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第28話:強敵バトルで無双する

「フォ、フォルト! いきなり何をするんだ! 危ないだろう! マロンを傷つけるな!(断罪フラグが立ったらどうする! もしかしたら、俺のせいにされるかもしれないだろうが!)」

「ディアボロ様……」

「こ、こら、やめなさい」


 こんな状況にもかかわらず、マロンはひしっ……と抱き着いてくる。

 火に油を注ぐだけのような……。

 案の定、フォルト君は鬼のような形相になった。


「ディアボロ! 責任をとれ!」

「なんの!?」

「とぼけるな! 僕の輝かしい学園デビューを奪った責任だ! 僕が一番特別なはずなんだよ! お前がいたせいで、僕の煌めきはくすんでしまったんだ!」


 フォルト君が何を言っているのか、まったくわからない。

 これは俺の読解力の問題だろうか。

 内心焦っていたら、マロンがそっと話しかけてきた。


「ディアボロ様……フォルト君は何を言っているんでしょうか」


 良かった。

 マロンもわからないって。

 そんな俺たちに構わず、フォルト君はなおも謎の主張をする。


「聖属性の魔力を持っているのは、この学年で僕だけ! だから、一番特別な存在は僕! こんなこともわからないのかね!?」

「でも、聖属性なら二年生にも三年生にもいたような……」

「正論は求めていない!」


 フォルト君の怒鳴り声で、俺の言葉はかき消された。


「ディアボロ様、なんだか様子がおかしいです。怒っている理由もよくわかりませんし。逃げますか?」

「そうだな。見なかったことにしよう。きっと、彼にも色々あるのだろう」


 これが平常運転だったら逆に怖いが。

 刺激しないように、そっとフォルト君から離れる。


「こら、逃げるな! 僕が聖なる力でお前を浄化してやる! 環境に甘えた傲慢貴族め、覚悟しろ!《聖弾》!」

「うわっ、あぶなっ!」

「ディアボロ様っ!」


 フォルト君は光の弾をいくつも放ってくる。

 いったい何がしたいんだ、彼は。

 一応、この試験では生徒同士の戦闘は禁止されていない。

 倒した相手チームのポイントを奪うこともできるし、実地訓練にもなるので、むしろ奨励されているくらいだ。


「クソがっ! 避けるんじゃねえ、ディアボロ! とっとと塵になっちまえってんだよ! ちくしょうっ! 一度、魔力を溜めねえと!」


 めっちゃ悪役のセリフやん……。

 顔つきも恐ろしいし……。

 フォルト君に何があったんだ。

 ……あれ?

 攻撃を躱しながら光弾の弾ける様子を見ていると、とある疑問が思い浮かんだ。


 ――なんで、フォルト君は聖属性なのに攻撃魔法が使えるんだ?


 設定としては、習得は回復→攻撃の順番なんだが。

 そう、ちょうど闇属性と反対だ。

 最低でも、解放度が★5を超えないと攻撃系の魔法は習得できないはずなのに……。


「フォルト君がこんなにディアボロ様を敵視しているとは思いませんでした。仕方がありません。ディアボロ様の素晴らしさをその身に教え込まないといけませんね。《灼熱……」

「ちょっと待って!」

「……なぜ止めるのですか、ディアボロ様。私、もう我慢できません。骨の髄まで燃やし尽くさないと……」

「抑えて、マロン!」


 マロンのあびゃああ! からのフォルト焼きはまずい。

 そりゃあもう、色々とまずい。

 シナリオ崩壊どころじゃない。


 ――いや、むしろ彼女に殺してもらった方が将来安泰なのか? 俺を断罪する人間がいなくなるわけだし。


 ――待て待て待て! そうじゃないだろ! 人を殺して幸せになるなんてダメだろうが!


