岩城静香の場合
岩城静香は何も考えずにはいられなかった。
いや、正確に言えば、何も考えずとも結果が分かっていた。
川の流れも、木の葉の動きも、雲の流れ、果てには人為的な物の動きさえも全て分かった。
幸運だったのは、彼女がこの力を悪用しようとしなかったことと、彼女がこの力に慣れていたことだ。
とはいえ、慣れたからといって彼女の頭を流れる情報量は常人のそれとは比較にはならない。他人の一挙手一投足が頭に流れるのである。それは人の想像し得る範囲を超えていた。
彼女は今日も、無為に過ごす。街角で運命の人にも会わず、学校でも友と言えるかどうかわからない人たちと分かりきった会話をする。帰宅した後も既視感を覚えたテレビを見る。
そんな彼女がこう思うのも無理はなかった。
(こんなつまらない世界より、何にも知らない…、何も分からない世界はないの?)と
その瞬間彼女の目の前に理解不能な存在が現れた。おおよそこの世の物とは思えぬ存在に彼女はひどく興奮した。自分の理解し得ないものに、初めて出会ったのだ。
そんな理解不能な存在は彼女に向かいこう告げた
<<あなたの願いは受理されました。転送しますか?>>