第3話:修行、マジキツいのだが?
数日後、父上に呼ばれたので本邸に向かう。
なぜかマロンも一緒に行動したいとのことなので、彼女も連れていく。
屋敷の前には、すでに父上が立っていた。
「ディアボロ、貴様が望んだ家庭教師が来た」
「! こんなに早く……ありがたき幸せ!」
「こちらが“死没の森”に棲んでいる“死導きの魔女”――アルコル殿だ」
「えっ……」
「おお、こやつがお主の悪逆息子か。こりゃぁ、いじめがいがありそうじゃのぉ。死に顔を想像するだけで楽しくなるようなクソガキだわい」
父上の影から姿を現したのは、小さな幼女。
薄い紫の長い髪に、同じくラピスラズリのような紫の瞳。
手には魔法使いお決まりの杖を持っている。
あなたの方がクソガキじゃないですかね……と言いたくなるような風体だ。
――“死導きの魔女”、アルコル。
原作では全クリ後に戦えるラスボスの一人。
数十年前の魔族大戦で、父上と一緒に共闘した経験があった。
設定上、300歳は超えているはずだが、魔法で幼女の身体を保っている。
趣味は人の死に顔を見ること。
予想以上の大物過ぎて、思わず声が震えた。
「な、なぜ、アルコル様が家庭教師に……?」
「貴様の評判が悪すぎて、彼女以外断られたのだ。貴様の事故死を咎めないという条件で引き受けてくれた」
「弟子をとるなんて何百年ぶりかわからん。加減ミスって殺すかもしれんからよろしく」
「そ、そんな……」
……マジか。
さっそく、原作シナリオとは別のところで死亡フラグが立ち始める。
「おい、クソガキ。お前の魔法属性はなんじゃ」
「や、闇です」
「ほぉー! ワシと同じじゃの。仲良くできそうじゃ。とりあえず、ワシのことは師匠と呼んでもらおうかの。クソガキが死ぬまでの話じゃが」
目が笑ってませんけど。
アルコルの固有属性は、ディアボロと同じ闇。
本編でバトルする賢者をも凌ぐ魔法の使い手だ。
たしか、そんな彼女でも解放度は★9とかだった気がする。
というより、原作の中で解放度★10まで達したキャラはいなかったはずだ。
「アルコル、今回の修行では“超成長の洞窟”を使ってくれて構わない」
「……なんじゃと?」
「ディアボロが希望した。少しでも早く強くなりたいそうだ」
「ほぉ……」
アルコルの目が細くなった。
これはアレだ。
品定めするような視線だ。
「ということで、よろしく頼む。厳しくしてやってくれ」
「それにしても、よくお主が許可したな。悪逆息子のグズっぷりに呆れ果てていたじゃろうに」
「……まぁ……色々と思うところがあってな」
そう言うと、父上は屋敷へ帰った。
“超成長の洞窟”はここから歩いて五分ほど。
さっさと歩きだしたアルコルの後を、俺とマロンは慌てて追いかけた。
□□□
五分ほどで“超成長の洞窟”に到着した。
入り口は縦横3mくらいの穴。
洞窟内にはキングストン家の先祖が張った結界が展開されている。
経験値を爆速で溜める高性能の魔法だ。
「さて、クソガキの修行を始める前に一つ確認しておくかの。お前も一緒に修行するのか? さっきからクソガキを目で追っているそこのメイドじゃ」
師匠は視線をマロンに向ける。
「わ、私でございますかっ?」
「今なら大サービスじゃ。こんな機会、グランデの頼みじゃないとまたとないぞ。というより、ワシの申し出を断る人間なんて今までおらんかったが」
「あっ……いえ……私は……げほっ、ごほっ」
マロンはすぐに断るかと思ったが、なぜかもじもじしていた。
きっと、父上の手前言い出しにくいのだろう。
アルコルは嫌らしそうな笑顔でずいずいとマロンに迫る。
このイジワルな感じも原作再現が過ぎる。
こ、このままでは彼女の体調が悪化しちゃうじゃないか。
