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ACTorDIE!〜声優業界下層階級哀話〜  作者: 野乃々田のの
第2章 雛沢ももえの窮境
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2-7 「売れ損ない」

 後見人たる達川がいなくなった以上、事務所としても達川に押し付けられた女を懇切丁寧にプロテクトする義理はなくなった。今後わざわざ理由を付けてクビにする必要はないにせよ、少なくとも安沢とし子as雛沢ももえがこの事務所でまともな幸せを手に出来る可能性は限りなく低くなったといえる。

 安沢とし子はこの短い期間の中で、全てを手に入れ、そして全てを失った。

 いま、この世に声優・雛沢ももえの味方になってくれる者は誰にもいない。業界にも、事務所にも、そして恐らく世間にも。そして、人生で初めて、そして最も真剣に取り組み、形にし、一度は多くの人に賞賛して貰えたその努力のしるしでさえ、突如降りかかった不条理な災難によって、最初から無かったものの様にされようとしている。


 涙はない。

 涙などで困難や辛苦に打ち勝てる事などない事は嫌というほど知っている。

 溜息もない。

 溜息などで災難や災禍が吹き飛ぶ事などない事は嫌というほど知っている。


「………取り敢えず、パチスロ行くか」

 とし子は魔法少女プリティ☆フレイルに携わる様になってからイメージ保持の為にずっと我慢していたパチスロを打ちに行く事にした。それは声優:雛沢ももえの仮面を脱ぎ、闇の住人:安沢とし子に戻る為の儀式の様でもあった。

 近所のパチンコ屋でスロットを回していると、携帯にメールが入って来た。

 事務所からの仕事の連絡かと気色ばんで確認すると、昔居た劇団の主催の安藤が交通整理のバイト中に18才のヤンキー女がコカインをキメながら運転する暴走軽自動車にはねられて死んだという内容だった。文末には葬儀の会場の情報と、参列可否の返答を請う一文が添えられていた。

 勿論、無視した。



 こうして雛沢ももえは「売れ損ない」になったのであった。

 安沢とし子、時に齢21であった。



 そして、25年の月日が流れた。

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