第1話:悪役転生と待ち受ける運命
「おい! さっさと運べよ、クソメイド! ちんたらしてんじゃねえっっての! 俺様様の命令が聞けねえのかよ!」
「も、申し訳ございません、ディアボロ様っ! 今すぐに運びますので……げほっごほっ!」
怒鳴りつけると、目の前のポンコツメイドは大慌てで俺様様の部屋から荷物を運び出す。
慌てぶりがたまんねえなぁ、おい。
コケてるし、ケッ馬鹿が。
俺様様に逆らうヤツは容赦しねえ。
トラウマになるような苦しみを与えてやるんだよ。
まったく、病人をいじめるのは気分がいいぜ!
ヒャハハハハッ……はぁぁぁああ?
昂りまくっていたが、ふと、鏡を見た瞬間、熱が急速に冷めていくのを感じた。
「……なんだこれは……?」
俺じゃない男が映っている。
さらりとした金髪に、澄んだブルーの瞳、シュッとした鼻筋。
ニキビ一つない肌は、触らなくてもスベスベだとわかる。
イケメン少年といった風体なのだが……なんだろうな。
どことなく嫌なヤツ感が滲み出ている。
悔しいが、俺はこんなイケメンじゃないぞ。
見間違えか? 幻覚か?
試しに右手を挙げる。
鏡の中のそいつは左手を挙げた。
「ぶぎゃああああああっ!」
「ど、どうなさいましたか、ディアボロ様! ごほっ、ごほっ……!」
待て待て待て待て!
何が起こっている!?
もしかして、夢でも見てるのか!?
顔をつねる。
痛い。
しかも、身体の実感はちゃんとある。
つまりこれは現実だ。
だが、こいつは俺じゃない。
いったい何が起きているのかまったくわからないぞ。
鏡に向かって叫ぶ。
「お前は誰だ!?」
「わ、私はマロンと申します」
「違う! 鏡に映っているそいつだ!」
「ディ……ディアボロ・キングストン様でいらっしゃいますが……」
「なん……だと……?」
少女が怯えながら告げた瞬間、身体中を雷撃が走った。
ちなみに、実際に雷に打たれたわけじゃない。
比喩だ。
――ディアボロ・キングストン……。
俺は明確にその名を知っている。
いや、覚えている。
超大人気RPGゲーム、【エイレーネの五大聖騎士】に出てくる悪役の名前だ。
キングストン公爵家の跡取り息子。
たしかに、自分の顔をよく見るとディアボロだった。
なぜ俺が……。
記憶を必死にたどる。
思い出されたのは、ピコン……ピコン……ピーッ……という無機質な心電図モニターの音。
それが最後に聞いた音だ。
思い返すと今でもゾッとする。
病弱な俺は、高校生活をほとんど病院のベッドで過ごしていた。
心停止の音が最後ってことは、きっと死んだんだ。
だが、ディアボロとして生きている。
それはつまり……
――転生したってことか?
