第32話:森にて
「さあ、クララ姫、お手をどうぞ。この辺りは石が多いので、転ばないようにお気をつけください」
「ありがとうございます、フォルトさん。あなたはとてもお優しい方なんですね」
「いえいえ、それほどでも。男たるもの、女性を導くのは当然ですから」
フォルト君はクララ姫の手を取り、森の中をエスコートする。
試験が始まってから、ずっと彼女の傍にいた。
よっぽどクララ姫を気に入ったらしいな。
俺の方を見てはドヤ顔を披露してくる始末だ。
そんな状況ではないというのに。
「クララ姫、こちらに魔石が落ちていますよ。あなたに差し上げます。少しでも早く、呪いが解けることを祈って……」
「ありがとうございます、フォルトさん。初めて見る魔石でございますわ」
「そうでしたか! それは良かった!」
フォルト君は緑色の魔石を渡す。
あれはゴブリンの魔石だな。
ちなみにEランク。
どうせなら、もっと高ランクの物をあげたらいいだろうに。
クララ姫が見たことないっていうのも、ランクが低すぎるからじゃないのかね。
「さあ、クララ姫。もっと森の奥に行ってみましょう。奥に行くほど魔石は多いはずですよ」
「待ってください、フォルトさん。そんなに力強く引っ張っては痛いです」
「ディアボロなんて放っていいんです。僕がご案内しますから。こっちですよ、さ、遠慮しないで」
フォルト君は、クララ姫を森の深部に連れていこうとする。
まさか、二人っきりになろうとしているんじゃないだろうな。
目の奥に欲望が渦巻いているぞ。
「フォ、フォルトさん、少し待ってくだ……けほけほっ」
クララ姫はせき込み、地面に座ってしまった。
ほら見ろ。
元々身体が弱っているのに、お前が無理に連れ回すから。
「こら、ディアボロ! なんてことをしてくれるんだ! クララさんの体調が悪化してしまったではないか!」
「……」
だから、なんで俺なんだ。
都合が悪くなったら、何でもかんでも俺のせいにしないでくれ。
『ゴブ!』
「僕の後ろに下がって、クララさん! ゴブリンです!」
「まぁ、あれが」
木陰からゴブリンが現れた。
手に持つは小さくも殴られたら痛そうな棍棒。
フォルト君は俺のことなど放置し、クララ姫の目の前に陣取っていた。
両手を広げ、口上を述べる。
「この憎きモンスターめ。可憐なクララ姫を襲うつもりだな。だが、この僕がいる限りそうはさせないぞ。クララ姫は僕が守る! この聖なる魔力の使い手たるフォルトがな!」
我らがフォルト君は、ゴブリンを激しく指さす。
Eランクの相手にも惜しみなく全力を出すのは、さすがの原作主人公様だ。
「見ていてください、クララさん! あなたは僕が守ります! ……<聖弾>!」
『グアアア!』
フォルト君の白い波動を食らい、ゴブリンは一撃で倒された。
一連の戦闘を見て、クララ姫はパチパチと拍手する。
「素晴らしいです、フォルトさん。あんなに怖そうなモンスターをこんな簡単に倒してしまうなんて」
「そうでしょう、そうでしょう! クララさんを守るために、僕が血も滲むような訓練を何年も積んできたんです! 今回の結果は努力のおかげですね! はーっはっはっはっ!」
フォルト君は高笑いしながら、倒れそうなほど反り返る。
ちなみに、ゴブリンは作中最弱のモンスター。
初期値の主人公でも撃破できる強さだ。
ゴブリンの身体から魔石が転がり出ると、フォルト君はドヤ顔でクララ姫に渡した。
「さあどうぞ、クララさん。あなたのために倒しましたよ」
「あ、ありがとうございます……」
二つもいらないと思うが。
クララ姫は嬉しそうな顔で受け取っていた。
優しい王女様だ。
「さーって、ディアボロ君。君に聞きたいことがある。ゴブリンを倒したのは誰かなぁ?」
「え」
いきなりなんだ。
そんな決め顔で聞かれても困るのだが。
というか、フォルト君だろ。
たった今自分で倒していたじゃないか。
なんでわざわざ聞いて……。
「だ・れ・か・なぁ!?」
「フォルト君です……」
圧がすごいので答えたら、件の彼は満足気な顔になった。
……なにこれ。
俺はいったい、何をさせられているんだ。
いや、たぶん、クララ姫にアピール……しているのかな。
彼女は小鳥に夢中だけど。
