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三題噺もどき2

最後の試合

作者: 狐彪

三題噺もどき―さんびゃくよんじゅう。

 


 9月も半ばに差し掛かりつつある。

 暦の上ではもう秋を迎えているはずなのだけれど、未だ熱は残っている。

 少しは落ち着きを取り戻しつつあるようだが、体感は全く変わらない。

「……」

 6月あたりからこの暑さが続いている気がようなして成らない。

 そんな風に思うのは私だけなんだろうか……。

 まだ6月の方がマシだったかもしれないが……いや、そんなことはないか。

 あの頃もあの頃で、毎日ムシムシしていたし。嫌な暑さに襲われていた。

「……」

 その後、7月8月と上がり続けている気温に、どれだけ疲弊したか……。

 いや、確かに夏というのはそういうものなんだけど、何にでも限度というものがあるだろう。

 聞くところによると、北海道の方が沖縄や鹿児島より暑いと言うんだから、今年の異常さは、常軌を逸している。

 実際のところはどうなのか知らないが。

「……」

 しかし暑いなぁ……。

 夏の盛りよりは、確かに温度は下がっているはずなのだが。じりじりと肌を焼く日差しはいっそ強くなっているように感じる。

 あぁ、でも、その日差しに痛みを感じるほどではないから、確かに優しくはなっているのかもしれない。汗は変わらずジワリと滲むけど。

「……」

 そして、この暑さの中でよく……。

 よくあんなに、活発に動き回れるものだ。

 少し外に出て、感染していただけの癖にばて気味の私とは、全く違う。

 他の観客は声を出したりしながら立ち上がって応援しているけど、私にはもう無理だ。

 今は、少し離れたところにある影に避難してる。ついでに飲み物でも買おうと思って。

「……」

 今日は、私の可愛い兄弟の。

 学生生活最後の試合である。

 強がりなのか何なのか知らないが、応援には来なくていいと言っていたが。

 ま、諸事情あってそういうわけにもいかず。

 ―というのも、運動部あるあるだとおもうのだが……試合があったりすると、保護者が荷物を運んだりするだろう。その係は順番に回ってくるのだが、丁度その係の順番が母に回ってきたのが今回だったのだ。

「……」

 私はただの付き添いではあるが、それなりに手伝いをしたりはした。

 それと、この部活の顧問の先生には個人的にお世話になったりもしたので、挨拶でもしようと思って、ついてきたのだ。

「……」

 あぁ、断るのを忘れていたが。

 私の兄弟はサッカー部に所属している。

 この夏空(秋空?)の下、必死にあっちへこっちへと声を出しながら駆け回っている。

 汗凄そうだよなぁ……。

 せめてもう少し頻繁に水分補給をさせてやれないものかと、こちらとしては思ってしまう。

 倒れては元も子もないからなぁ。

「……」

 でもまぁ。

 最後の試合というのも手伝ってか、本人たちはいたって楽しそうなのでいいのかもしれない。

 そのうえで、真剣にボールを追い、蹴って、声を上げて、駆け回っている。

 サッカーって、個人的にはあまりしたことがないのだが、こうも楽しそうにしているのを見せられると、ちょっと心惹かれるものはあるよなぁ。

 ……実際にはやりたいと思わないが。体育の授業で楽しみだけでやるのが丁度いい。

「……」

 ん……あぁ、ならばなぜその顧問に世話になったのかというとまぁ。

 それについては予想がつきそうなものだが。

 サッカー部の顧問が、3年間私の担任だったのだ。それだけの単純な話だ。

「……」

 誠に残念なことに、あの頃は何にでも従順に従ういい子―ではなかったので。

 迷惑をかけまくったものだ。

 今思えば申し訳ない限りだし、若気の至りもいいところだし。恥ずかしささえ覚える。

 ―いう程年は取っていないが。

「……」

 そして、そのお世話になった先生へのあいさつはもう済ませてしまっている。

 ので、正直帰りたくなりつつある。

 愛しの兄弟には悪いが、この暑い外から逃げて涼しい室内にでも避難したい。

 暑さには阿保みたいに弱いので。それはみんなそうかもしれないが、耐性がこの数年でなくなったのもあって、更に弱くなっている。

「……?」

 そろそろ限界だ……と思い、車にでも乗っておこうかと思い始めたあたりで。

 視界の端の方で手を振っている母がいるのを見つけた。

 何だろう……。

「……スマホ…?」

 片手にスマホを持ち、それを指している。

 何だ……?スマホを見ろと言うことか?

 たいして遠くもないんだから、呼ぶなりこちらまで来るなりすればいいのに。

「……?」

 そう思いつつも、渋々スマホに眼をやると、チカチカと光が点滅していた。

 何かの通知が来たと言う合図だ。

 音はうるさくて嫌いだし、振動も苦手なので、光のみの通知しか使っていない。

「……あぁ、」

 ロック画面を開き、母が送信したであろうメッセージを確認する。

 そこには簡潔に「花束」とだけあった。

 そういえば、試合後に渡すものがあるとかなんとか言っていたな。

 車の鍵は財布を取りに行くついでに私がもらったから、取りに行けと言うことだろう。

「……」

 つまりはもう試合は終わったんだな。

 ……いや、もうすぐ終わるって感じなんだろうか。

「……」

 さて、ならば。

 私用も済み、手持ち無沙汰になったこの身を。

 こき使うことにしよう。





 お題:花束・サッカー・強がり

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