第19話:さっそく、シナリオをぶっ壊す
翌朝、俺たちは学園の教室で待機していた。
いよいよゲームの本格的なスタートだ。
周りには他の生徒たちも。
ざっと30人くらいかな。
試験はなかなかの難易度だったようだ。
みな、さりげなく俺を見ている。
元々悪評が轟いていた上に、水晶壊したりして悪目立ちしたからな。
「みんな優秀な人に見えるわね」
「あの試験をクリアしたんですものね」
「ああ、そうだな」
シエルもマロンも肌がツヤツヤしている。
いやぁ、昨晩は大変だったな。
全身の筋肉痛が痛い。
昨日荷物を運んだからだろう。
心地良い疲労感だ……。
フォルトはというと、少し離れた席にポツンと一人で座っている。
原作通りなら、シエルかマロンが隣にいるはずだ。
俺を見ると睨んできた。
ええ……。
そんな恨めしい顔をするなって。
先行き不安だな、と思っていたら、一人の少女がフォルトの隣に近寄る。
目にかかるくらいの長い黒髪が地味めなキャラデザだった。
デイジー・ドワーカー男爵令嬢。
サブヒロインの一人だ。
「あの……ここの席って空いているかな」
おっ、いいぞ。
仲良くなってくれ。
俺の安泰な将来のために。
「何か僕にようかな。今高尚な考え事をしているのだけど。君には想像もつかないくらい高尚なね」
「あ……えっと……ここ空いているのかなって……」
「君みたいな地味な子が座る席じゃないよ。即刻立ち去ってもらおうか」
「う、うん……なんかごめんね……」
フォルトくーん!
デイジーはショボショボと立ち去る。
せっかくのチャンスを無駄にするなんて。
あの謎の上から目線が治らないと厳しそうだな……。
そう思ったとき、何かが引っかかった。
どこかで聞いたような……あっ!
――原作ならディアボロが言うセリフだ!
思い返せば、ディアボロが地味だの何だの言って、デイジーを傷つけるイベントがあった。
それを主人公が慰めて、二人の仲が進展するのだ。
まさか、立場が逆になるとは……不思議なこともあるな。
フォルト君の挙動をよく観察した方がいいかもしれない。
断罪フラグの回避について何かヒントが……。
「皆さん、着席してください。授業が始まりますよ」
女性の教員が入ってきて、思考はそこまでとなった。
この人はアプリカード先生。
肩くらいまでの緑の髪に、緑の目。
1年生の魔法学(魔法理論の総論などを学ぶ科目)担当だ。
魔法使いの代名詞みたいなローブがいつもの服装。
「では、学園の簡単な説明を行います。皆さんはもう知っているでしょうが、この学園は次なる“聖騎士”を育てるため開校されました。まずはこの国の歴史からおさらいしましょう」
アプリカード先生は空中に映像を出しながら、エイレーネ王国、そして学園の歴史を説明する。
まとめるとこんな感じだ。
〔今から数百年前、エイレーネ王国は魔族の侵略を受けた。国の危機に立ち向かったのが五人の勇者たち。彼らは圧倒的な力で魔族を撃退。魔王の封印に成功する。やがて、人は彼らを聖騎士と呼ぶようになった……〕
ここは原作通りで安心した。
アプリカード先生は最後の話を続ける。
「……長い年月が過ぎ、魔王の封印は徐々に弱まっています。そこで、我々は次なる聖騎士の育成を目指しています。皆さんは、国を救う人材になるのだ、という自覚をしっかり持って、この先の学園生活を有意義に過ごしてください」
話は終わったが、誰も声を出そうとしない。
やはり、魔族とか聞くと緊張感が生まれる。
俺もそうだ。
ディアボロになってまだ一年しか経っていないが、自分の住んでいる世界に危機が迫っているのは緊張する。
シエルやマロンとはもっと仲良くしたいし、みんなの生活を守りたい。
俺たちの強張った顔を見ると、アプリカード先生はフッ……と小さく笑った。
「とはいえ、あなたたちはまだ学生。大いに遊び大いに学んでください。さて、何か質問はありますか?」
教室の雰囲気は少しばかり和らいだ。
案外、日本の中高生と変わらないな。
そう思うと、俺も溶け込みやすいかも。
学校生活なんてほとんど病院で過ごした。
断罪フラグも気になるが、青春は青春で存分にやり直したい。
となると、やはり聞いておいた方がいいだろう。
「あの……すみません。一つよろしいでしょうか」
「何でしょうか、ディアボロさん。歴代記録を更新する生徒からの質問なんて緊張しますね」
アプリカード先生は朗らかに笑う。
基本的に、彼女はフレンドリーな設定だ。
そのような背景もあり、主人公の案内役も兼ねている。
貴族ばかりの環境には不慣れなだからな。
「王女様は入学されないんでしょうか?」
そうなのだ。
原作のメインヒロインでもある王女様がまだいない。
これは由々しき事態だ。
もしかしたら逆にいいのかもしれないけど、断罪フラグが野放しになっているようで少しも安心できない。
当たり前だが、王女様は王族。
おいそれとは情報は入手できない。
でも、アプリカード先生なら教えてくれるだろう。
なぜなら案内役だもんな~。
と思っていたが、徐々に彼女の表情がきつくなってきた。
……な、なんだ?
「ふむ……改心したという話でしたが、好色という噂だけは真実のようですね」
「え!?」
「公爵家という立場を利用し、王女様の動向まで探るとは……よっぽどお気に入りと思います」
「ええ!?」
「昨晩、ずいぶんと楽しんでいたことも知っていますよ。見回りしていたとき、あなたの楽しそうな声が聞こえてきました」
「えええ!?」
アプリカード先生の視線が氷点下にまで下がった。
――まずい、スイッチが入った!
学内の風紀を重視する彼女は、やがてヒロインを侍らす主人公を目の敵にする。
実は当の本人とも恋仲になる裏ルートがあるのだが、今はそんなことを考えている余裕はない。
「ディアボロ、王女様ってどういうことかしら……?」
「私も初めて聞きましたが……?」
右からはとんでもない重力の圧が、左からは塵になりそうな業火の圧が。
フッ……選り取り見取りだぜ。
「ち、違うんだ、誤解だよっ! 今晩も奉仕するから許してっ……!」
「……だったら、まぁ」
「しょうがないですね」
頬を赤らめ顔を逸らす二人。
あぶねー。
学園初日に死ぬところだったぜ。
これでもう大丈夫。
「……ディアボロさん?」
「あ、いえ! すみません、違うんです! これは違うんですって!」
「仲良しで羨ましいです。婚約者同士とはいえ、学園では節度を保てるとなお良いですね」
全然大丈夫じゃなかった。
アプリカード先生はピクピクと頬を引きつらせる。
俺が弁明する間もなく、彼女は高らかに宣言した。
「ただいまより、最初の試験を開始します! 本来なら明日でしたが、予定を繰り上げます! 色ボケかますほど余裕がある方もいるようですからね! 皆さん、心してかかってください!」
あろうことか、翌日から行われるはずの試験が今日始まることになった。
一斉に非難の視線が俺に突き刺さる。
もう本当にやるせない心境だった。
――……すまん、みんな……シナリオぶっ壊しちまった。
お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます
【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】
少しでも面白いと思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!
評価は下にある【☆☆☆☆☆】をタップorクリックするだけでできます。
★は最大で5つまで、10ポイントまで応援いただけます!
ブックマークもポチッと押せば超簡単にできます。
どうぞ応援よろしくお願いします!