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少年達の狩り、とある手紙、仕事について

 中央大陸メトキオの小国ドコンは傭兵の国と呼ばれている。

 ドコンは小国ではあるが北の魔族連合の国々と国境が接しており、たえず国境線に防衛軍を配置している。

 ただ軍費を下げるため、その大半はその時々の傭兵で構成されていた。

 正規兵と比べ格安であるとはいえ、傭兵にはそれなりに給金がでるので――まあ言っちゃ悪いが出稼ぎ感覚で若い男が集まるわけである。

 家の次男坊で土地を持たない貴族や百姓だったり、あとは軽犯罪者を罰としてを危ない地域に放り込んだり、事業に失敗した者が食うに困って、など理由はそれぞれだ。

 ただ、国境線での小競り合いはあっても、ここ二十年は軍事的に大きな衝突は起こっていない。

 だから正規軍は少ないが、国の男のほとんどが兵役経験があると言ってよい。

 これが傭兵の国といわれる実態だ。


 ――ドコン国、都市ロウ郊外のとある平原。

「そっちに行ったぞ」

 とある少年が他の少年達に指示を出しながら声を張り上げる。

 おそらく彼が少年4人のグループのリーダーであることは誰が見てもわかる。

 いわゆるガキ大将だ。

 少年達は魔物――中央大陸ではブルと呼ばれている――を追い込んで、まさに仕留めようとしていた。


 そんな少年達を少し高くなった丘から遠目でココリククは見ていた。すこし懐かしい感じがする光景だった。自分も子供の頃、ああして魔物を狩っていたのだと思い出す。

「さがしましたよ」

 どこかノスタルジックで感慨に浸っているココリククに無遠慮に声を掛けてくる女性がいた。

「ああ」とココリククが気のなさそうに言った。

「どうかしたんですか」

 女性は怪訝そうに言った。彼女はココリククのことをよく知っている――まあ基本的にセクハラくさいおっさんという認識なのだが、今日の彼は少し様子がおかしかった。

 そんな彼女の反応に気づいたのか、ココリクは言った。

「あれを見て君は何も思わないかい」ココリククは魔物を狩っている少年達を指を指す。

「あー、危ないですね。助けに行きましょうか」

 女性は言った。

「そういうことじゃないよ」ココリククは自分の声が思ったより大きいことに少し驚いた。

「ど、どうしたんですか? ココリクク」彼女も目を見開いて驚いているようだったが、なるべく冷静にココリククに問いかける。

「いや、すまない。メパ」ココリククは少し平静になったようで、素直に謝った。

 ココリククがようやく自分のことをメパという一個人であることを認識したようだ、とメパはやはり驚いていた。


「よっしゃー」少年グループの一人が雄叫びを上げた。

 ――どうやら魔物を無事に仕留めることが出来たようだ。


「彼らの狩りも上手くいったようだし、一旦戻ろうか」とココリククは言った。

 休憩中の荷馬車の方に歩き出した。表向きではココリククは人材運用会社・デュパからの依頼で護衛役としてこの荷馬車について回っている。

 荷馬車はもう少しここで休憩するらしい。思いのほか進行が早くて都市ロウに入るにしても出入りに厳しい門番に止められてしまう。

 定刻にならなければ、出入りができないらしい。早く入るのはダメだし、大きく過ぎてもダメとのこと。――外国人に厳しいとは聞いていたが、ここまでだとはココリククも思わなかった。