 ――でも、フォルト君が生きている限り、ずっと断罪の恐怖と戦わなければならないぞ?


 ~~~~~!

 頭の中で天使と悪魔が戦う。

 どうにかして誘惑(悪魔の)を断ち切ったとき、野太い男の声が響いた。


「おい! 勝手な行動をするな!」

「チィッ! もう追いかけてきやがったか」


 暗闇から大柄の男が現れる。

 バッドだ。

 そういえば、フォルトのペアは彼だっけ。

 女と組みたがっていただろうに、バッドが相方でやるせない。

 突然、フォルトが俺の後ろを指して叫んだ。


「ああっ! あそこでシエルさんが襲われているぞー! 今にも食われそうだー! 誰か助けろー!(棒)」

「なにぃいいい!? シエルが襲われているだとおおお!」


 断罪フラグが!

 大慌てで振り返るも、そこにシエルはいなかった。

 マロンが倒した、大量のモンスターの魔石が転がっている


「隙あり! 《聖弾》!」

「いてっ!」


 頭に軽い衝撃を受ける。

 テニスボールがやんわり当たったような衝撃だ。

 振り返ると、フォルト君が手の平を俺に向けていた。

 不意打ちしてきたというわけか。

 原作主人公なのに、小物感が溢れているのはなぜなんだ。

 突然、バッドがフォルト君の頭を思いっきり殴った。


「ぐあああ! な、何をする! 僕の麗しい顔に傷がついたらどうするつもりだ! 世界中の美女を虜にするほどの美貌だぞ!」

「ばかやろう! 漢なら正々堂々と戦いやがれってんだよ!」


 フォルト君はバッドに説教される。

 原作では絶対に見られない光景だと思ったとき、ダンジョン全体がわずかに揺れた。

 地震というより、上層階で何かが暴れているような振動だ。

 天井にヒビが入り、ガラガラと瓦礫(がれき)が崩れ落ちる。

 まずい、落下点にはバッドとフォルト君が!


「うぉっ! なんだ、天井!?」

「お前の声がでかいから崩れたんだぞ! 責任とれぇ!」

「危ない、二人とも! 《闇の結界(ダークネス・バリア)》!」


 とっさに防御魔法で二人を守る。

 黒い光が彼らを覆い、瓦礫を弾いた。


「おおっ! すげえ! さすがディアボロだ! サンキュ!」

「今のはたまたま反応が遅れただけだ! 本来の僕なら君に助けられるはずが……!」

「二人とも早くこっちに来い! 危ないぞ!」

「ディアボロ様の近くにいれば安全です!」


 バッドはフォルト君を引きずりながら走ってくる。

 俺たちの隣に着いた瞬間、天井の穴から巨大な何かが落ちてきた。

 砂ぼこりが漂う中、薄っすらと人型の影が浮かぶ。

 ゆらりと現れたのは、全身が鋼で覆われたモンスター。

 敵の姿が明らかになると、バッドとマロンが悲鳴に近い声を上げた。


「こ、こいつは……アイアンゴーレムだ! こんなモンスターまでいるのかよ!」

「大変です、ディアボロ様! かなりの強敵ですよ!」


 アイアンゴーレムは、れっきとしたAランクのモンスターだ。

 サラマンダーなど比べ物にならない。

 厄介なことに、こいつは即死未満の攻撃を与えると増殖する。

 原作でもダンジョン脱出イベントの大きな壁で、勝利するのは不可能だった。

 いわゆる、“負けイベント”だ。

 ペアの仲間もろとも体力が尽き死んでしまう。

 遭遇しないように立ち回り、それでも出会ってしまったら、逃げるボタンを連打するしかない。

 そもそも、さっきのサラマンダーでさえ勝つのは相当レベルを上げていないと倒すのは難しい。


『……』


 アイアンゴーレムはじりじりと近づいてくる。

 壁にかけられた松明に照らされ、その鋼の肉体が鈍く光った。


「みんな、一旦逃げよう! ここは退避するんだ!」

「「あ……あ……」」


 マロンもバッドもフォルトも、アイアンゴーレムを見たまま震えている。

 初めて見るAランクモンスターに怖気づいてしまっていた。

 いくら修行を積んでいても、国内最高峰の学園に通っていても、まだ学生なのだ。

 ふと、俺は思った。


 ――これが“負けイベント”なら、みんなはどうなる……? 死ぬのか?


 ゲームなら、負けてもまたイベント開始時に戻るだけ。

 だが、これは現実だ。

 人が生きる世界だ。

 たぶん死ぬことはないだろうが、大怪我を負うことは間違いないだろう。

 魔法で治せるとはいえ、痛い思いはしてほしくない。


「ちくしょう! 女も抱けずに死んでたまるかよ! こいつは僕が倒す!」

「待て、フォルト! 早まるな! あいつは……!」

「だまれ、ディアボロ! 僕に命令するな! ……《聖弾》!」


 白い光の弾が、アイアンゴーレムの頭に直撃する。

 モクモクと煙が立ち、フォルト君は激しい雄叫びをあげた。


「よっしゃああああ! どうだ、ディアボロ! 僕の聖なる攻撃でゴーレムは完全に破壊されたぞ!」


 フォルト君は雄叫びをあげ続ける。


