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第5話 バイト先、それは第二の家である

 校門で花梨を待つ事15分。

 その間俺は、朝の出来事を思い返していた。

 

 花梨との会話、クラスメイトの表情、教室の空気感、それら全てを思い出すだけで何だか胸が苦しくなる。


 どうしてあの時俺は、もうちょっと冷静に花梨と話せなかったのか。

 そんな事を今更後悔しても遅いとは分かっているのだが、後悔せずにはいられなかった。


 ……


 ……


 ん?ちょっと待てよ。

 どうしてあの時、花梨は俺に話しかけてきたんだ?

 花梨の事を昔から知っているが、あいつが怒った時は決まって俺から話しかけていたはずだ。あいつは究極の頑固だったし、自分から折れて歩み寄ってくるなんて事は過去に一度もなかった。


 そう考えると、誰かが何かを花梨に吹き込み俺に話しかけるよう仕向けたとしか考えられない。

 じゃあその誰かとは誰なのか。


 そんなのは決まっている…太陽しかいない。花梨と俺の事を誰よりも詳しく、花梨がとても信頼している相手だ。

 太陽は、俺と花梨と中学一年の頃からの付き合いで何だかんだよく3人で遊んでいた。


 それでだ、俺と花梨が揉めている時太陽はどこで何をしていた?

 いつもなら真っ先に止めに来ていたはずなのに、今回は全くの知らんぷりだ。


 よーく思い出せ。あの時の状況を鮮明に正確に、クラスメイトの大半が俺たちのことを見ていたその中で絶対に太陽だけ不自然な反応をとっていたはずだ。


 

 俺は必死に記憶を蘇らせていた。教室を見渡したあの一瞬の映像を、脳内で再生し続けた。


 ーーーー


 ーーーー


 いた!!真ん中の一番後ろの席だ!!

 クラスメイトのほとんどが俺たちに集中している中、その席で一人口を押さえながら笑いを堪えていた。


 あの野郎!!一体何が目的で、俺に花梨を差し向けてきたんだ。

 有栖川さんと俺の関係については、疑惑は晴れたはず。

 まだ花梨に何かを探らせているのか?



 「ハァハァ、おーい!ハァハァ、お待たせー!ハァハァ」


 俺が校門で待つこと30分が経過した時、息を切らせながら花梨が走ってきた。

 相当急いで来た事が、花梨の様子から見て取れる。


 「ごめんね、ハァハァ。待たせちゃったよね。ハァハァ」


 「い…いや、大丈夫。それより花梨は大丈夫なのか?」


 「私なら平気。少し休めば動けるから」


 そう言うと花梨は深呼吸をし始めた。

 そして息が整ったところで、地面に置いていた鞄を肩にかける。

 

 「よし。千種、私について来て!」


 「ど…どこに行くんだよ」


 「いいからいいから」


 俺は何も聞かされないまま、花梨の後をついて行った。

 お互いに気まずさが残っていたのだろう。道中は一言も会話が無かった。


 

 そして学校から歩く事20分、目的地に着いたみたいだ。


 「ここよ」


 な!?ここって…アニメイトじゃあーーりませんか!

 だが何故だ?花梨とアニメイトって、全く接点がないように思えるのだが…。


 「あの…ここってアニメイトだよな?花梨って、こういう場所に興味ないんじゃ…」


 「ま…まあね!全然興味はないけど、私ここでバイトしてるのよ」


 何ですとーーーー!!

 あの花梨が…。オタクと言う存在を毛嫌いし続けていたあの花梨が…。

 まさかのアニメイトでバイトとは…信じられねーー!!


 これは夢か?それとも…俺は花梨に殺されてあの世にいるとか?


 「花梨…お前まさか、俺を殺したりしてないよな?」


 「はあ?急に何言ってんのよ!」


 「あ、えーと…してないならいいんだ。うん、大丈夫」


 これは間違いない。現実だ。

 花梨のあの迫力、あれがまさしく現実である証拠。


 となると、問題は花梨が何故アニメイトで働いているかだが…。


 「なあ花梨、どうしてアニメイトでバイトをしてるんだ?」


 「そ…それは…私にも色々理由があるのよ」


 「理由って?」


 「何でそこまであんたに言わなきゃいけないのよ!!」


 「ヒーーーー!!や…やっぱりいいです!!」


 また訳も分からずブチギレられてしまった…。

 本当に女とは、よく分からない生き物だ。


 「私の事はもういいから。今日ここに来た理由は、千種へここのバイトを紹介してあげる為なんだから」


 「お…おお」


 アニメイトでバイトか…考えたこともなかったな。

 だけど冷静に考えれば、アニメイトはもう第二の家みたいなものだし意外とあってるかも。


 「じゃあ中に入るわよ。くれぐれも余計な事は言わずに、いい子にしてて」


 「はいはい、いい子にしてますよって俺は子供か!」


 「子供にしては大きすぎるでしょ」


 「確かに。ってそんなこと言ってんじゃねえよ」



 俺と花梨はそんなくだらない掛け合いをしながら、アニメイトの事務所へとやって来た。

 そこにはスキンヘッドでイカつめの人相をしている店員さんが、腕を組んで立っていた。


 「あら早乙女ちゃーん、予定通りの時間ね」


 「お疲れ様です店長」


 え?店長?このスキンヘッドの人が?


