第4話 給料制の導入とバイト探し
「ごめんなさい!!」
学校から家までの道中にある公園で、俺は有栖川さんに深々と頭を下げた。
理由はたった一つ、太陽から強制で参加を決定された林間学校での公開カップル宣言についてだ。
この件に関しては、有栖川さんの協力無しには絶対に乗り切る事は出来ないのでこうして本気の謝罪と誠心誠意のお願いをしている訳なのだが…。
「話しは大体分かったけど、公開カップル宣言って言うのは…ちょっと恥ずかしいかなぁ」
「そこを何とか!!5月分の偽彼女代1万円も払いますから!!」
「え?私…そんなつもりじゃ…」
「分かってる!でも、俺の気持ちと言うか…何も無しでずっと偽彼女やってもらうのも悪いし」
俺はその事をずっと考えていた。
あの時の1万円だけで、これから先いつまで続くか分からない偽彼女をずっとやってもらうのは流石に気が引ける。
だから敢えて、毎月の給料制にすればお互いにメリットが発生してこの関係がやりやすくなるのではないかと思ったのだ。
「そんな気にしなくていいのに。それに、あの時の1万円も返すつもりだよ」
「気にするよ!好きでもない男の彼女役を、無償でさせるなんて俺には出来ない。だからあの時の1万円は4月分の偽彼女代として取っといてくれ」
「でも…」
「いいんだ。それほど有栖川さんの偽彼女には価値がある!そしてこれからも俺の偽彼女として力を貸して欲しい!」
俺の言葉を聞いて、有栖川さんは下を向き少し考え込む。
そして数十秒が経過した時、有栖川さんが顔を上げ俺を見ながら口を開く。
「わ…わかった!お金を頂く分、私も全力で偽彼女を演じるね!」
「うん…ありがとう!」
こうして俺たちは、給料制を導入した偽カップルとなった。
具体的に定めたルールとしては、毎月の頭に俺が有栖川さんに1万円を支払う。1万円を支払われた有栖川さんは、俺の偽彼女として色々なことに協力してもらう。
しかしだ、この給料制を導入した事によってある問題が俺の中で発生した。
それはとてもシンプルで、尚且つ人間にとっては空気の次に必要なものだ。
それが何なのか……答えは金だ。
偽彼女代が1ヶ月に1万円。それが12ヶ月だと12万円。単純に普通の高校生からしたらエグい額だよな。
だがオタクの高校生からしたら、そのさらに上をいくぐらいエグい額なのだ。
理由は簡単だ。オタクと言うのは、普通の人間よりも金を使うことが単純に多い。例えば普通の人間だと、遊びと言ったらカラオケやボウリング、それにタピオカ?と言った少量の金でも満足出来る遊びが主流だろう。
でもオタクは違う。俺達の遊び場と言ったら画面の中のネットショッピング場だ!!推しキャラのレアフィギュア、好きなアニメのDVDBOX、更に毎月大量に出るラノベの新刊と漫画の新刊などなど金はいくらあっても足りないと言うのがオタクの現状だ。
はぁ……。どうするかなぁ。
俺の1ヶ月の小遣いじゃ賄えないし。(1ヶ月3千円)
かと言って貯金があるわけでも無い。
仕方ない、バイトでもやるか…。
俺は有栖川さんとの話し合いがうまくまとまったところで、いち早くタウンワークを取りに行った。
そして街中にあるお店のバイト募集の張り紙もくまなくチェックした。
「うーん。どれもピンとこないなぁ」
歩き疲れた俺は、自室のベッドの上でタウンワークを見つめながらボソッと呟く。
「もういいや。一旦寝て、明日考えよう」
その日は夜8時に眠りについた。
そして次の日、俺は自分の席でバイト関連のチラシやサイトを必死に見あさっていた。
「うーん。これはイマイチだし、こっちは時給が安いし、こんなのは俺には合わなさそうだし…」
俺がボソボソ一人で呟いていると、誰かが俺の目の前にやってきた。
「ねえ、バイト探してるの?」
ん?この声は…。
俺はそっと顔を上げる。
!?
やっぱり…。
そこには数日前、何故か俺にブチギレてその日から一度も目が合わず明らかに避けられ気まずい関係になっていた幼馴染みの花梨が立っていた。
「ま…まあな。でも、なかなか良いのが見つからなくて」
「そ…そんな事だろうと思ったわ。千種にバイトなんて向かないのよ」
「何だと!そんな事をわざわざ言いにきたのかよ!あの日も勝手にブチ切れて帰るし、俺の事が気に食わないならそう言えよ!」
朝の教室に響き渡る俺の怒鳴り声、教室にはほぼ全員のクラスメイトがいた。
先ほどまで賑やかだった教室が、一瞬にして静まり返る。
クラスメイト全員の視線が俺と花梨に集中し、俺は恥ずかしくなって顔を伏せる。
ヤベーーーー!!俺とした事が何でムキになってんだよーー!!
それも女子に向かって怒鳴るとか、俺のクラスでの印象がこの一瞬にして陰キャオタク野郎から変人キモオタいかれ野郎に進化したと思うんだけど!!
どうするどうするどうする。このまま顔を伏せておくか、それとも花梨とみんなにしっかりと謝罪をするか。
いやいやいや、今更謝罪なんかしたところでもう手遅れでしょ。それならいっそこのままの状態でやり過ごした方がこれ以上傷を増やさずに済む…はず…。
「ごめんねみんな!大きな声がしてびっくりしたよね。でも大丈夫だから、私がちょっと揶揄い過ぎちゃって一ノ瀬くんが拗ねちゃっただけだから。毎回のことだから心配しないでね」
花梨…どうして。
どうして俺を庇うんだよ。俺は花梨の事を怒鳴ったんだぞ。
「千種…ごめんね。みんなにはまた私から説明しておくから。それと放課後、校門で待ってて。私のバイト先紹介してあげる」
花梨がそう小さな声で俺に囁いた。そしてしばらくすると、クラスメイトはさっきまでの賑やかさを取り戻した。
俺は朝のホームルームで先生から注意を受けるまでは、顔を伏せたままでいた。
そんなこんなで放課後になってしまった。
やっぱりクラスメイトの大半は俺の事を軽蔑の眼差しで見てきたが、これも自業自得と言うやつだろう。
それよりも花梨だ。何故俺なんかに、バイト先を紹介してくれるなんて言ってきたんだ?
何か裏があるのか、はたまたたくさんの陽キャを引き連れて俺をボコボコにするつもりなのか。
俺は最大限に引き上げられた不安感と花梨に対してのとてつもなく大きな罪悪感を抱えながら、校門でソワソワしながら花梨を待っていた。
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