 ココリククの本来の目的は都市ロウに入ることなのだが、問題を起こしたくないし、急ぎではないので特に異議はなかった。

「じゃあ、もう少しここで話せそうだから、本題を教えてくれる?」ココリククは言った。

 ココリククは「仕事してますよ」とアピールするように周りを警戒しているように見渡した。

 ――この辺は平和だ。魔物はいないし、魔族領からも離れている。

「はあ」とメパはココリククのよく分からない切り替えにあきれていた。

「ああ、そうだ、そんなことより」ココリククは思い出した様に神妙な面持ちになる。

「なんですか」メパは固唾を呑んだ。

「今日も良い身体しているね」ココリククは親指を立てて言った。

 ――やはりただのセクハラ親父か――と、メパは彼のみぞおちに右拳をたたき込む。


 ココリククが復活するのをしばらく待って、メパは口を開いた。

 話が進まないことに彼女が苛立っているのを察知したココリククは荒くなった呼吸を整えながらも、なるべく大人しく聞いた。

 彼女の仕事は諜報というか、基本的にはココリククと知り合いをつなげる連絡係である。

「――西の方は特に問題なさそうでした。お兄様方もお元気そうでした。問題は南の方で」

「あれ、レックが何か粗相した?」

 ココリククは意外そうに言った。彼を冒険者として送り出して、そろそろ半年が経っていた。

 三ヶ月前の報告では特に問題なく活動していると聞いていたが、彼にとっては不慣れな新生活だ、問題も起きるだろう。

「いえ、これを彼から預かっています」

 メパは困ったように荷包みをココリククに渡した。

 ココリククが中身を確認すると、十個ほどの魔石が入っていた。

「うん? よくみると刻印が施されているな」

 ココリククはまじまじと魔石を見ながら言った。

 魔石への刻印にはそれなりの技術がいるはずだ。彼がいるのは南の大陸だから、小人族の職人に習ったか、痩身族と出会ったか、――なんだか彼の方が冒険者らしいじゃないか、とココリククから笑みが零れた。

 魔石は八面体に加工されていて1つの面には大きめの穴が開いていた。

 これを上にしておいた場合、側面の1つに刻印が施されているのだ。

「その刻印が問題なのです」メパが言った。

「へえ」と、ココリククは考える。何の魔方陣が刻まれているのだろうか。

「魔石を粉砕せずに魔力を取り出す刻印だそうです」メパが小声になって言った。

「はあ」とココリククはあきれたように驚いた。

 半信半疑になりながら、レックからの手紙が同封されているのに気づいて、それを読み始める。

 ――上手く字も書ける様になったもんだ、と一瞬微笑ましく思ったが、すぐに内容を読み進めて脂汗が滲み出た。

 手紙の内容は近況報告と、同梱した刻印済み魔石の使用方法と製造方法、そして増産可能であることが書かれていた。

「これは事件だ」と、ココリククは言った。

「やはりですか」メパは言う。彼女はあまりこういう最新技術に詳しくないのでよく分かっていないようだった。

 だが、ココリククはこのすばらしい事件に興奮が抑えきれないでいた。

 魔石を一つ取り出して、刻印に魔力を少量だけ流し込んでみる。

 そうすると刻印魔術が起動した。

 魔石の穴の部分から絶え間なく一定方向の指向性を持った魔力があふれ出ていることにすぐに気づいた。

 そして魔石から一定量の魔力が出尽くすと、刻印魔術も終了した。

 今度は逆に加工されている魔石の穴に魔力を流し込む。穴の中にも刻印が施されている。

 魔石は魔力を吸収していく。一定量流すと中の刻印が緑色に光った。手紙によるとそれが魔力を貯めきった合図らしい。

 つまり、これは魔力の貯蔵庫である。

 ――この技術はおそらく時代を変える。

 ココリククは大急ぎでレック宛ての手紙をしたためた。

 ――本当に幸運だ、ロウの街に入る前にメパと落ち合えたことを神様に感謝しなくてはいけない。

「この手紙をレックに渡してくれ、それとこれを軍資金に工房をかまえるようにと、僕はこれからしばらくロウにとどまるからメパの方でいろいろ手伝ってあげて」

 それと――と、ココリククはメパに必要なことをすべて伝えて、すぐにレックの所に向かうように言った。

「というか、そこまで大事件なら自分でレックに一度、会いに行った方が良いのでは」メパは言った。

「それがそういうわけにもいかないんだ。僕はここで後の英雄に会わなくてはいけないから」ココリククは笑いながら言う。

 メパは何のことだかよく分からないでいた。

「ちなみにその英雄っていうのはどういう方なのですか」

 メパは聞いた。

「今はまだ、あそこで狩りをしているよ」ココリククは狩りをしている少年達を指差して言った。

 メパがココリククの指差すほうを見ると、さっきの少年達は二匹目の魔物を倒し終えて、三匹目の狩りの途中のようだった。

「あの子達がそうなんですか」メパは言った。彼女はココリククがおおよそ何のために動いているのか知っているが、すべてを知っているわけではなかった。

「たぶんあの子だけど、詳しくはロウの街に入って確認する必要があるんだ」

 ココリククは暢気そうに言った。

 そんなとき、馬車の従者がそろそろ出発するとココリクク達に声を掛けた。

 メパはロウの街には入れないので、言われたとおりレックの元に戻ることにした。

 自分たちはおのおのの仕事を確実にこなす。

 それがココリククとの絆であることを、メパは久しぶりに思い出したような気がした。

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