 「本当早乙女ちゃんって真面目できっちりしてるわね。それでそこにいる子がバイトを探しているって言う?」


 「はい。私と同じ高校に通ってて、家もここからそんなに遠くありません」


 「じゃあ面接ね。あなたお名前は?」


 は?このまま面接?履歴書は?それに1対1じゃないの?あと店長ってオネエ?


 「あ…ええと…一ノ瀬千種です」


 「そう、一ノ瀬君ね。じゃあうちの早乙女ちゃんとの関係性は?」


 「ん?それって…バイトの面接と関係あります?」


 「あぁ?ワシの質問にケチつける言うんかいガキが!」


 ヒイーーーー!!何この人めちゃこえーー!!


 「いえ!!すいませんでした!!花梨とは小さい頃からの幼馴染みです!!」


 「うんよろしい。後は、趣味とか聞こうかしら」


 「はい!趣味はアニメを見る事と、漫画やラノベを読む事、後はゲームをしたりフィギュアを集めたり、小説を書いたり結構たくさんあります!」


 「へぇ。一ノ瀬君はオタク君なのね」


 「そうです!陰キャでオタクです!」


 「そのオープンな感じ、気に入ったわ。採用よ」


 あれ、受かっちゃった?


 「あ…ありがとうございます!」


 「よかったね!」


 「うん!ありがとう花梨!」


 「じゃあ書類だ何だは今日書いていって、後制服もあるからそれも今日サイズ合わせときましょ。そして明日から出勤しなさい」


 「あ…明日からですか?」


 「あら、都合悪かったかしら?」


 「い…いえ!明日からよろしくお願いします!」


 こうして俺は、アニメイトでバイトをする事になった。

 これも全て、花梨が紹介してくれたおかげだ。


 そして俺と花梨は、近くのカフェでお茶をして帰る事に。

 花梨がバイトの紹介お礼と言う事で、俺に何か奢れと要求してきたのだ。


 「んー何にしようかなぁ」


 「あんまり高い物はやめてね」


 「じゃあこのロイヤルグレートエンペラーパフェ1つと」


 「!?」


 「ベルサイユアメイジングコーヒー1つで」


 「ま…じ…か」


 「お連れ様は何になさいますか?」


 「そうだよ千種、早く頼まないと店員さんに迷惑だよ」


 「すいません…僕は水で大丈夫です」


 「かしこまりました」


 「ええー。何で何も頼まないのよ」


 お前のせいだろうがよ!!

 一体俺にいくら払わせる気だ!!


 「バイトで緊張し過ぎたのかな、あんまりお腹も空いてないんだよ」


 「そうなんだ。でもどうして急にバイトを始めようと思ったの?」


 うわぁ、何て答えよう。偽彼女代なんて言えないしなぁ。


 「いやぁオタクは色々とお金が必要でさ、小遣いだけじゃ全然足りないのよ」


 「嘘。絶対何か隠してるでしょ」


 「え?いやいや、何も隠してないよ」


 「いいや、絶対隠してる!有栖川さんが関係してるんじゃないの?」


 やば!?バリバリバレてるじゃん!!

 ふぅ落ち着け、平常心だ。


 「それもあるっちゃあるな。やっぱり付き合ってると、プレゼントとかも送らないといけないし…」


 これでどうだ!リア充あるあるプレゼントの送り合い、これは真っ当な理由だろう。


 「そう…。仲良くやってるんだ」


 「もちろん仲良くやってますとも」


 「ごめん…それ以上は聞きたくない…」


 「そ…そっか」


 何だか花梨の表情が少し悲しそうに見えた。

 

 「お待たせしました、ロイヤルグレートエンペラーパフェとベルサイユアメイジングコーヒーでございます」


 「わあーー!!千種見て!とっても美味しそう!」


 「な…何じゃこれ!?デカすぎるでしょ!!」


 「これがインスタ映えなのよ!千種に言っても分からないか」


 「インスタ映えくらい俺でもわかるわ!」


 パフェとコーヒーが届いた後の花梨は、テンションがとても高かった。

 俺は少し安心して、花梨のテンションに何とかついていった。


 そして食い過ぎて気分が悪くなっていた花梨を家まで届けて、俺も自宅に戻った。


 


 ピコン!!


 ん?こんな時間に誰だ?

 こんな時間と言っても、まだ20時だった。


 俺は色々あり過ぎて疲れていたのだろう、すでに眠りにつこうとしていた。

 そして先ほど届いたラインを確認すると、太陽からグループラインの招待が届いていた。


 何々、林間学校でのウォークラリー班?何じゃそれ。




 

 


 





 

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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