「さあ、ディアボロ。僕の学園デビューを奪った責任を取り、退学してもらおうか……な、なに!?」


 煙が消えると、アイアンゴーレムが再び姿を現した。

 2体。

 フォルト君の攻撃で分裂しちゃったんだな。


「ど、どうして、僕の攻撃が効いていないんだ! しかも増えてるぞ!」

「こいつはダメージを受けると分裂するんだよ。だから、一撃で即死させないと倒せないんだ」

「そういうことは先に言えよ! 攻撃しちゃったじゃないか!」

「だから、待ってくれとだな……」


 フォルト君は俺の肩を掴んでは揺すりまくるが、バッドに羽交い締めにされていた。


「ディアボロ様、どうしましょう。あんな強敵見たことがありません」

「俺が倒すよ、みんなはここで待っていてくれ」

「「ディアボロ(様)!」」


 闇の剣を創造し、勢い良く駆けだす。

 もちろん逃げる選択肢もあったが、さっさと倒した方がよさそうだ。

 フォルト君が暴れる可能性もあるからな。

 アイアンゴーレムは腕を振り上げ、俺を叩き潰そうとする。


「《闇迷彩ダークネス・カモフラージュ》!」

『『……!』』


 すかさず、闇魔法を発動する。

 俺の身体が周囲と完全に同化した。

 目標を見失ったためか、アイアンゴーレムの腕は空振りする。

 こいつらの身体はでかいし、厄介な特殊能力もあるからな。

 確実に沈められる一撃を放て。

 アイアンゴーレムの後ろに回り込むと、瞬時に魔力を練り上げた。


「《闇の大斬撃ダークネス・メガスラッシュ》!」

『『!』』


 増幅された魔力とともに剣が巨大化し、アイアンゴーレムの身体を切り裂いた。

 一撃の後、その胴体が斜めに崩れ落ちる。

 マロンたち三人は、呆然と佇んでいた。


「と、まぁ、こんな感じかな……うわっ」


 空気の揺れが収まると同時に、マロンとバッドが抱き着いてきた。


「ディアボロ様! ありがとうございます!」

「すげえヤツだと思っていたが、お前は想像以上に強いんだな! 完敗だぜ!」

「は、離れてくれ……苦し……」


 マロンはともかく、バッドの締め付けがきつい。

 彼は見た目通り、力がとても強いのだ。

 ……いや、マロンの抱き締めも相当なものだった。


〔アイアンゴーレム2体の討伐を確認。ディアボロ・マロンチームに4000ポイント加算されます。単独1位を維持しています〕


 下手したら気絶しそうだったが、手の紋章から聞こえたアナウンスで意識を繋いだ。

 バッドはよりハイテンションになる。


「4000ポイント!? すげえ! ぶっちぎりで一番じゃねえか!」

「げほっ……そ、そうかな……」


 まぁ、バッドの言う通りだろう。

 前世でプレイしていたときだって、こんな高得点は出たことがない。

 フォルト君はというと、少し離れたところでプルプルと震えていた。

 こ、今度はなんだ? と思う間もなく、ビシィッ! と指を差してきた。


「本当なら僕が倒していたんだ! たまたま調子が悪かっただけなんだよ! だから覚えていろ、傲慢で怠惰なディアボロ! いつか必ず僕がお前を……ぐあああ、だから引っ張るな!」

「世話かけたな、ディアボロ、マロン。せっかく、お前らとバトれると思ったのによ。いつか真剣に戦おうぜ」


 我らがフォルト君は、バッドに引きずられながら暗闇に消えていった。

 しばしポカンとする俺とマロン。


「さ、騒がしくてすまんな、マロン」

「いえ、ディアボロ様のせいではありません。それより、お怪我ありませんか? フォルト君が頭に攻撃していましたが」

「全然大丈夫だよ。修行の成果が出ているんだろうな」


 マロンは俺の頭をまさぐっていたが、やがて真面目な表情で告げた。


「それはそうとして……」

「は、はい」


 こほんっと小さく咳払いする。

 なんか、目の光が消えている気がするんですが……。


「シエル様を心配するときのディアボロ様の声は、私と話すときより1.2倍大きかったですね」

「え」

「これからはもっと愛の心をたぎらせることにします。それこそ、ディアボロ様が溶けて私と一体になるくらいに」

「あ、いや、マロンの気持ちは伝わっています! 熱すぎるほど十二分に伝わっています!」


 だから、目に光を戻してくれええ!

 必死にマロンを宥めながら、俺たちは上層へと向かう。

 単独1位は維持できているが、断罪フラグとはまた別の意味で命の危険を感じていた。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】


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[一言] ヤンデレに手綱を渡してはいけません! ちゃんとベッドの中で躾ないと後が大変になりますよ?
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