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第20話:最初の試験

「ディアボロ、息を合わせて攻撃しましょう。私が動きを止めるから、その隙にディアボロが倒して」

「了解した」


 視線の向こう、わずか5m先に大きなオークがいた。

 キョロキョロと探るように辺りを見渡している。

 シエルは静かに手をかざし、魔法を唱えた。


「《重力網(グラビティ・ネット)》!」


 オークの頭上に空気の網みたいな物が現れ、上から覆い被る。

 かなりの圧力を受けているようで、オークの動きは封じられた。

 ジタバタと暴れているが、少しも動けない。

 攻撃するなら今だ。

 すかさず、俺も闇魔法を発動させる。


「《闇の一閃ダークネス・フラッシュショット》!」


 手を振り払うように動かすと、黒い衝撃波が現れた。

 一直線にオークへ向かい、その首をはねる。

 亡骸から転がり出た魔石を拾い上げ、俺とシエルは互いの手の甲にある紋章にかざした。

 シュッという音をたて、魔石は半分ずつ吸い込まれた。


「うん、いい感じね。この調子なら上位に入賞できるかも」

「いやぁ、シエルとペアで本当によかったよ。シエルのおかげで効率的に討伐できているようなもんだ」

「二人っきりだからってそんな口説かれても……まだ昼間よ」

「そうじゃないんだ」


 ここは、学園から徒歩で数時間ほどの場所にある森――“レストの森”。

 今、俺たち一年生は試験の真っ最中だ。

 簡単に言うと、二人一組でのポイント争奪戦。

 森に生息するモンスターを倒し、魔石を回収する度ポイントが加算される。

 最後はその累計で順位がつくのだ。


「マロンさんはうまくやれているかしら。コルアルって聞いたことがない少女とペアだったけど」

「まぁ、大丈夫だろうよ。マロンなら誰でも平気さ。むしろ、暴走しない方が心配だけど」

「たしかに」


 一年生はペアが決まった後、アプリカード先生の魔法で森の各地に飛ばされた。

 俺はシエルと一緒。

 マロンのペアは、コルアルとかいう優秀な少女だ。

 原作にもいない要注意人物。

 まだ後ろ姿しか見ていないのでよくわからんが。

 たしか、フォルト君はデイジーとペアだったはず。

 なぜか組み合わせは原作と色々変わっているんだよな。

 本来なら、俺とデイジー、フォルトとシエルだった。

 う~ん……まぁ、いいや。


「一度みんなのポイントを見てみようか」

「そうね。確認してみましょう」


 手の甲に魔力を込める。

 “エイレーネ聖騎士学園”の紋章から、他ペアのポイント推移が出てきた。

 タップすると、獲得した魔石のランクや討伐した魔物の名前など詳細がわかる。

 今のところ、俺とシエルが一位、マロンとコルアルが二位だった。

 フォルト君は下の方なので、だいぶ苦戦しているようだ。


「あっちにもモンスターがいるわ。ディアボロ、見てて。今度は私一人で倒してみるから」

「あっ、はい」


 アプリカード先生との一件があって以来、すっかりシエルの言いなりになってしまった。

 シエルは両手を、向かいの木陰にいたコボルドに向ける。


「《重力圧殺グラビティ・ネオプレス》」


 コボルドの身体がひしゃげる。

 数秒も経たずに魔石が出てきた。


「おお……相変わらず、すごい威力の重力魔法だ」

「ディアボロへの愛の重さよ。……伝わるといいな。ディアボロに伝えたくて、いつもやり過ぎてしまうのだけど」

「だ、大丈夫。もう十分過ぎるほど伝わっているよ」


 シエルの重力魔法は日に日にパワーアップしている。

 何でも、俺のことを想うと力が湧いてしまうらしい。

 非常に嬉しいし頼りがいがあるのだが、一歩間違えるとコボルドの行く末が俺の未来になりそうで怖い。

 これからはもっとケアに力を入れようと決心したときだ。

 ドンッ! という地響きとともに、遠方で火柱が上がった。


「うぉっ! な、なんだ!? 敵襲か!?」

「たぶんマロンさんよ。いつものようにハイテンションで火魔法を使っているんだと思う」

「あぁ……」


 風に乗って、彼女らの笑い声が聞こえてくる。


「あびゃぁあああー! モンスターが燃えてるぅううー! キレーイ! ディアボロ様見てますかあああ! マロンはここにいますよおお! 私の燃え盛る恋心おおお! 見えていますかぁああ!」

「ヒャーイ、ヒャイ、ヒャイ! 相変わらず、面白い女じゃー!」


 いやぁ、楽しそうで何より……あれ……?

