第24話:大事な目標
「いやぁ、清々しい朝ねぇ。まるで新しい一日を祝福してくれているみたい。ディアボロもそう思うでしょ」
「う、うん、そうだね……」
「本当なら私が独り占めしていたのに……ぐぎぎ……」
翌朝、シエルとマロンと一緒に寮を出て教室に登校した。
我が婚約者殿はツヤツヤと顔が輝いているが、俺は座っているのも辛い。
筋肉痛で。
昨晩はさすがに大変だったな……。
まぁ、二対一より幾分か負担は少なかったかもしれない。
「シエル様、今晩は私もご一緒してよろしいですよね? 一日もお預けされるなんて、心が燃え盛っています」
「う~ん、そうねぇ……ダメ!」
「え!?」
「なんて、嘘。今日からまた一緒に楽しみましょう」
「やった~! ありがとうございます、シエル様! ディアボロ様、今夜は覚悟してくださいね! 昨日の分もありますから!」
「お、おう、頑張るよ……」
マロンは両手を上げて大喜びだ。
――……大丈夫かな、俺。
このままじゃスケルトンになりそう。
アプリカード先生に怒られそうな話をしていると、グイッと誰かに肩を引かれた。
「おい、ディアボロ。ちょっと面貸せや」
「え……?」
振り返ると、強面男が俺を睨んでいた。
金髪はサッパリと短くし、赤い瞳の目は焚き火のように煌めいている。
2m手前ほどの大柄な身体は、格闘技でもやっているかのように筋肉質で力強い。
こいつはたしか……。
「バッド・スクレイ……」
由緒正しき侯爵家の令息だ。
スクレイ家は魔術より剣術や体術を重視する風潮が根強いらしく、レオパル先生みたく魔法で身体を強化して戦う戦士が多かった。
出身者もそのほとんどが王国騎士団のお偉方。
原作ではヒロインと一緒にいる主人公にやたらと難癖をつけては絡んでくる。
結局、いつも追い返されるのだが。
好感度が上がると絡んでくる理由が明らかになるらしいが、俺は最後までわからなかった。
かませ犬的なポジションだったのか?
「お前に聞きたいことがある。外に出ろ」
「えぇ……」
「早く来い」
なんだよ、このクソ疲れているときに。
テンション低くトボトボと廊下に出る。
バッドは静かに扉を閉めると、突然俺の両肩を掴んできた。
大変に力強いので、ミシミシ……と骨が軋む。
「いったっ……! な、なんだよ、いきなり」
「どうやったらあんなにモテるんだ!」
「はぁ!?」
意味不明のセリフを叫ばれ、思わず面食らった。
何を言い出すかと思ったら……。
「頼む! 俺にもモテる秘訣を教えくれ! シエルにマロン! どっちも最高レベルの美女じゃないか! お前は暴虐令息だろ!? どうしてあんなに親密なんだ!」
「そ、それはだな……俺は改心して二人の病気と怪我を……」
「婚約者がいるのにメイドとも同棲しているなんて! 羨ましいんだよ、ちくしょー!」
人の話を聞け。
「そうは言ってもな。こっちはこっちで大変なんだぞ」
「それが羨ましいって言ってんだよ! うおおおお! 俺も婚約してぇー!」
バッドは拳を握りしめ、力強く叫ぶ。
何なんだ、こいつは。
こんなに破天荒なキャラだっけ?
……ちょっと待て。
もしかして、原作でやたらと絡んできた理由って……。
「モテたいからかよ!」
「だからそう言ってるだろうが!」
「フフ……朝から楽しそうな話題で盛り上がっていますね。元気で大変よろしいことです。学内の風紀を乱さなければですが」
絶対零度の声が聞こえる。
振り返るといた。
アプリカード先生が。
ニコニコと大変美しく笑っていらっしゃる。
俺は背筋が凍ったが、バッドは真正面から反抗した。
「先生、すまん。今は男同士の大切な話をしているんだ。邪魔しないでもらおうか」
さすがはスクレイ侯爵家の令息。
原作通りの強気ぶりだ。
「そうでしたね。では、退学にしましょうか。この書類にサインしなさい」
「申し訳ありませんでした。教室に入ります。先生の荷物持ちます」
バッドはそそくさとアプリカード先生の荷物を持ち、教室のドアを開ける。
さっきまでの強気はどこにいったんだ。
俺も教室に入り席につく。
「どうしたの、ディアボロ。なんだか騒がしかったけど。どうしようかな。ディアボロの敵は私の敵だし」
「喧嘩ですか? もしあれだったら私が代わりに燃やすますが」
「い、いや、違うよ! 喧嘩とかじゃないから大丈夫……!」
必死になって否定する。
あいつの命が危ない。
バッドは前の席に座ったと思いきや、さりげなくこちらを振り返った。
グッドサインまで送ってくる。
こ、今度はなんだ?
(後でモテる秘訣を教えてくれよな!)
やかましいわ!
「……ディアボロさん?」
「す、すみません! 集中します! もう大丈夫です!」
「まったく色ボケしないでくださいね。……ごほんっ! 今日は授業を始める前に大事な話があります。みなさんは、オートイコール校……という名前を聞いたことはありますね?」
アプリカード先生が咳払いをして話すと、教室は小さなざわめきで包まれた。
――オートイコール校。
王国の北方にある貴族学園だ。
“エイレーネ聖騎士学園”と同レベルの学校だ。
生徒も教員も我が校と遜色のない実力という設定だった。
「来月の末、伝統の親善試合が行われます。この先の二ヶ月の評価が、選抜メンバーを選ぶ基準になります」
そのまま、アプリカード先生は選抜の詳細について説明する。
日々の授業態度の他、筆記試験や実技試験が評価になるとのこと。
概ね原作通りだな。
「オートイコール校と戦うなんて、こういうときしかできないでしょうね」
「どうなさいますか、ディアボロ様?」
「もちろん、死ぬ気で選抜メンバーを目指すよ。死んでも選ばれる」
この親善試合は原作の序盤における、極めて重要なイベントだ。
というのは、オートイコール校にもメインヒロインがいるのだ。
彼女もまた心身に不調を抱えている。
過去、ディアボロにいじめられたせいでな。
今も癒されるのを待っているのだ。
もしフォルト君が先に治してしまっては、俺の断罪ルートが復活してしまう。
「ディアボロが死ぬ気でやるんなら、私たちもそれくらいの気概で挑まないとね」
「ええ、そうです。ディアボロ様を目指すと決めたときから、どんな努力も惜しまないつもりでいます」
両隣からゴゴゴ……という音が聞こえたので、何かと思ったらシエルとマロンだった。
なぜか、二人とも大変やる気に満ちあふれている。
そして、少し離れた席からもやる気のオーラが……。
デイジーとバッドだった。
「前期最後の山場です。この二ヶ月間、今まで以上に気を引き締めて取り組むように」
あの~、俺の方を見ながら言わないでもらえますかね?
さて、このイベントには俺の命がかかっている。
何が何でも選抜メンバーに選ばれてやるぞ。
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