第２７話：襲撃者
『ゴアアア！』
「さすがに熱いな。近寄ると火傷しそうだ」
「ディアボロ様、私はいつでも戦う準備はできています」
“死者の石窟”２階の、少し開けた空間。
そこで、俺たちはＢランクのサラマンダーと対峙していた。
全身を覆う炎は燃え盛り、離れていても熱を感じる。
脱出という仕様上、モンスターのランクは階層ごとランダムだ。
なので、上層階でも強力な敵が現れた。
『グルアアア！』
「気をつけろ、マロン！」
「は、はい！」
サラマンダーはいくつもの火球を放つ。
俺とマロンはとっさに横へ移動して躱した。
床の表面が薄っすら溶ける。
さすが、かなりの高温だ。
離れたマロンに向かって叫ぶ。
「サラマンダー相手だと火属性は相性が悪い。ここは俺に任せてくれ」
「わかりました！ やっぱり、ディアボロ様は私が怪我しないように気遣ってくださるのですね。モンスターを焼き殺せないのは残念ですが、ディアボロ様の愛を感じる方が大事なので……」
彼女なら相性などガン無視でねじ伏せそうだったが、念には念だ。
マロンは頬に手を当てながら、くねくねと身をよじる。
きっと、顔が赤くなっているのは、サラマンダーの熱のせいだ。
発熱じゃないだろうから、安心して戦えるな。
「《闇の剣》！」
魔力で黒い剣を生成する。
いつも魔法で戦うことが多いからな。
剣術の経験も積んでおきたい。
学園入学前、父上が稽古をつけてくれたから、実戦を経て自分のものにしたいのだ。
『ゴルアアアア！』
火球を躱しながらサラマンダーに近寄る。
こいつは強力な火属性のモンスターだが、攻撃するときは動きが止まる。
そこが弱点だ。
「《ディアボロ斬り》！」
『ァァァ！』
「ディアボロ様、素敵でございます！ まさしく、エイレーネ一の大剣士！ 超一流！ キングストン家の名に恥じない色男！」
剣に魔力を巡らせ、炎の鎧ごと首を斬った。
ゴトンとサラマンダーの頭が落ち、魔石に変わる。
言っておくが、俺のネーミングセンスは結構イケてると思う。
とっさに考えついた割りには、なかなかの技名にできた。
顔を焦がすほどの熱気は消え、ダンジョンに静寂が戻ってくる。
手の紋章からは声が。
〔サラマンダーの撃破を確認。ディアボロ・マロンチームに１０００ポイント加算されます。現時点で、トップのポイントです〕
すごいな、一体でグレムリン三体分のポイントを上回ったぞ。
きっと、サラマンダーはＢランクだからだな。
マロンが手を振りながら駆け寄ってくる。
「ディアボロ様、お疲れ様でした。お怪我はありませんか？」
「ああ、大丈夫だよ。マロンこそ怪我とか火傷はしていないか？ 少しでも身体が傷ついたら教えてくれよ。すぐ治すからな（断罪フラグを潰すために）」
「……はぃ」
サラマンダーは倒したのに、彼女の顔が赤くなるのはなぜだ。
やっぱり発熱しているんじゃないかと心配になる。
「マロン、具合が悪かったら遠慮せずに……」
「ディアボロ様、また新たな敵です！」
「なに？」
サラマンダーとの戦闘音を聞きつけたのか、モンスターたちが集まってきた。
スケルトンにデビルバッド、マミーにスライム……。
ＣやＤランクの雑魚ばかりだが、ちょっと数が多い。
マロンは元気いっぱいの声で言う。
「ディアボロ様、今度は私に戦わせてください！ 私が普段から、どれくらい愛の炎を滾らせているか見てほしいんです！」
「あ、うん」
いきなり重いセリフを告げられ少々面食らった。
マロンは意気揚々とモンスターたちの元へ近寄る。
見たことないくらいハイテンションな勇み足だった。
「《地獄の炎渦》！」
『『ぶぎゃああああ！』』
サラマンダーとは比べ物にならないほどの、とんでもない業火がモンスターたちを襲う。
瞬く間に炎の渦が迸り、マロンはモンスターが燃え盛るのを見て喜ぶ。
お、おい、そんなに近くにいたら火傷するぞ。
俺が隣に行くと、彼女は酔いしれた声を上げる。
「あびゃあああ！ モンスターが燃えてるううう！ 良い匂いいいい！ ディアボロ様あああ、見てくださっていますかああ！ これが私の愛いいい！」
「う、うん、よく見ているよ。だから、もう少し抑えてくれると嬉しいな」
「わかりましたあああ！ マロンにお任せをおおお！ あびゃあああああ！」
やはり、モンスターが燃え尽きるまでは待つしかないようだ。
そう思ったとき、不意に俺たちの後ろに何かの気配を感じた。
ん？ 新手のモンスターか？
振り返る間もなく、その何かは叫んだ。
「《聖弾》！」
「危ない、マロン！」
白い光の弾が猛スピードで飛んでくる。
マロンを抱きかかえるようにして避けた。
「ディ、ディアボロ様、どうしたのですか！？ 今のはいったい……！」
「わからん。マロン、警戒を怠るな」
通路の暗闇を伺う。
わからんとは言ったが、今の攻撃からある程度の予想がついていた。
――さっきのは聖属性の光だ。まさか……。
間違っていてくれ……と祈っていたが、神に祈りは通じなかったようだ。
「覚悟しろ、ディアボロ。この僕がお前の伸びきった鼻をへし折ってやる」
我らが主人公、フォルト君が現れた。
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