 あの笑い方はどこかで聞いたことがあるような……。

 記憶を探り出したとき、シエルが俺の服をぐいっと引っ張った。

 首が締まる。


「あっ! 今のでマロンたちが一位になったわ。すぐに次のモンスターを倒しましょう! 急がないと!」

「な、なんでそんなに急いでいるの?」


 なぜか、シエルはやたらと慌てている。

 一位はそりゃ嬉しいけど、そこまで急がなくてもいいんじゃないかな。


「この試験で勝った方が、今晩ディアボロを独り占めできるのよ!」

「え」

「だから、どんな手を使ってでも勝たないと!」


 衝撃の展開。

 俺の知らないところでそんな……。

 今日だって寝不足気味なのに。

 二連チャンいけるか? とやや焦りながら足を踏み出したとき、森の中から、女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえてきた。


「ま、待ってよ! 置いて行かないで! 足を怪我して動けないの!」

「知るか! 地味な君が引き寄せたんだ! 自分でなんとかしたらどうだ!」


 デイジーとフォルトの声だ。

 シエルも気づいたらしく、表情が一段と引き締まる。


「ディアボロ、あの声は!」

「ああ、急ぐぞっ!」


 声がした方向に駆けだす。

 木々を抜けると、ぽっかりとした広場みたいな空間に出てきた。

 地面に転がるデイジー。

 2mほどのトロールがじりじりと迫っていた。

 彼女は足をくじいたのか、立とうとしても経てないようだ。

 デイジーは恐怖が染み付いた表情で、今にも襲われそうな瞬間だった。

 フォルトはというと、離れたところで震えている。

 俺たちを見つけたら大声で叫んだ。


「ちょうどいいところに来たな、ディアボロ! あとは君がどうにかしろ! 僕様は逃げさせてもらう! 自分の命が一番大事だからな!」


 あろうことか、フォルト君はデイジーを見捨てて一目散に逃げ出した。

 おいおいおい、マジかよ。

 君は主人公なんだぞ。

 怖くても立ち向かわないとダメだろうが。


『グルァッ!』

「きゃああっ!」


 トロールがお決まりの棍棒を振り下ろす。

 彼女を傷つけさせてたまるか!


「《闇の刺突》!」

『ゥアアア!』


 俺の両手から黒い波動がトロールに向かう。

 その全身を針のように内側から貫いた。

 まるで、トロールがハリネズミになってるみたい。

 痛そ。

 魔石を回収し、デイジーの元へ駆け寄る。


「おい、大丈夫か。危ないところだったな」

「怖かったでしょう。怪我はない?」

「あ、ありがとう……本当に助かった……痛っ!」


 肩を貸して立たそうとしたが、デイジーはガクッと膝をついてしまう。

 ……あれ?

 この光景はどこかで見たような……そうだ。


 ――これはまさしく、ディアボロの断罪フラグじゃないか。


 原作なら、デイジーを見捨てたのは俺だ。

 そして、彼女の怪我をフォルトが治し、二人の仲は進展する。

 となると、今すぐこのフラグは叩き折らなければ……死ぬぞ……俺が。


「デイジー、君の怪我は俺が治すよ。ジッとしてて」

「え……? い、いや、大丈夫だよ。こんなのポーションをかければ治るだろうし……」

「いいから! 治したいんだ! 絶対に治す! (フォルト君に治されたら俺が死ぬんだああああ)……《闇の癒し》!」


 黒い光がデイジーの膝を包むと、少しずつ彼女の表情が和らいできた。


「なんか……とってもあったかい……安心する……」

「そうか、良かったよ」


 いいぞ、いい感じだ。

 今回は例のアレはなさそうじゃないか。

 だがしかし。

 安心した瞬間、彼女の頬が徐々に上気してきた。

 あ、あれ?

 まさか、この流れは!


「んっ……っ! あぁっ~! ダメェ~ッ!」


 デイジーは両腕で上半身を抱え、激しく身をくねらす。

 ゆったりした服で隠れた凹凸が主張された。

 ほ、ほぅ……デイジーは着痩せするタイプなんだな。


「……ディアボロ?」

「違う、違う、違う! 違うんだ! これは違うんですって!」

「どうやら、私の愛の重さは伝わってなかったようね……身体に教え込まないと……」

「伝わってます! 全身が軋むくらい伝わってます! だから、目に光を戻してえええ!」


 シエルの凍てついた視線に貫かれつつも、どうにかデイジーのフラグを折ることができた。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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