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6、元の姿に戻った⁉

「今日は薬の材料を探しに郊外に出ようと思うのですが、一緒に来ますか?」


 朝食後、セドリックに尋ねると、彼は心配そうな顔をした。


「大丈夫なのか? その……、お前はこの家から自由に出られるのか?」

「ええ。薬草を摘みに出るのは私の仕事なんです。リンジーやキースはあまりやりたがりませんので」


 自生している薬草を摘み、下処理までするのはアメリアの役目だ。

 パーシバル家には温室もあり、そちらは使用人がきちんと管理している。


「王都の西にある沢と、その先にある平原に行きます」

「そうか。馬車や護衛は……、いるわけがないよな」


 フード付きのマントを被り、ピクニックに持っていくような大きなバスケットを準備しているアメリアの姿にセドリックは聞かずとも察したらしい。

「信じられない……。仮にも公爵家と婚約している娘なのだぞ? 馬車の一つも出せないのか?」と小声でぶつくさ文句を言っている。


「セドリック様はバスケットの中へどうぞ」

「自分で歩く」

「リスの足では長距離でしょうし、うっかり踏んでしまっては大変ですから」

「……すまない……」

「いいえ、お気になさらず」


 リスなど運んでも軽いものだ。セドリックが馬やカバに動物化したわけではなくて良かったと思う。





 数日前に降った雨の影響で程よく湿った地面に下りる。

 王都から近い場所にある沢でアメリアは必要な薬草を手早く採取した。セドリックは大きめの石の上に座ってその様子を見ている。

 アメリアが木に登ろうとすると、さすがに慌てたように声を掛けられた。


「おいっ、危ないぞ!」

「平気ですよ。慣れていますから」


 節の部分に足をかけてよじ登り、枝からひげのように垂れ下がる果穂を回収した。

 しかし、セドリックは見ていられないと思ったのか、はたまた手持ちぶさただったのか、「手伝う」と言って木に登った。


「これをとればいいのか」

「ありがとうございます。さすが、身軽ですね」

「これはなんだ」


 小さな粒がたくさんついた果穂をセドリックは不思議そうに眺めている。


「サワグルミですよ。クルミと名がついていますが私たちが知っているあの胡桃の実はなりません」

「ふうん」

「あ、もうじゅうぶんです。ありがとうございます。次は……」


 ゆっくりと下流の方へ移動すると、開けた場所には花畑が広がっている。薬用の花に交じって色とりどりの花が咲いている綺麗な場所だ。アメリアが見つけた秘密の採取スポットである。セドリックに向かって誇らしげに笑いかけた。


「いいところでしょう?」

「あ、ああ。そうだな。静かで、可憐な花も美しい。お前に花を愛でる趣味があったとは意外だ」

「愛でる? 何言ってるんですか、ひっこぬいて帰りますよ」


 白い花をつけた植物を地面から抜く。


「ほら、見てください。立派な根です。水がきれいだから良質な材料がとれるいいところなんですよ」

「…………。お前にロマンチックさを期待した俺が馬鹿だった……」

「しかし困りましたね。急がないと一雨きそうです」


 アメリアはぽいぽいとバスケットに花を入れていく。本当ならもう少し足を延ばして採集に行きたかったが、直近で必要なものは手に入ったから良しとしよう。


「さっさと帰りますよ、セドリック様」

「あ、ああ」


 早く切り上げたつもりだが、予想よりも早く天気が崩れた。

 通り雨だろうと思うが、ここから一時間以上ある帰路を歩くのはさすがに風邪を引いてしまうだろう。気温が下がるとセドリックの口数も減ってきた。


「森で雨宿りをしましょう。少し走りますね」


 薬草でいっぱいのバスケットにセドリックを入れ、アメリアは走った。

 太い幹の木の下に逃げ込むと雨はかなり防げる。ここで少し時間をつぶすことにした。


「セドリック様、大丈夫ですか?」

「……キュ……」


 弱々しい鳴き声がバスケットの底から聞こえる。

 走っているうちに薬草のジャングルに迷い込んだらしい。バスケットに手を突っ込んで引っ張り出すと鼻を抑えて悶えていた。


「キュウ、キュー……」

「ああ……。薬草の匂いに鼻をやられたんですね。ちょっと待ってください、今喋れるようにしますから」


 持ち歩いているサンザシの薬を指先につけ、セドリックの口元に運んでやる。小さなリスの舌で薬を舐めとったセドリックは震え出した。


「寒いんですか?」

「……わからん。匂いに酔ったせいか、なんだか急激に気分が悪く……」

「身体を冷やさない方がいいかもしれませんね。私の服の中に入りますか?」

「は?」

「服の中です。人肌で少しは温かいかと」


 マントは濡れてしまっているし、手で温めてやろうにもアメリアの手は冷え切っているのだ。


「ばっ――馬鹿か、お前は! そんなことできるわけないだろう! お、お前には恥じらいというものがないのか!」

「寒さで死んでしまっては元も子もないかと思ったので……。元気ならいいんですが」

「元気ではないがこれくらいなら耐えられる――っくしゅ!」


 セドリックがくしゃみをした……かと思うと、それはものすごい質量をもってアメリアにのしかかってきた。地面にひっくり返ったアメリアにブロンドの男が覆いかぶさっている。


「え……」


 アメリアは目を見開いた。


「セドリック様……?」

「な、なんだ?」


 身を起こしたのはやはりセドリックだった。アメリアを下敷きにしていると知ったセドリックは慌てて身を起こし、そこでようやくアメリアの身体と自分の身体のサイズがほぼ同じであることに気が付いたらしい。服装も、最後に会った夜会での姿のままだ。


「も、戻った?」

「戻り……ましたね」

「っ、すまない、アメリア。大丈夫か」


 セドリックは慌ててアメリアを引っ張り起こした。泥が付いてしまったアメリアの髪や顔を袖口で綺麗にしてくれる。婚約して三年。セドリックがそんな優しさをみせてくれたのは初めてだった。


「なぜ戻れたんでしょう? セドリック様が飲んだという毒物の効力が切れたんでしょうか」

「わからん」

「ともかく、良かったですね。これで公爵邸に帰れますよ」

「あ、ああ……」


「……? セドリック様?」


 元に戻れて嬉しくないのだろうか。

 怪訝な顔をするアメリアのことをセドリックは抱き寄せた。


「アメリア、これまでお前につらく当たってしまってすまなかった」

「……」

「俺はお前のことを誤解していた! リンジーやキースたちの言う悪口を信用し、お前が俺を見下しているのだと思ってひどい態度をとっていたと思う。パーシバル家であんなひどい仕打ちを受けていることだって知らなかった……」

「セドリック様が気に病むことではありません。私が結婚に乗り気ではなかったというのは事実ですし、自分の境遇も話していませんでしたから」

「アメリアさえ良ければ、だが」


 身体を離したセドリックは真剣な顔でアメリアを見つめた。


「すぐにでも俺の元に嫁いで来い。あんな家にお前を置いておきたくないんだ」

「……セドリック様……」

「それに、お前のことをもっと良く知りた――っくしゅん!」


「!」


 くしゃみをしたらセドリックが消えた。


 ……いや、いた。アメリアの膝の上に。


 つぶらな瞳で小さなお手手を見つめて呆然としている。


「なっ……なぜだ……」

「なぜでしょうね」

「戻れたんじゃないのか⁉ キューッ!!!!!」


 人の姿に戻れたのはほんの一瞬で、そこから待てど暮らせどセドリックの姿が再び元に戻ることはなかった。アメリアは絶望に打ちひしがれるセドリックを抱えてパーシバル家へと帰宅した。


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