第12話:シエルの話
シエルは静かに紅茶を飲んでいる。
この部屋には俺たち以外はいない。
ディープウインドゥ家のメイドも、マロンたちもいなかった。
正真正銘のふたりっきりの状況に、俺はかなり緊張している。
注がれた紅茶も、ろくに飲めないような具合だ。
「ディアボロ様はお紅茶がお嫌いでしたでしょうか」
「あ、いえ! 嫌いじゃないです! むしろ大好きです! ……あっつ!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫です! 俺には回復魔法があるんで! 《闇の癒し》!」
大慌てで紅茶を飲み込むと、勢い良く飲んで舌と喉を火傷した。
ので、これまた大慌てで治癒する。
回復魔法を習得しといて良かったぜ。
黒い光に包まれていると、ふふふ……というささやかな笑い声が聞こえてきた。
シエルが笑っている。
「ディアボロ様って、案外面白い方なんですね」
「あ、いや……すみません。騒がしくて」
「今日お会いするまで、このような方だとは思いませんでした」
シエルはカップを置き、静かに語る。
その目に宿るは、さっきまでの無感情ではない。
どこか不思議に感じているような、悩んでいるような……そういった複雑な思いを感じた。
「謝罪が遅くなり、本当に申し訳ありませんでした。さらにはひどい怪我まで負わせてしまって……俺はあの頃の自分をぶん殴りたいです」
「いえ……私も悪かったと思っております」
シエルはポツリと呟く。
私も悪かった?
「そ、それはどういうことでしょうか?」
「ディアボロ様は行きたくなかったのに、私が無理やり森に行こうと誘ったんですから」
「そんなの関係ないですよ! 全ては俺の責任です! シエル嬢は悪くありません!」
とっさに否定した。
そもそも俺が悪いのは事実だし、彼女の心理的な不安も解消しておきたい。
いつどこで断罪フラグに発展するかわからん。
懸命に違うと言っていると、シエルはフッと笑ってくれた。
「ディアボロ様は……本当に変わられたんですね」
シエルは自分の両手をキュッと握ると、真正面から俺を見た。
凛とした清廉潔白な視線に、心臓がドキリと脈打った。
「私は……あなたを信じます」
「で、でも、俺はあのディアボロですよ。あなたにものすごく酷いことをした人間です。俺は……距離を取る準備だってできています」
最悪、婚約破棄されても仕方がないと思っていた。
むしろ、その方がいいかもしれない。
シエルはストレスを感じなくなるだろうし、俺の将来を考えても無関係の方が安全な気がした。
「主の評価は、使用人からの評価が一番正しいです。それはあなたもよくわかっているはず」
「ま、まぁ……そうかもしれませんけど」
「マロンさんやラウームさん、そしてあのアルコル様も、ディアボロ様を心から慕っているとわかりました。何よりもそれが、ディアボロ様の改心を示しています」
「シエル嬢……」
……そうか。
マロンたちはそんな風に見えるのか。
また、大事な仲間に守られてしまったな。
俺一人では、とうていシエルに信用されることはなかっただろう。
「それと、私のことはシエルとお呼びください。敬語も使わなくていいです」
「え、いいんですか?」
「だって……私たちは婚約者でしょう」
シエルは優しく微笑む。
そう……まるで女神のように。
断罪フラグだとかそういうのは別にして、素直に守りたいと思った。
「でしたら 俺のこともディアボロと呼んでください……いや、呼んでくれ。なぜなら、婚約……者だからな」
俺もボソボソとお願いした。
自分の口から婚約とか言うのは恥ずかしい。
「これからもよろしくお願いいたします……いえ、よろしくディアボロ」
「よろしくお願……よろしくな、シエル」
俺たちは仲良く手を握り合う。
無事、シエルとの仲も修復できた。
彼女の笑顔を見ながら強く決心する。
信じてくれるみんなのためにも、俺はもっと努力するんだ。
お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます
【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】
少しでも面白いと思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!
評価は下にある【☆☆☆☆☆】をタップorクリックするだけでできます。
★は最大で5つまで、10ポイントまで応援いただけます!
ブックマークもポチッと押せば超簡単にできます。
どうぞ応援よろしくお願いします!