表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

肉片

作者: 米野いのり

昼ごはんはフライドチキンだった。身なりを整えるのが面倒だったので、眼鏡とマスクを着けてテイクアウトすることにした。

単調な新興住宅街を抜けると、生臭い水の匂いのする水田が広がる。さらに車を走らせ、ショッピングモールの辺りに来ると少し混雑していた。

車に乗ったまま、ずっしりと重いチキンの箱を受け取る。紙製のそれは油が染みそうで嫌だったが、袋代が勿体ないのでそのまま持って帰ることにした。


「ただいま、チキン買ってきたよ」

「ありがとう。あれある?あの、骨のないやつ。」

「あるんじゃない、セットのやつ買ってきたからわかんない」

「腹減った。」

「わかってる」


綺麗に掃除されたダイニングテーブルを拭いて、チキンと飲み物を置いた。洗い物が面倒くさそうだが、折角なので大きな皿に綺麗にチキンを並べた。


「準備できたよ」


髪を無造作にまとめ、席に着いた。しばらくして、二名の空腹がそろった。

サイダーの泡は慌ただしく登っていた。


「おいしい?」

「おいしいけど油回ってない?」

「そうかもね」


「俺さ、骨ないほうが好きなんだよね。」


その瞬間、肉片が私の胸元に飛んできた。すぐに小さな染みができた。


「ごめん、汚い。」


彼は私の胸に手を伸ばす。

私はその手をつかむ。


「…え」


私は肉片を口に含んだ。水っぽいそれは、無味だった。咀嚼することなく、そのまま私の一部になった。

彼の唾液は、彼の体になるはずの肉は、鶏の命の一部は、私になった。


沈黙が流れた。もうどうでもよかった。


乾いた私の唇を、油で汚れた彼の唇に重ねた。口の周りまで唾液でべたべたにして、ただ弄った。彼は私にされるがままになっていた。



曇った日の昼下がり、流れる時間はゆるやかだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