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【書籍化】リスになってしまった婚約者が、毛嫌いしていたはずの私に助けを求めてきました。(※二部まで完結)  作者: 深見アキ
第二部

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5、アメリアの部屋(セドリック視点)

(なんというか、俺はアメリアから男として見られていない気がする。わかってはいたが……)


 やや落ち込みながらセドリックは自室へと入った。

 アメリアがケイと二人きりで過ごしていることを想像すると耐えがたく、父に頭を下げて無理矢理補佐にしてもらった。父が止めなかったのは――おそらく、ケイがああいう対応をするだろうと思っていたに違いない。

 ケイではなくアメリア目当てなら来るなと言われ、冷や水を浴びせられたような気分だった。


(だが、事実だ)


 図星をつかれたセドリックは王宮にある紫紺病の資料や記録を読み漁った。

 それはケイの心情を慮ってやらなかった自分への反省――ではなく、やっぱりアメリアのことが気がかりだったから。彼女がケイの側にいるのなら、自分もあの場にいるのにふさわしいだけの働きをしなくてはならない。


(俺はアメリアが第一だ。それは、今もこの先も変わらない)


 リスになってアメリアの側にいた時に見つけた、びりびりに裂かれたドレス。


 あの時、セドリックは誓ったのだ。必ずアメリアを幸せにしようと。


 だから、もしもケイとアメリアが同時に危険な目に遭っているとしたら、セドリックは真っ先にアメリアに駆け寄る。ケイのことを一番に考えられない自分は、医官としても臣下としても最低だろうなという自覚はあった。


(アメリア……。無理しなければいいのだが)


 公爵家にしばらく籠ると言うことは、おおかた、紫紺病の薬でも研究するに違いない。ケイのための薬を作るときは王宮か公爵家でという決まりだったはずだ。




 そしてセドリックの懸念通り、翌日のアメリアの部屋は夜遅くまで明かりがつけられていた。使用人の話では水とビスケットを持って部屋に閉じこもっているのだと言う。


「あいつは、また……」


 確かに食事も睡眠もとると言っていたが、ちゃんとベッドで寝ているかどうかも怪しい。二日目の夜も明かりがつけっぱなしだったため、セドリックは使用人に命じて夜食を作らせると、それを手にアメリアの部屋へと向かった。


「アメリア? 入っても大丈夫か?」

「……」

「入るからな?」


 そうっと扉を開けると思った通り――というか思ったよりひどい。メモが散乱した床で気絶するように寝ていた。仮眠のつもりだろうか。ブランケットをひっかけているが、それにしたってひどい。ベッドまで歩けない距離でもないだろう。


 はあーっと溜息をついたセドリックは机の空いているスペースに夜食を置くと、アメリアの背中と膝裏に手を入れた。その軽さに驚いてしまう。


(こいつ、公爵家を出てからまたいい加減な生活をしていたな。毎食弁当でも届けさせようか)


 やや真剣に考えながら、アメリアの身体をベッドにそうっと下ろす。

 彼女のダークブラウンの髪が白いシーツの上に広がった。


「う、ん……」


 思わずびくついたが寝言だった。


 愛らしい桜色の口を半開きにして無防備に眠っている。かわいい。


 あまり外に出ないせいで日に焼けていない肌は陶器のように白く滑らかだし、まつげも長い。普段は見ることのないアメリアの寝顔を思う存分堪能した。……かわいい。


「ん、んん……」


 呻いたアメリアがハッと目を覚ます。

 そしてセドリックがいることに気づくと飛び起きた。


「えっ、セドリック様⁉」


 ばっ、とベッドの端まで後退される。


 そんな反応をされると思っていなかったセドリックはきょとんとしてしまった。「あら、セドリック様。何か用事ですか?」とか、「あ、ベッドまで運んでくださったんですか。どうもありがとうございます」など、いつものようにさらっと言われるだけだと思っていたのだ。


「言っておくが、誓ってやましいことなどしていないぞ」


 妙に落ち着いた気持ちで弁明すると。


「そ、そうですよね。すみません」


 アメリアは謝る。


 飛び起きたせいか彼女の髪はぼさぼさだ。セドリックは子どもにするようにアメリアに手を伸ばす。二人分の体重を乗せたベッドがぎしっと音を立てた。


「ほら、髪が――」

「っ!」


 ぱしっ!


 振り払われたセドリックは驚く。同じだけアメリアも驚いていた。


「あ、っ、す……すみません、すみません!」

「い、いや。俺もすまない。いきなり無礼だったな」


 今は夜。そして密室に二人っきりだ。

 セドリックは反省した。


「すまない。心配になって様子を見に来たらお前が床で寝ていたから……。ベッドに運んだだけだ。それ以外は本当に何もしていない。神に誓おう」

「も、もちろんです。疑っているわけじゃありません。私の方こそ驚いてしまっただけです、すみません」


 あまり長居するべきではないと判断したセドリックは、早めに休むようにと言って部屋を出た。いつまでもセドリックが部屋にいてはアメリアも落ち着かないだろう。


 しかし、さっきの反応は……。


(怯えて、いた?)


 あんなに取り乱したアメリアを見たのは初めてだった。


(もしや、ケイ殿下に無理に迫られたのでは――……)


 いや、セドリックが知らないだけで、パーシバル家にいた時にキースからひどい扱いを受けたのかもしれない。怒りの炎がゴッと燃え上がったが、自分で鎮火した。ついつい世話を焼いてしまったが、好きでもない男にベッドまで運ばれたなんてアメリアにとっては嫌だったのかもしれない。


(俺は、ますますアメリアに嫌われてしまったかもしれないな……)


 リスだったころの方がアメリアの側に居られた気がする。

 今はもう存在しない尻尾をしょんぼりとおとした。 


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