八条マイの場合
八条マイは絶望していた。
そういうと語弊があるかもしれないが事実である。彼女が願うことは全て叶ってしまう。叶ってしまうように周囲が動くのだ。
最初に違和感を感じたのは、小学生の時。
彼女の欲しいと思ったものは全て手に入ったのだ。例えばデパートにあるオモチャ屋で、
「ママ!あの熊のぬいぐるみ可愛い!ねぇ、持ってかえっていいでしょ?」
と言うと、何も言わずに買ってくれた。これならば何も違和感がないのだが、それが毎回なのだ。
彼女が欲しいと言うものはお金のあるなしに関わらず手に入った。両親の財布に金が入ってなかったとしても、店員が勝手に支払ってくれた。それを彼女は好意だと思ったが、
(こんなことってあるのかなぁ…)
と幼いながらも感じていた。
そして決定的だったのは高校に進学する時だ。中学校までは大体の人は同じ学校に通うが、高校はそうはいかない。学力や経済、将来の目標によってバラバラになる。彼女は全国模試でもトップクラスの学力であったため都内の高校に進学した。
そうして迎えた卒業の日。いつもの3人組でいつも通りの会話をしていた。
「まさかマイが県外の高校に行くとは。意外だったわー」
「いや、そうでもないでしょ。マイの学力に合った高校なんて、それこそ大都市にしかないじゃん。」
「確かになー」
「でも、2人とも今後一生会えない訳じゃないんだからそんなに寂しくはないでしょう?」
そう、この3人もまた高校で離れ離れになってしまうのだ。いつも通りの会話を終え、マイは最後に今まで言えなかった本音を言った。
「さっきはああ言ったけど、本音はやっぱりまた3人で同じ学校に通いたいわ。でも、今更言っても遅いわよね。ううん、なんでもない。さぁ、帰りましょう。皆んなの親も家で待っているわ。」
そう言って、校門を後にした。
そして一ヶ月後、高校入学の日を迎えた。そこで彼女はあり得ない光景を見る。彼女のクラスに卒業式で別れたはずの親友がいるのだ。彼女は混乱する。
「なんでここに…!ありえないわ!どうして?」
そんな疑問に答えるかのように、親友達が彼女の前に近くに寄って、
「そんなのマイと一緒の学校に通いたいからに決まってるじゃん!」
「ね!」
そんなことを当たり前かのように言う。
高校に2年次から編入してくるなら分かる。しかしこの一ヶ月の間で進学先を変えることなど不可能であった。そして恐ろしい事に、周囲はそれを当たり前だと認識している。
そうして彼女は仮説を立てた。もしかしたら自分の願ったことは全て実現するのではないのかと。そしてそれはすぐに解決する。彼女は親友2人に向かって
「今すぐ元の学校に戻って」
そういうと2人は
「わかった。マイが言うなら仕方ないね。」
「そうだね、戻ろっか。」
「せんせー、退学届下さーい」
いつのまにか入っていた教師に向かって当たり前のように言う2人。
その瞬間、マイは絶望した。自分の願いは意識するしないに関わらず発動しているのだと。あの親友2人も自分の願いによって親友だったのではないか。そして彼女が1番絶望したのは両親だった。
両親でさえも自分の願いで愛してくれていたのではないか、そう思うと彼女は何もかも信じられなくなっていた。
そうなると彼女がこう願うのも必然だった。
(誰も私を知らない世界を…。私自身を信じられる世界を)
そう彼女が願った瞬間世界は停止し目の前に白い塊が現れた。そしてそれは明らかに彼女に向かってこう告げた。
<<あなたの願いは受理されました。転送しますか?>>