第9話 幼馴染の元まで
二人が事務所に入って約10分が経過した。
俺は龍崎さんから頼まれた商品補充を行いながら、事務所との行き来用扉を気にして見ていた。
気になるなぁ。
まだ出て来ないのか?
そんな事を思っていると、行き来用扉の開く音が聞こえてきた。
お!?二人が出てきたぞ。
行き来用扉から出てきた二人は、お互いに軽い挨拶を交わして仕事に戻っていった。
一体、話し合いはどうなったのだろうか。
俺って許されたのかな。
色々気になるし聞きたいけど、まずは終わった商品補充の報告に行こう。
「龍崎さん!商品補充終わりました!」
棚の整理作業をしていた龍崎さんに声をかけた。
「ふーん、初めてにしては早かったね!じゃあ次は、俺がやってるみたいに棚の整理作業をしてもらおうかな」
「分かりました!あのう…それでなんですけど、俺って龍崎さんに許されたんでしょうか?」
俺はここだ!と言うタイミングで、あの問題について切り出した。
「ああ、そうだったね!すっかり忘れちゃってたよ!」
「ええーー!?俺結構悩んでましたけど…」
「まあまあ、千種君の事はもう許す事になったからさ!元気出して仕事を頑張ってよ!」
「は…はい。ありがとうございます」
「あ…そうだ。千種君さ、早乙女ちゃんにもお礼言っといた方がいいよ。今回の件を丸く収めてくれたのは、早乙女ちゃんだからさ」
「え…それってどう言う事ですか?」
「ごめんね。詳しい事は言えないんだよ」
何だよそれ。まあ花梨が何かをしてくれて龍崎さんから俺は許されたみたいだし、見かけたらお礼を言っとこ。
◇◇◇
そしてバイトの終了時間がやってきた。
結局花梨とは未だに話しが出来ておらず、まだお礼が言えていない。
まあ仕方ないか。花梨はまだ何かやっているみたいだし、明日学校で言うとしよう。
「今日は色々とありがとうございました。明日もよろしくお願いします」
「お疲れさま」「お疲れさん」
俺は従業員の人たちに挨拶をして、バイトを上がった。
はぁ、疲れたな。
帰り道、俺はボソッと呟く。
人生初めてのバイトは、予想以上にキツかった。
やる事は多いし、クセの強い先輩は居るし。
この先続けることが出来るか心配でならない。
心身ともに疲れ切っていた俺は、帰ってすぐに眠りについた。
◇◇◇
次の日、バイトの時間がやってきた。
花梨とは学校で会えたので、昨日のお礼を言ったのだけれど何か元気がないように見えた。
だけど、詳しい事は何も聞かなかった。
あまり深く踏み込んでも、絶対花梨が嫌がると思ったからだ。
「龍崎さん、今日もよろしくお願いします!」
俺は事務所で龍崎さんを見かけたので、挨拶をした。
「ああ、千種君か。今日もよろしくね」
え、なんか俺を見てガッカリされた?
まあ別に良いけど。
「じゃあ早速だけど、昨日教えた流れで作業していって」
「分かりました」
ええと…この作業からだったかな。
次はあの作業で、その次はあれか。
こうして1時間が経過した。
「お疲れ様です。早乙女入ります」
花梨が出勤してきた。
やっぱり少し、表情が暗いような気がする。
「早乙女ちゃーん、待ってたよ」
龍崎さんが、いち早く花梨に声を掛ける。
「お…お疲れ様です」
「昨日の約束忘れてないよね?」
「は…はい」
「じゃあ今日の仕事終わり、待ってるからね」
昨日の約束?仕事終わりに待ち合わせ?
まさかこの二人って…付き合っているのか!?
あの花梨が…まさかなぁ。
「千種くーん、次はこの作業してくれる?」
「わ…分かりました!」
まあ別にどうでもいいか。
今は仕事に集中しよう。
ーーーー
ーーーー
そして、バイトの終了時間。
今日は、花梨と龍崎さんも一緒の時間にあがるようだ。
「じゃあ早乙女ちゃん、俺は外で待ってるからね」
「はい」
「千種君、次は月曜日に」
「はい、お疲れ様でした」
俺と花梨は、龍崎さんが外に出るのを見届けた。
「あのさ…花梨って、龍崎さんと付き合ってるの?」
「え!?」
俺の突然の質問に、花梨は驚く。
「いや、俺の勘違いならそれでいいんだけど」
「千種は、私が誰かと付き合ってたら嫌?」
な…何だよその質問。
これってどう返すのが正解なんだ?
「ど…どうだろうな。花梨が本当に好きな人と付き合ってるのであれば、俺はいいと思うけど」
「そう…なんだ」
何だよその…悲しそうな顔は。
「花梨…」
「ごめんね千種。私もう行かなきゃ」
そう言って、花梨は事務所から出て行った。
花梨のあの悲しげな表情、前にも見た事があった。
あれは確か、中学一年の頃。花梨は真面目だし気が少し強いところもあって、周りからはあまり良いようには見られていなかった。それが原因で花梨はいじめの対象になり、誰にも相談せず一人で耐えていた。花梨の性格上、何か悩みや問題が起きても誰にも相談せず一人で抱え込んでしまうから、周りが気づいてあげるしかなかったんだ。
今回も、何か一人で悩みを抱え込んでいるはずだ。
あの表情は、その何かのSOSだったのかもしれない。
確かめるしかない。本人に直接会って、何かあるなら俺に全部話せって言ってやる!
それが幼馴染の役目じゃねえか!
俺は気がついたら走っていた。
それも無我夢中で、ただただ花梨の元まで走り続けていた。
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