第16話:“エイレーネ聖騎士学園”と原作主人公
ディアボロに転生してから、ほぼ一年経った。
俺は今、屋敷とは違う場所に来ている。
緊張した面持ちで見上げる建物は、白い壁に紺色の装飾が教会のように厳かだ。
ここがどこかというと……。
「ディアボロ、どうしたの。そんなにぼんやりして。……わかったわ。他にキレイな女性がいたのね。あなたが私を見てくれるよう、今日からお肌のケアに5時間かけましょう」
「違うから!」
「ディアボロ様はモテますものね~。私もその視野に入れていただけるよう、髪のケアに10時間かけます」
「ちっがーう!」
大声で叫び、門をくぐる。
周りの受験者たちが不審な目で俺を見ているが、そんなことは知らん。
これから俺は、文字通り人生の山場を迎えるのだ。
――“エイレーネ聖騎士学園”。
このゲームのメイン舞台となる学園に、俺たちは来ていた。
入学試験を受けるためだ。
筆記・魔力の測定検査・実技試験の3つだ。
筆記はすでに別の場所で受けており(シエルとアルコル師匠のおかげでどうにかクリア)、魔力の測定検査も午前中に済ませた(測定用の水晶玉ぶっ壊して悪目立ちした)。
ということで、午後から実技試験だった。
キングストン家みたいな位の高い貴族は免除できるらしい。
だが、俺は一般枠での受験を希望した。
なぜなら、その方が好印象になりそうだから。
「試験ってドキドキするわね」
「初めてのことで緊張です」
「二人とも特別枠で入学できたのに……どうして一般枠で受験したの?」
「どうしてって……ディアボロを目指しているからよ」
「私もシエル様と同じです」
シエルとマロンのフラグはどうにか折ったものの、まったく油断できない。
原作はハーレム志向があり、主人公が助けるというコンセプトがあるためか、やたらとヒロインが多い。
ほぼ全員が身体の不調を抱えており、その原因は大なり小なり俺。
つまり、学園での一挙手一投足が俺の運命に関わるのだ。
中でも、ここエイレーネ王国の姫様が一番の関門だろう。
死の呪いに侵され余命短い中、最後の思い出作りのため学園に入学する……。
「緊張したディアボロも可愛い……頬っぺた触っちゃお」
「あっ! シエル様だけずるいですよ」
「ずるいって、私は婚約者なんだから当然でしょう。マロンこそベタベタ触り過ぎよ」
「ほ、ほら、目立ってるからっ」
この一年を通して、シエルとマロンは仲良くなった。
素直に嬉しい。
しかし、裏を返せば同時に断罪されかねない、というわけか。
まったく、一時も気が抜けないんだぜ?
両側から頬をツンツンされ、また要らん注目を集め、連絡のあった訓練場に向かう。
広さは一般的な校庭の二倍はあるかな。
すでに百人は超える受験生が集まっていた。
「おい……暴虐令息が来ているぞ……特別枠じゃないのか?」
「冷やかしかしら……あのキングストン家の息子でしょう……」
「……きっと、俺たちみたいな下級の貴族を見下しに来たんだ……」
なんか前評判悪いし。
まぁ、この辺りは俺の行いのせいだからしょうがない。
なぜかイラつき始めるシエルとマロン。
「あの人たちディアボロが変わったことを知らないのね。ついでに、悪い虫がつかないよう私の愛の重さを示さないと……」
「同感です。なんだか焼き殺したくなってきました……」
「お、落ち着いてくれよ、二人ともっ。せっかくの可愛い顔が台無しだぞっ」
「「……ディアボロ(様)」」
――トゥンク……。
必死になだめたら、今度は心音まで聞こえてきたんだが。
色んな意味でドキドキと待つこと五分ほど。
予定開始時刻と同時に、一人の女性が現れた。
髪型は黒いベリーショートで、同じく黒い目はキリっとしたつり目。
ショートパンツにタンクトップというラフな格好だが、肉食獣のような威圧感を感じる。
ヒョウのような印象で孤高の女といった雰囲気。
肩に乗せるは釘バット。
原作では、1年生の戦闘体術を受け持つ先生だ。
「諸君、そろっているようだな。試験監督のレオパルだ。試験が終わるまでは、私の指示に完全に従え。まずは、私語をせず私の話を最後まで聞くこと」
レオパル先生は淡々と告げる。
俺の隣から、こしょこしょ……という囁き声が聞こえてきた。
「なぁ、あのセンセ、美人じゃね?」
「それな。色気はねえけど」
名も知らぬ男子貴族が、麗しき試験監督の評価を下している。
お、おいっ、なんて命知らずな……!
「「まぁ、大目に見てBランクってとこかな……げはぁっ!」」
突然、男子ズは数mほど吹っ飛ばされた。
ざわつく訓練場。
レオパル先生は、俺たちの目の前に瞬間移動していた。
男子ズは殴り飛ばされたのだ。
「どうやら、耳栓をしている受験生が何名かいるようだな。目で見ないとわからないということか?」
静まり返る訓練場。
レオパル先生は雷属性の使い手だ。
自分の身体に魔力を巡らし、人間の身体能力を向上させている。
だから、こんなに早く動けるのだ。
実際に見るとすげぇー……って思っていたら、突然ギロリと睨まれた。
心臓が跳ね上がる。
「ほぅ……あのディアボロ・キングストンが本当に一般枠で試験に挑むとは。不正をしないか見張っておくからな」
「あ……なんかすみません……」
いきなり目をつけられたんだが?