何でよりによってディアボロなんだ。
主人公とヒロインたちに殺される運命なのに……。
「あ、あの……ディアボロ様……?」
頭を抱えていたら、か細い女の子の声が聞こえ現実に戻った。
目の前にいるのは、緩くウェーブのかかった栗色の髪に、同じく栗色の瞳をした痩せた少女。
彼女はマロン、キングストン家のメイドだ。
そして、口元をいつも白い布で覆っている。
身体が病弱で、喘息持ちなのだ。
この世界では薬や魔法はまだないらしく、彼女はずっと苦しんでいる。
にもかかわらず、ディアボロは毎日毎日こき使う。
一方、原作主人公は聖魔法で彼女の体調不良を治す。
結果、ディアボロはマロンが秘めていた火魔法で焼き殺されるのだ。
やはり、本当にゲームの世界に転生したことを実感する。
目の前にいる少女がいずれ己を殺す人間だと思うと、背筋がひんやりした。
とりあえず、状況を把握する。
「こ、この荷物はなんだ?」
「“エイレーネ聖騎士学園”入学のため、公爵様がお買いになられた本だと仰っていました……ごほっ」
中を開けると、大量の本が入っていた。
魔動力学、魔法薬学、理論的魔法の実践書……。
どれも難しそうな本だ。
ディアボロの記憶があるからか、見慣れない字もしっかり読めた。
一応、この男にも文字は読めるらしい。
「なぜ運ばせているんだ」
「読む気にもならないから捨てろ、ということでした」
「……全部マロンにやらせていたのか?」
「は、はい、そうです……げほっげほっ」
なるほど、ディアボロは想像以上のクソだったらしい。
思い返せば、ゲームでもとにかく嫌なヤツだったな。
主人公やヒロインに絡んできては、権力を振りかざしていじめてくる。
断罪されるのも納得だ。
とにかく、今やるべきことは……。
荷物の箱をマロンの手から回収する。
「荷物は運ばなくていい。マロンは早く休みなさい」
「……え? で、ですが、一度始めた仕事は最後までやらねば冷水をかける、という方針では……」
「いいから、荷物貸して! もう冷水もかけたりしない! 方針転換なの! 働き方改革! マロンの今日の仕事は終わり!」
「あっ、ディアボロ様……! あ~れ~!」
マロンを使用人の休憩室に押し込め、自室に戻る。
この辺りも、ディアボロの記憶がしっかりあった。
一応、この男も屋敷の地理は把握しているようだ。
ベッドに寝転んで今後のことを思案すると、不意に気が付いた。
慌ただしく活動したものの息切れしていない。
いや、正確には息が若干荒れているのだが、前世の身体よりはずっと楽だ。
前は少し歩いただけで動けなくなっていたのに……ん? ということはだな。
――この身体は……健康なんだ!
健康な身体に、恵まれた(資産的に)家庭環境。
これは逆にチャンスかもしれないぞ。
たしかに、ディアボロには断罪ルートが待っている。
だが、まだやり直せるはずだ。
ここはゲームの世界……あっ!
もしかして、あれができるんじゃないか?
――ステータス、オープン!
心の中で念じると、頭の中に映像が浮かんできた。
【ディアボロ・キングストン】
性別:男
年齢:14歳
Lv:8
体力値:25
魔力値:1
魔力属性:闇(解放度:★1)
称号:稀代の嫌われ者、暴力令息、使用人の敵
思った通り、ゲームみたいにステータス画面が見れるんだ。
すごい嫌われようだ。
しかし、やけにレベルが高いな、どうした?
たしか、原作のゲームスタートは学園入学の日。
それでも、みんな5くらいが妥当だったと思うけど。
おまけに体力値も高い…………そうか、使用人をいじめていたからだ。
叩いたり殴っていたからレベルアップしたんだろう。
しょうもなくて虚しい気持ちになる。
何はともあれ、今から全て変えるんだ。
ディアボロの人生が破滅に傾き始めるのは、“エイレーネ聖騎士学園”の入学時点。
原作主人公に模擬戦で負けた結果、威張っているだけで弱いヤツ……という認識が広がる。
さらには、原作主人公が聖魔法でヒロインたちの身体をし、みんな彼の味方になる。
結果、断罪。
となると、俺のやるべきことは、負けないように強くなることと、ヒロインの病気を治すことだな。
断罪ルートを回避するのだ。
しかし、入学までといっても、なるべく早く治したい。
体調不良の辛さは俺が一番よく知っている。
俺が苦しめたヒロインたちに謝罪し、主人公より先に健康問題を解決し、命乞いをすれば許してくれるかな?
過去の悪行の数々を。
…………。
いや、何とかするんだよ! 頑張れ!
顔を叩いて気合を入れる。
ディアボロの魔法属性は闇。
闇属性で回復魔法を使うのは不可能とされている。
だが、ゲームをやり込んだ俺は知っている。
解放度を最高の★10まで上げれば、闇ヒール系の強力な回復魔法が習得できることを。
俺は決めた。
絶対に断罪ルートを回避し、新しい人生を思いっきり楽しむんだ。
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