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出土品?

 ルルァの遺跡がある小国ヴァの都市ガルゥにはいくつかの病院と診療所がある。

 そのなかで最大のル・バ中央病院には先ほどココリククの魔力の奔流にやられた発掘員たちが運び込まれていた。

 全員が軽症だったものの、ココリククが病院の医者達から疎まれたのは言うまでもない。

「それでよ。あの少年はなんなんだよ」

 発掘員達に紛れて運ばれてきた平身族と見受けられる少年を担当した医者アリィはココリククに尋ねた。

 少年が一番の重傷だったうえ、基本的にヴァは小人族の国だ。都市に分類されるとはいえ、片田舎のガルゥに平身族の少年が重体で運び込まれてくるというのは基本的に事件性を帯びていて、アリィもやすやすと見過ごすわけにはいかない。

 治安は悪くもないが良くもない都市ガルゥだ。冒険者にしろ、観光にしろ、邦人というのはそれなりに対策をしているものだ。

 邦人が身ぐるみを剥がされて全裸で意識を失っているなんて事はまずないのだ。

「少年は遺跡で拾ったよ」

 ココリククは事実をケラケラと言った。

 悪気はないが悪い癖だ。説明が足りない。

「最近発見された遺跡の新しい区間の扉だよ。おそらく転移門の類いなんじゃなかと」

 遺跡の管理責任者も務めているサァが補足するように言った。

「はあ。大丈夫なのか、そんなんして」

 医者のアリィはあきれたように言った。そして幼馴染みのサァを心配そうな目でみた。

 アリィはもちろんだが医師免許を持っている。――医師免許の取得には魔法による生体コントロールが可能なことが大前提である。

 つまり、アリィは狭義の魔法使いでもあるので、魔法の知識も一般人よりは詳しい。

「いまになって思う。ココリクを呼びつけたことを猛省している」

 遺跡の管理者であるサァは言った。

「悪いとは思っている。だが、反省はしない」

 ココリククは悪さがバレた少年がみせる開き直った笑顔で言った。

「まあ、遺跡にある刻印に魔力を注ぐこと自体は犯罪ではないし、発掘作業中に事故が起こるっていうのもよくある話だけど」

 医者のアリィはあまり納得してないようだが、一応は事件性はなさそうだと思うことにした。

 アリィは少年のベットに目を遣った。まだ目を覚まさないようだ。

 検査結果とアリィの生体コントロールで、外傷はない。あとは若干の脱水症状が見られる。今はひとまず点滴を打つことで対応している。

「どうするね。あの子」

 アリィは二人に聞いた。

「とりあえず、僕が預かるよ」ココリククが言った。

「預かるったって」サァは言いにくそうに言った。

 まだ少年が何者でどこの国の人間かも分かっていないのだ。――見たところ平身族であるし、身元を捜すのなら、冒険者で顔も利く、そもそもの原因でもあるココリククが世話をするというのは文句はない。

 ただ問題はこの少年が遺跡からの出土品(?)であるということだ。

「あのよぉ。一応、この少年は出土品? という扱いになると思うんだが」

 そう判断すると、少年は一旦は国の所有物となり――どうするだ、これ?

「まー、その辺はおいおい考えるとしようか。いろいろと問題点も見えてきたし。とりあえず彼の回復を待たないかい」

 勝手に話が進んでいきそうだったので、少年を哀れに思ったアリィが二人の間に入った。

「そうだな。病人だからしばらくは入院しているだろうし」

 サァが言った。

「彼の意識がはっきりしたら考えようか」

 ココリククも納得した。

 問題だけは残った。――とりあえず少年の治療費はココリククに請求することにしようという事だけ、アリィは心に決めた。


 少年が運び込まれて二日目の朝、彼は目を覚ました。

 医者のアリィに対して彼は受け答えをしようとしているが、どうにも困ったことがある。

「ばドー、グーらレン、だ、だぐあはなえ」少年は何かを伝えようとしていた。

「うん、意味が分からん」アリィに呼び出されたココリククはすぐに諦めたように言った。

 あらゆる国を旅する冒険者であるココリククにも彼の言語が理解できないでいた。

「おまえでも、無理か」

 サァは言った。

「まあ、あらゆる国を旅したと言っても、五カ国語もあれば、だいたい大丈夫だしね」

 ココリククは笑いながら言った。

「いや、例えば古代語とかならココリクの分野だろ」サァが言う。

「さすがに音声言語じゃ無理だよ」ココリククは言う。

「じゃあ筆談か。ペンと紙を」アリィはメモ帳とペンを少年に渡してみる。

 少年は不思議そうにペンをみたあと、それが筆記用具であるとすぐに理解し、何かを書き始めた。

 三人はそれをまじまじと見たが、やはりその文字がなんなのか分からなかった。

「これで分かったことと言えば、少年の知能は低いわけではないことと、ある程度の教育がされていることくらいか」

 ココリククは冷静に言った。

「この文字、あの遺跡から出土したものの中でも異質だ」

 少年の書いた文字を見ながら遺跡の管理者であるサァが言った。

「元気そうだし、検査でも異常はなさそうかな、食事も摂れているし、健康上は問題なしだよ」

 医者のアリィが言った。

「とりあえず、俺は上に報告だけはしておくよ」

 サァが言った。

 上というのは、この国の研究機関バルにだろう、というのがココリククにも分かった。

 余談ではあるが――

 正直な話、バルも遺跡から人が出てくるケースはあまり想定していない。

 この国の法律ではルルァ遺跡からの出土品は一度、国で預かってバルが鑑定する。

 バルが歴史的な価値を判断して、必要であれば国がお金を出してサァの運営する遺跡管理団体から買い取る。

 不必要なものは競売に掛けられるか、サァの運営する遺跡管理団体所有の博物館に行くかのどちらかだ。

 出土品がものである場合はそれで何の問題もない。

 それはものに対する扱いとしては妥当だし、何の問題もないことだった。しかし、出土品が人間である場合は想定していなかった。

 ――とはいえ、ルルァ遺跡から出土したと言うことは何らかの研究対象になりえる。と、バルもそれが困りどころだ。


 そんな事があって、少年が目を覚まして一週間が経ったころ、少年の扱いが決まった。

 少年はココリククの保護下に置くことが決まった。

 理由は、ココリククが少年と同じ平身族であること、遺跡の発掘などの功績があること、研究者としての一面がありバルと連携できること、遺跡の管理者と親しく連携できること、なにより少年がなついてること。

 という名目でバルは少年を諦めることにした。

 そもそも人間を研究対象にするのは倫理的に問題があるうえ、研究対象にも出来ない異国の少年を見返りなしに養うほどバルもサァの遺跡管理団体も時間と金があるわけではないというのが本音だ。

 ココリククはなんだかんだ裕福であるし、自ら引き取ると言ってくれている。少年の存在は世間に公にもなっていない今が押しつける絶好のチャンスであったのだ。

 そういうわけで、少年はココリククの庇護下に置かれた。


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