古代遺跡 ルルァ
冒険者ココリクク・クワァッキが南の大陸ヴ・グァにある古代遺跡ルルァの調査依頼を受けて出向く事になったのは19年ぶりのことだった。
なんでもルルァで新しい発見がされたようなのだ。
なぜそれが冒険者のココリククが調査することになるかと言えば、単純な話だ。
というのも、この古代遺跡を20年前に発見したのは当時16歳だったココリククで、今となっては遺跡発掘の第一人者となっている。
ただそれだけの理由と、ココリククの生来の好奇心が彼をルルァに向かわせたというのもある。
「やあ久しぶり、サァ」
ココリククはルルァにつくなり、この遺跡の管理人である小人族のサァに挨拶した。
「ココリク、久しぶりだな、元気してたか。つーか老けたな」
サァは種族柄、ココリククのような平人族と違い、老け顔で20年前のままだ。
相変わらず、ココリククのことをココリクと愛称呼びするのも、本職の鍛冶で焼けた肌も、ニカッと笑って白い歯を見せるのも思い出のままだった。
「196歳のサァに言われてもなー。たしかに私も、もう36になりますが……」
正直、170歳も190歳も平人族のココリククにはよくわからない。平人族の寿命は大体50歳から60歳程度なのに対して、小人族は大体、300年は生きると言われている。
「それもそうか、グァハハハハ」
南の大陸に多くすむ、小人族は『グァハハ』という特徴的な笑い方をする。だから彼らにとって『グァ』は笑うという意味の動名詞である。
また、大陸名にもなっている『ヴ・グァ』はよく笑うという意味である。
「そんなことより、ルルァで面白いものを発見したんだって」
ココリククは目を爛々と輝かせて言った。
「そういう所は、変わらねえな、お前。平人族は普通、時間を大切にして再会を喜ぶ人種ばかりだと思っていたんだけどな」
サァはあきれたように言った。ココリククの19年とサァ達の19年は価値観が違うはずなのだが、ココリククはまるで昨日あったかのような感じで遺跡の話を始めたのだ。
「まあ、早い話が横道を発見したんだけどな、見た方が早いだろ着いてこい」
サァは笑いながら言った。
ココリククは鼻歌交じりに遺跡に入っていった。
横道は狭かった。小人族は名前の通り身長が低いからサァはすいすいと進んでいくが、平人族でも高身長な部類のココリククにとっては中腰にならざるを得ない。
20年前の発掘ではこれがしんどくてココリククは1年で音を上げて、調査と管理を小人族に任せてしまったのだ。
しかし、10キロくらい歩いたときに道は開けて大広間に出た。
その大広間が奇怪な事はすぐに認識できる。ココリククが普通に立っていられる、それどころか天井は明らかに高いし、人を300人は収容出来るくらい広かった。
「……こいつは、すごいな」
入ってきた通路から見て最奥にある壁に埋め込まれた扉のようなものを見て、ココリククは言った。
「だろう」
サァは誇らしそうに言った。
「なにか触って反応とかあった?」
「いや、実はあまり触れないように言ってある。なにかの罠かもしれないし、それに見ろよこの模様、俺たちはこういうの苦手なんだ」
「そうだったね。これは、……魔方陣、なのか……」
魔法・魔術に関してありとあらゆる書物を読んできたココリククも判断に戸惑った。全くの未知のものだった。
ちなみに言うと小人族はあまり魔方陣は使わない種族である。彼らは地脈からの魔力を神聖なものとしているため、自然なものをありがたがり、魔術的な装飾は嫌う。
反面、身につける装束などはゴテゴテに凝る。なので性格はサァのように豪快なのが多いのだが、装飾や鍛冶が好きで意外と手先が器用だったりする。
――まあ、いうならそういうバランスをとる種族なんだ、ココリククはそう思い出してすこし吹き出しそうになったが我慢した。
基本的にココリククはこの奇妙なバランスをとる小人族達が大好きだった。
「うん? どうしたココリク? しっかし、わからねえ。たまたまこのまえ、旅の冒険者に痩身族がいてよ。見てもらったが、奴らの知識のものじゃなかったし」
サァは言った。
厳密ではないが、痩身族を簡単に説明すれば小人族の反対のような種族である。
「だろうね。これは私も見たことがない」
ココリククはありとあらゆる知識に精通しているつもりだったが、この幾何学模様に対抗する手段はなさそうだった。
「で、どうするね」
サァは笑いながら言った。
「とりあえず、魔力をそそいでみるかな」ココリククは事も無げに言った。
「お前は、そう言うと思ったよ」サァは笑わなかった。豪快な男だが、慎重さがないわけじゃない。むしろ慎重さがあるから、部族の長に選ばれた男だ。
そんな男が少し顔を青くしたまま叫んだ。
「全員、障壁を張りやがれ、張れねえやつはとっとと外に出ろ」
「ありがとう」
そう言うとココリククは最大魔力をその扉に注ぎ込んだ。
ココリクク・クワァッキはこの道26年のベテラン冒険者であり、ありとあらゆる知識に精通し、その細身から信じられないような膂力と魔力を発揮し、付いたあだ名は≪バランスブレイカーのココリク≫である。
そんな彼が最大出力で魔力を行使するということは、魔的な抵抗がない者の即死を意味する。
さすがにこの現場には耐性を持っている人間しかいないが、それでも2,3人は泡を食って狂乱状態に陥り、5人ほど気絶していた。
「こ、この阿呆が」
サァは全力で無防備なココリククの背中を殴った。
「流石に、いてぇ」
ココリククは魔力放出を一旦止め、背中をさすった。
「俺がフルスイングしたのに、その程度とは、流石というか、こんちくしょう」
サァはあきれて言った。
「つーか、いきなり何するんです」
ココリククは恨めしそうに言った。
「それはこっちの台詞だ。殺す気か」
「大丈夫だって、死なない程度に手加減したから」
ココリククは悪びれもしないのを見て、サァはいろいろと昔のことを鮮明に思い出した。
――そういや、こいつはこういう奴だった。懐かしさで補正されていたが、とんでもなくむちゃくちゃする奴だった。あー思いだした。あれもこれも、そういう奴。こういうことする奴。
サァは大きく呼吸して冷静に言った。
「まあ、魔力放出もそうだが、この仕掛け何が起こるかわからんって言っただろ」
「だから試したんでしょ」
きょとんとしてココリククは言った。
サァはいろいろ無駄に感じて諦めた。
――いつか絶対に訴えてやる。国際問題にしてやる。つーかなんで国際手配とかされないんだよ、こいつ。
と、サァはあと少しで口から出そうだった。
「それに効果はあった」
ココリククは少年のように笑いながら言った。
こういう所が憎めないと思えてしまった時点でサァの負けだった。
「どこの種族だ。ぱっと見、平人族だよな」
扉は開いて、そこには15、16くらいの少年が倒れていた。
「見たことない民族衣装だし、珍しい髪の色をしている」
ココリククはまじまじと観察しながら言った。
「どのみち、倒れているんだから医者に診せてみるか。こっちも誰かさんのおかげで何人も倒れたし」
サァはそそくさと「撤収だー、動ける奴は動けない奴を運んでやれ」と周りに指示を始めた。
冒険者ココリクク・クワァッキと供に行動した人間はこういうことには慣れている。だからあまり動じることなく、いろいろなことが流されてしまう。
魔力で開けた扉から少年が突如現れても誰もそれに対しての反応は薄いのだ。