みなが緊張した顔になったのを見て、レオパル先生は試験の内容を説明する。
「これから、諸君には互いに一対一の戦いをしてもらう。いわゆる模擬戦闘だ。勝者は入学が確定。ただし、敗者にも入学の可能性がある。戦いぶりで判断するので、最後まで真剣に戦うように」
負けても入学の可能性がある……というのは、初心者プレイヤーに対する救済処置だ。
ゲームが苦手な人もいるからな。
説明を聞き、ホッとする受験生も何人かいた。
……あいつらも転生者じゃないだろうな。
「では、試験の組み分けを発表する。呼ばれた者は訓練場に残れ。その他の者は観覧席で見学だ。まずはケイト・シュパーダ、リッテン・ハイアラン……」
生徒が呼ばれ、試験が行われ、時が過ぎていく。
試験監督は他にも何名かいるようで、効率的に試験は進んだ。
この辺りも原作通りだと思うのだが、二つほど様子がおかしい。
一つ目は、王女様の名前が出てこない。
本来なら結構早めに出るんだけどな。
二つ目は……と考えたところで、俺の順番になった。
「ディアボロ・キングストン! そして、フォルト……!」
とうとう来たぞ。
原作主人公様のお目見えだ。
ディアボロ人生最初にして最大の壁。
彼に勝利できるかどうかが、俺の未来を決める。
緊張しつつ歩を進めると、反対側から痩せた男が歩いてきた。
「君があの暴虐令息か。噂だと、ずいぶんと凶暴な性格らしいね。でも、僕様が勝ったら君の権威(笑)も失墜しちゃうかな? 言っておくけど、僕様の才能には誰も勝てないよ? ま、手加減してあげるから安心して」
「お、おぅ、よろしく」
――フォルト。
このゲームの主人公様だ。
やたらと上から目線で好戦的なんだが……どうした?
原作では、謙虚で自分より他人を優先するような性格だったと思うけど。
一応、挨拶として握手を交わす。
フォルト君の見た目は黒髪マッシュで、量産型男子って感じかな。
何だかんだウケがいいのだろう。
ゲームだからか、さすがにイケメンだ。
それにしても……なんか性欲強そうだな、こいつ。
SNSとかで散々見てきた。
「女子に興味ないっす……」みたいなヤツに限って、裏ではハジけているんだよな。
さっき気になったのは、フォルトの様相がおかしいことだ。
「両者、配置につけ」
「はいっ!」
レオパル先生の前では、フォルトは好青年を演じる。
ちなみに、彼は平民だ。
基本的に、“エイレーネ聖騎士学園”は貴族の学校。
平民出身者も何人かいるが、本当に数えるほどだ。
高い学費もそうだけど、この学園には大事な目的があり、貴族の方が達成しやすそうだからだ。
フォルトは非常に稀有な聖属性の魔力を宿していた。
国全体で見ても、聖女とか剣聖とか、限られた人物しか持っていない属性だ。
だから、入学試験が特別に認められた。
「いやぁ、僕様が貴族を……しかも公爵家なんて偉い貴族を倒したらモテモテになっちゃうな」
「う、うん」
フォルト君は腰の入っていないファインティングポーズを取る。
倒しちゃっていいのかな。
仮にも原作主人公を……ちょっと待て。
俺は極めて重要なことに気づいた。
――こいつが入学しなければ、俺の未来は安泰なんじゃね?
そうだよ。
俺の断罪は、フォルト君がヒロインと関わることで生まれる。
なので、彼には悪いが頑張らせてもらおう。
それに、心配することはないだろ。
フォルト君はこの世界の主人公だ。
めちゃくちゃ強いに決まっている。
なぜなら主人公なんだから。
「始めっ!」
俺は全力を出すことを決意した。
□□□
「……げほっ。も、もう無理……」
三秒後、フォルトは地面でのびていた。
……いや、弱くね?
【悲報】フォルト氏、あんまり強くなかった。
……そりゃそうか。
最初はレベル5スタートだ。
さすがに実力差があり過ぎたか。
レオパル先生が品定めするような顔で俺を見る。
「修行を積んでいるという話は本当だったか」
「え? は、はい、入学のため頑張りました(本当は断罪フラグを回避するためですが)」
「ふむ……」
相変わらず目つきは怖い。
悪印象じゃないことを祈る。
「ディアボロ~、試験終わったの~?」
「どうでしたか、ディアボロ様?」
シエルとマロンが歩いてきた。
彼女らの試験も終了したらしい。
二人を見て、背筋が凍った。
「シエル! 怪我をしているじゃないか! しかも、マロンも!」
「これくらい別に大したことないわ。ちょっとひっかけただけ」
「私も全然大丈夫です。ほんの擦り傷ですから」
シエルもマロンも腕に切り傷がある。
大変だ!
フォルトに治される前に治さないと!
「放っておけるわけないだろ! すぐ治すから! 《闇の癒し》!」
すかさず回復魔法で治す。
……ちょっと待て、この流れは!
「「んんっ! ……あぁ~!」」
「ディアボロ、何をやっている……?」
「違うんです、レオパル先生! これは違うんです! お願いですから、釘バットを振り被らないでー!」
身をよじるシエルとマロン、襲い掛かる釘バット、そして俺を睨みつけるフォルト君。
な、なぜ睨む……あ!
これ最初の大事なイベントじゃん!
フォルト君がシエルたちの病気を治して信頼を得る。
そのはずが、先に俺が治しちゃった。
つまり、彼は未来の嫁になるヒロインを、俺に奪われた形になる。
――もしかして俺……何かやっちゃいました?
す、すまん、そんなつもりはなかったんだよ……。
だから、睨まないでくれ。
悲喜こもごもの試験は、無事に終了を迎えた。
お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます
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