ので、守るようにマロンの前へ出た。
「マロンは修行しません」
「何でじゃ。ワシが師匠になってやろうと言うのだぞ」
「彼女は体調が優れないのです。その分、俺が修行しますから」
「……まぁ、そういうことならいいじゃろう」
アルコル師匠が引くと、マロンはホッとしていた。
彼女は洞窟の外で待機することになり、いよいよ修行の始まりだ。
「まず、クソガキの目標を聞いておこうかの。“超成長の洞窟”で修行したいとのたまうくらいじゃ。それ相応の理由があるんじゃろ」
「解放度を★10にしたいからです」
「……なぜじゃ?」
「そうすれば回復魔法が使えるからです」
アルコル師匠は何も言わない。
しかし、口の端がぐにゃぐにゃぐにゃ……と蠢いたかと思うと、大口を開けて笑い出した。
「ヒャーイヒャイヒャイ! そんなの、このワシでも聞いたことがないぞ!」
特徴的な笑い声を上げ、アルコル師匠は笑い転げる。
ドSなロリである彼女は、原作でもマニアな人気があった。
「面白い! ワシはクソガキが気に入ったぞ! 雨粒くらい!」
「そ、そうですか……」
「よし、じゃあ修行開始じゃ」
アルコル師匠について洞窟に入る。
何だかんだ、俺は楽しみにしていた。
だって、魔法の修行だぜ?
こんなの異世界転生でもしなきゃ一生できないぞ。
ま、どんなに辛い修行でも必ず耐えきってみせるよ。
俺は絶対に負けない!
◆◆◆
修行を初めて一週間。
「もっと腰入れるんじゃっ! 魔法舐めとんのかぁ!」
「ああああ~!」
「どうなんじゃっ!」
「舐めてません! 舐めてません! ああああ~!」
師匠に叩かれる(杖で)尻が痛い。
アルコル師匠にしばかれるようになってから、すでに一週間は経った。
その指導は厳しい。
さすがはラスボス“死導きの魔女”だ。
厳しいのだが、もちろん厳しいだけではない。
厳しさの中に垣間見える厳しさが厳しく、修行の合間にふと見せる厳しさがまた一段と厳しい。
……すまん、厳しさしかなかったわ。
「クソガキ、もう一度最初からじゃ。5個積み上げるまでは寝かせんぞ」
「は、はい」
アルコル師匠に言われ、ボロボロの身体で魔力を練り出す。
修行の内容は、魔力のボールを何個も積み上げること。
球体を造り積み木のように重ねる。
中では闇属性の特徴である黒いもやが渦巻いていた。
この修行方法は、魔力の維持、コントロール、放出力などの基本技術を一度に鍛えられるらしい。
効率が良い反面、とてもきつい。
許可が出るまで魔法が使えないという制約もまた、俺を苦しめる。
早く魔法使いたいぜ。
「ほぉ、だいぶ様になってきおったの。なかなかの上達ぶりじゃ」
「アルコル師匠の教え方が良いからですよ」
「まぁ、そりゃそうじゃな。ワシの貢献度が100パーセントじゃ」
そこは俺を褒めてくれ……とは思ったが、口に出すと尻を叩かれるので黙っておく。
魔力ボールは不安定な存在だ。
少しでも魔力量が多かったり少なかったりすると、互いに干渉して壊れてしまう。
なるべく集中する必要がある。
だが、度重なる修行の末、少しずつコツを掴み始めていた。
もう4個までクリアしたのだ。
汗だくになりながら、最後のボールを捻出……。
「おっ、あと少しじゃぞ! それっ! こちょこちょこちょこちょ~」
「や、やめてください、師匠……ヒャハハハハッ! ……あぁ、壊れちゃった……」
「ヒャーイヒャイヒャイ! これしきの妨害に邪魔されているようではまだまだじゃよ」
アルコル師匠に脇をくすぐられ、魔力ボールは全部弾け飛んでしまった。
――……賽の河原の石積みみたいなんだが。
まったく笑えない冗談だぜ。
“超成長の洞窟”もまた、容赦なく俺の体力を削る。
