第21話:のんびりしている場合じゃないだろ
「……じゃあ、フォルトはずっとあなたを見下していたのね」
「う、うん……まぁ、私が地味なのがいけないんだけど」
「そんなわけないじゃない。あなたは何も悪くないわ」
「ありがとう、シエルさん……」
今、俺たちはデイジーから事の経緯を聞いていた(シエルの超奉仕を受けることを約束し、どうにか機嫌を治してくれた。もつかな……)。
デイジーはフォルトと組んだものの、地味だとか僕様の隣にはふさわしくないだとか、暴言をずっと言われていたらしい。
聞けば聞くほど胸糞悪い話だ。
「ねえ、ディアボロ。デイジーも一緒のチームに入れてあげましょうよ。一人でこの森を切り抜けるのは大変だわ」
「あ、ああ、そうだなぁ……。でも、三人で組んでもいいのだろうか。ルール違反とかになるとデイジーにも悪いし」
「たしかに、そうねぇ……」
「ペアが逃げたときの対応とか聞いてないよな」
「ごめん、私のせいで……」
「いや、全然大丈夫」
どうしたもんかな、と思った時だ。
……ちょっと待て。
俺は大変な事実に気づいた。
――もしかして、俺は今断罪フラグの真っ只中なんじゃないのか?
そうだよ。
この試験はモンスターと戦う。
つまり、各ヒロインが怪我をするリスクが常にある。
おまけに、フォルト君が治してしまう可能性が十二分にある。
俺にはわかる。
もしそうなったら、何だかんだディアボロのせいにされると……そして、断罪……。
「……ぼぎゃああああ!」
「「ど、どうしたの、ディアボロ(君)!?」」
俺はなにのんびり楽しんでんだ。
そんな場合じゃないだろ。
命の危機にあるんだぞ。
シエルの手を硬く握る。
「頼む、シエル!」
「な、なに、こんなところで……森の中だし、デイジーもいるのよ」
「そうじゃなくて! 重力魔法のコツを教えてくれ!」
この危機的状況を打破するには、シエルの魔法が必要だ。
「重力魔法のコツ? そんなの簡単よ。わかりやすく教えてあげるわ」
「ありがとう、シエル! 君は命の恩人だ!」
さすがディアボロの婚約者、シエル・ディープウインドゥ伯爵令嬢。
素晴らしい才女だ。
「グガァーッと全身に魔力を込めて、ゴゴゴゴゴーッと溜めたら、ハッ! と放出するの」
「ふむ……」
なるほど、わからん。
シエルは感覚派のようだ。
ゲームを遊ぶだけじゃわからなかったこと。
新しい一面が知れて良かったね……って喜んでいる場合かーい。
俺にできるのか不明だが、やるしかない。
今この瞬間にも怪我をしている生徒がいるかと思うと、もう気が気じゃなかった。
「グガァーッ! ゴゴゴゴゴー! ハッ! 《闇の反重力》!」
俺の身体が少しずつ地面から浮き上がる。
やった! できた!
「う、嘘! あの説明で本当にできるなんて!」
「ディアボロ君って天才だったの!?」
シエルとデイジーの声が遠くに聞こえるほど、高く空中に浮かんできた。
この高さまで上がると、森全体が見渡せるな。
「よし、次はモンスターだ。グガァー! ゴゴゴゴゴー! ハッ!」
さらに森全体に魔力を張り巡らせると、モンスターが空中に浮かんできた。
オークにトロール、ゴブリン、コボルド、ファイヤーリザード、ホーンウルフ……。
森の中には大量に隠れていやがった。
こいつら全員、破滅フラグの種に見える。
となれば、やることは一つだ。
「《闇・葬送》!」
『『ゴアアアア!』』
両手を硬く握りしめた瞬間、全てのモンスターが潰されていく。
森に木霊する断末魔の叫び。
思ったよりグロイ光景に、ちょっと罪悪感が滲んだ。
いや、すまん……俺も命がかかっているんだ。
ボトボトと魔石が落ちるや否や、即座にシエルが魔法を発動する。
「《吸重力》!」
魔石がシエルの手に、吸い込まれるように集まっていく。
いやぁ、抜け目がない。
きっと、あれも高度な重力魔法なのだろう。
闇魔法を解除し、地面に降り立つ。
「ディアボロ、今のはなに? あんな複雑な魔法、私もまだ使えないわよ」
「ちょっと教えてもらっただけでできるなんて。ディアボロ君って本当に天才なんだね」
「まぁ、たまたまうまくできただけだよ」
二人とも、しきりに感嘆としていた。
シエルはさっそく順位を確認する。
「よし……ぶっちぎりで一位だわ。これでディアボロは独り占めね」
「う、うん」
また明日、アプリカード先生に怒られるのだろうか。
防音シートみたいなの買おうかな。
〔“フルシュの森”のモンスターが全滅しました。よって、試験を臨時終了とします。三十秒後、学園に転送されるのでそのまま動かないように〕
手の紋章からアナウンスが聞こえる。
すぐに時間は過ぎ、俺たちは学園へと帰還した。
□□□
「……本日の試験結果を発表します。一位はディアボロ・シエル、ペア!」
教室に戻ったら、すぐ試験の総括が始まった。
最後のモンスター全討伐が効いたのか、ぶっっっちぎりで一位だ。
マロンは悔しそうな顔だった。
その隣にはコルアルという少女がいるのだが、俺が見ると顔を逸らすんだよな。
やっぱり、ディアボロの悪評はまだ健在ってことか。
「ディアボロさん、シエルさん、おめでとうございます。これほどの好成績……しかも、森のモンスターを全滅させるなんて学園史上初です。それも時間内に……これは素晴らしい結果です」
「「ありがとうございます」」
「特にディアボロさん。正直、あなたには驚きを隠せません。あれほどの広範囲で強力な魔法……すでに学園トップクラスです。そして、昼間もきちんと活動するのですね。てっきり夜行性かと思いました」
褒めつつも、アプリカード先生の顔はやや引きつっていた。
ふしだらな生徒のくせに成績良好だからだろう。
いや、ほんとすみません。
「暴虐令息が1位か……ポイント取り過ぎだろうが」
「あの人のせいで私たちの獲物がいなくなったんですよね」
「でも、魔法自体はすごかったよな。そう考えると妥当の結果か……」
しかも、1位をとったせいでまたもや悪目立ちしてしまった。
一年生たちはコソコソと相談する。
彼らともこの先関わることがあるのかな……いや、あるだろうな。
原作でも登場するキャラが何人もいるし。
なるべくなら好感度を上げていきたいところだ。
「そして、フォルトさん。仲間を見捨てるとは何事ですか。自分のことだけ考えてはいけませんよ」
「だから、僕様は特別なんです。聖属性持ちは、この学園でも数人しかないんでしょう? 僕様が一番価値の高い人間なのです。自分の身を一番に考えるのは当然です」
フォルト君はデイジーを見捨てたことを咎められては、アプリカード先生に反抗していた。
これもまた原作ではディアボロの役回りだ。
ディアボロ街道を邁進している気がするんだが、大丈夫だろうか。
結局、フォルト君は一人、追加補修を受けることになった。
その後は全体の総括をして、一日の授業は終わり。
解散し帰路に就く。
「マロンさん、今日の夜は別室で寝てもらいましょうか」
「ぐぎぎ……途中まで勝ってたのに……」
「さあ、ディアボロ。先にお風呂入りましょう。一緒に」
「あ、はい」
ということで、その日の晩はシエルに独り占めされるのであった。
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