではない。
フォルトさんの攻撃は弾かれ、私の魔法も破られてしまった。
でも……ディアボロさんだけは違った。
「大丈夫ですよ、クララ姫。今倒しますから……《闇剣の雨》」
見たこともない魔法を使って、一瞬で倒してしまった。
あんなに大きくて強いモンスターを。
やっぱり、改心して努力を積んだという噂は本当だったんだ。
感動したけど、呪いの容態が悪化して立っていられなくなった。
思ったより早かったな……というのが素直な感想だ。
私は死を覚悟していたけど、ディアボロさんは決して諦めなかった。
「いえ! あなたの呪いは俺が治したいんです! お願いですから、俺に治させてください! 死んでも治します!」
彼の真剣な顔を見たとき、私は確信した。
――ディアボロさん……あなたが私の王子様だったのですね。
昔、絵本で読んだ白馬の王子様。
いつか私の元にも来てくれるかな、と乙女心にワクワクした。
ディアボロさんがそうだったのだ。
“落命の呪い”は、一瞬で消滅した。
国中の高名な医術師に診てもらったり、貴重な秘薬をどんなに使っても治らなかった呪いが、たった一瞬で……。
――ディアボロさんは、私が思う以上に特別で素晴らしい人だった。
きっと、私が学園に入学したのも彼に会うためだ……運命を感じる……。
でも、ディアボロさんはすでに婚約している。
シエル・ディープウインドゥさんと。
二人の仲を引き裂くことはできない。
できないけど、私の運命の人はディアボロさん。
この事実を曲げることもまたできない。
しばし考えていると、名案を思いついた。
――王国の法律を一夫多妻制に変えてしまえばいいのでは……?
これなら誰も傷つけない……気がする。
そもそも、私は王女なのだから、法律だって好きに変えられる。
そうと決まったら、色々と妄想が捗ってきた。
まず、ディアボロさんに恩返ししないといけない。
呪いを癒してくれたこともそうだけど、あの魔法は私に喜びを与えてくれた。
となると、お尻に○▲×◆※をして、縄で■※●▽※◎をして、それから……。
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