例えるならば、両肩にボーリング玉を乗せたまま、フルマラソンをさせられている感じだ。
日々の修行はもちろんのこと、睡眠でさえ洞窟の中。
理由はその方が効率いいから。
幼女のしばきが趣味という新たな目覚めが先か、回復魔法の習得が先か……俺はまた別の窮地に立たされていた。
昇天しそうになりながら魔力を練っていると、マロンの声が聞こえてきた。
「ディアボロ様、アルコル様。お昼ご飯を持ってまいりました」
「おおおー、飯がきたー! 修行は中断じゃ!」
「は、はい……助かった……」
アルコル師匠は大喜びで外へ出る。
唯一、食事だけは洞窟外で食べる許可が出ていた。
ご飯大好きだからな。
アルコル師匠は。
特にアイスクリームが好きらしく、毎回パンだとかに挟んだ料理を所望していた。
「ディアボロ様、お飲み物とタオルをどうぞ。少しでも疲れが取れるよう、一日中お祈りを捧げておきました。疲れが取れなかったら三日三晩捧げるのでおっしゃってください」
「ありがとう、助かるよ。……くぅぅ、水がうめぇ……」
今や、マロンだけが俺の癒しだ。
疲労で頭がぼんやりしており、後半のセリフはよくわからなかったが。
飯を食っていると、ステータスを見たくなった。
ちょっと確認してみるか。
変わってなかったら萎えるな……ステータスオープン!
結論から言うと、初期値よりものすごく上昇していた。
【ディアボロ・キングストン】
性別:男
年齢:14歳
Lv:13
体力値:50
魔力値:200
魔力属性:闇(解放度:★4)
称号:元暴力令息、給料上げてくれる人、クソガキ、スパンキングボーイ、努力家
なんか色々変わってた。
魔力値が上昇しているのは当たり前として、体力値もアップしているんだな。
尻を叩かれ、体力がついたのだろう。
そして、特筆すべきは闇属性の解放度が★4!
いい感じじゃないか。
称号はたぶん、他者からの評価なんだろうな。
クソガキはアルコル師匠命名って感じか。
ちょっと待て、スパンキングボーイってなんだ? ……もしかして、尻叩かれ男子ってことか?
不名誉が過ぎる。
俺の栄誉のためにも早急に修行を終わらすことを決心していると、マロンが俺の汗を拭きながら呟いた。
「ディアボロ様……どうして、そんなに頑張られるんですか? 傍目から見ても、大変に厳しい修行だと思います。ディアボロ様だって遊びたい盛りでしょうに……」
「ああ、俺はな。絶対に回復魔法を習得したいんだよ」
そう言うと、マロンはポカンとした。
「回復魔法……でございますか? お言葉ですが、闇属性では習得が不可能に近いのでは……」
「それでも俺は絶対に諦めない。……マロンの病気を治したいんだ」
断罪フラグを回避するために。
なぜかまたマロンは顔を赤らめるわけだが、体調は大丈夫だよな?
俺はもう心配でしょうがない。
癒しの時間はあっという間に終わり、地獄の修行が再開する。
でも、何だかんだ楽しかった。
前世の俺は病気でろくに活動できなかったからな。
こんなに何かに打ち込めるなんて幸せだと思う。
朝から晩まで洞窟で過ごす生活を送るうち、さらに二週間が経っていた。
お忙しい中読んでいただきありがとうございます
少しでも
・面白い!
・楽しい!
・早く続きが読みたい!
と思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!
評価は広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にタップorクリックしていただけると本当に嬉しいです!
ブックマークもポチッと押すだけで超簡単にできます。
何卒応援よろしくお願いします!