「こらっ、僕の邪魔をするんじゃない」
そして、フォルト君は小鳥に嫉妬する。
さりげなく手を叩いたりしては、追い払おうとしていた。
なんか、原作主人公なのに小物っぽいんだよな。
フォルト君がいると魔石採取に手こずりそうだと思ったとき、目の前の草むらがガサガサッと揺れた。
「あっ、アーマーディアじゃないか」
角がゴツくて太い、大きな鹿が現れた。
アーマーディア。
こいつはCランク。
鉱石が主な餌で、角や体表は硬い鱗で覆われている。
1年生の平均レベル的には、そこそこの強敵だな。
クララ姫は厳しい顔つきで立ち上がる。
「ま、また、モンスターが現れましたわっ」
「僕にお任せを! <聖弾>!」
すかさず、フォルト君は攻撃を放つ。
お馴染みの白い波動は、アーマーディアに直撃した。
モクモクと煙が立つ。
「すごいですわ、フォルトさん。また攻撃を外さないなんて」
「どうだぁぁああ、ディアボロォォォオ! 君が何もせずぼんやりと突っ立っているから、僕が先に倒してしまったぞ。いくら学校での成績が良くても、社会に出たら無能! まさしく、貴族の坊ちゃんだなぁぁあ、君はぁああ!」
顔もセリフも完全に悪役になっているぞ、フォルト君。
彼はよっぽど俺のことが嫌いらしいな。
『ゴルル……』
だがしかし、煙の中から当のアーマーディアは現れた。
身体の表面に多少の汚れはついているが、ほとんどノーダメのようだ。
フォルト君の顔が引きつる。
「ど、どういうことだ……なぜ、僕の攻撃が効いていないんだ」
弱いからだよ。
魔力の質を見る限り、あまり鍛錬を積んでいないのだろう。
Cランクが相手ともなれば、身体と魔力を鍛えないとさすがに勝てない。
危ないから即死させるか、と思ったら、クララ姫が魔法を発動させた。
「今度は私が戦います! 《蔦縛り》!」
『グッ!』
地面からツタが生えてきて、アーマーディアの身体を縛った。
クララ姫は木属性の使い手だ。
魔力で植物を操ったり、生成したりして戦う。
呪いに侵されてからも、魔法の鍛錬は積んでいたらしい。
彼女の生み出したツタは敵を縛りつけて離さず、ギリギリと締め付ける。
『ッルァ!』
「そ、そんな……!」
しかし、アーマーディアが暴れると振り切られてしまった。
太い蔦がぽとぽとと地面に落ちる。
さすがはCランクのモンスターだ。
クララ姫の魔法も強力だが、完全に倒すまでは至らなかった。
フォルト君は彼女の手を取ると、一目散に駆け出そうとする。
「クララさん、ここはディアボロに任せて逃げましょう!」
「いえっ、仲間を置いて逃げるわけにはいきませんわっ」
「大丈夫ですよ、クララ姫。今倒しますから……《闇剣の雨》」
『グァァァ……!』
無数の黒いナイフが、勢い良くアーマーディアに降り注ぐ。
闇魔法で生成した魔力のダガーだ。
鎧のような硬い鱗を突き破り致命傷を与える。
あっという間に、巨大な鹿は地面に崩れ落ちた。
唖然とする二人の仲間。
またフォルト君に文句を言われるのかなと思っていたが、その前にクララ姫が拍手喝采で讃えてくれた。
「……ディアボロさん、ありがとうございます! あれほどの強敵を簡単に倒してしまうなんて、ディアボロさんの実力は噂以上なんですね!」
「いえいえ、それほどでもありませんよ」
まぁ、アルコル師匠(今はコルアル)の元で必死に修行を積んだからな。
さて、クララ姫の呪いも早く解こう。
そう思ったとき、フォルト君が彼女の手を強く引いた。
「さあ、向こうに行きましょう、クララさん! ここにいたら、また新しいアーマーディアが来るかもしれませんよ! 今度は僕がお守りしますから!」
「す、すみません、フォルトさん。魔法を使った後は少し休まないといけなくて……」
クララ姫の都合などまるでお構いなしだ。
自分のことしか頭にないらしい。
「お、おい、やめろよ。クララ姫が苦しそうじゃないか」
「黙れ、ディアボロ! 僕に指図するな! そんな権利はないぞ!」
「そうじゃなくてだな……」
「うっ……」
制止するもフォルト君は聞かない。
ついには、クララ姫が胸を抑えて倒れてしまった。
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