いくら100回目だからって世界から追い出します? まあいいんですけど
のんびり書いていこうと思います。ブックマークや感想など、読んでくれている読者が一人でも確認できたら本格的に頑張ります。
「はぁ、またあなたですか?」
「あ、どうも。ご無沙汰してます」
薄く神秘的な光に包まれた方向感覚が無くなってしまいそうな、この部屋は無限に続いているのではないかと思うような場所で僕はかつての知り合いに出会っていた。
「これで何度目ですか、あなたは。私の加護がついているとはいえ確率的に有り得ませんよこんなことは」
「でも、実際にまた来てしまったので……、なんかすいません、はい」
僕の正面に座る、何色と形容するのは難しいがただ美しいと思える長髪を肩から流している絶世の美女ははぁ、とため息をつく。
「確かにあなたに責任はありませんね。すいません、取り乱しました」
「いえいえ、そんな。何度もお世話になってるのは僕の方ですし」
普通の人なら「ここはどこなんだ!」とか「お前は誰だ!」とか慌てるような場面かもしれないが僕が慌てるような事は一切ない。
なぜならそれらの疑問は全て理解しているから。
ここは天界。目の前の美女は神様。僕は死んだ。OK全て理解出来てる。
「それでなんでまた僕はここに?」
「あなたの運が女神である私を驚かせるほどに強いからでしょう。ここに来てこれほどまでに淡泊な会話をできる人なんてあなたぐらいしかいませんよ。まったく」
なぜ僕が今のこの状況を冷静に理解出来ているかと言うとここに来るのは僕は初めてではないからだ。というか、定期的に来ている。
「本来ここはどんな魂でも一度しか来れない場所なんですからね、それにここに来ることは別に幸せなことでもありませんから」
「そうですかね、人生をやり直せる機会があるなんて僕からしたら幸運以外の何物でもないですけど」
僕は一度目の人生の時三歳で親に捨てられ、五歳で育ててもらっていた孤児院が潰れ路頭に迷い、それから十数年道端の雑草やゴミを漁って生き延び、挙句の果てには通り魔に刺されて死ぬというあまりにも残念な人生だった。
それを見かねた神様がもう一度人生をやり直す機会をくれたのだ。その時にもう二度とこんな悲しい人生を送らないようにと神様の加護も付けてくれた。
そのおかげか二度目の人生は裕福家庭に生まれて順風満帆な人生をすごしたはずなのだがどういう訳かまたこの転生の場へと僕の魂はやってきてしまったのだ。
「そもそも転生者が出るなんてこと自体が稀なのよ? あなたそのことはわかってる?」
「は、はい。それはなんとなく?」
「それならもっと楽しく楽に人生過ごしなさいよ……」
どこか疲れた様子の女神様。はて? 楽しく人生をこれまでも過ごしてきたと思うのだが。
「あなたの楽しいは私から見たら全然楽しそうに見えないのよ! 毎回毎回の人生でなにかに没頭して極めようとして体調崩して挙句の果てに死んで。もう少し学びなさいよ」
「これ以上ないぐらいに僕は人生に満足していたのですが」
「私から見て不幸だった人が自動で選ばれて転生者として魂が引っ張られるんだものね。もはや強運とかそういうのじゃないわね」
一度目の人生で勉強や娯楽など他の人が味わってきた楽しみを味わえなかった僕は二度目以降の人生で全力で取り組んできた。そのために目標を見据えるのだが、当然一番になった方がかっこいいので一位を目指すのは当然だろう。
「ま、その結果毎回死んじゃってるのは事実なんですけどね、あはは」
「あはは、じゃないわよ。これであなた100回目の転生よ? こんなこと前代未聞よ」
そう、なぜこの麗しい女神様をここまで困らせているのかというと僕の転生の回数に原因がある。
普通の人ならあっても一回、転生することなく魂が天に還ることの方が多いそうなのだ。
しかし、女神様的にあまりに不幸な人生を歩み続けている僕はなかなか天に還れないでいるのだ。
僕としては生まれ変わる度に医者、サッカー選手、総理大臣、マジシャン、大統領、野球選手、大工、音楽家などなど色々なものに挑戦しているが未だにどれひとつ世界一になっていないのでリベンジの意味でありがたいのだが。
「それでもさすがに100回の転生はやりすぎよ。これ以上は流石に神様にお小言を貰ってしまいます」
「神様って、女神様は神様じゃないんですか?」
「あなたたち人間から見たら女神も神も付喪神や邪神まで全部『神様』って括りなのかもしれないけど、神の世界にも色々あるのよ」
へぇー、それは知らなかった。100回目の死亡で初めて知った事実だ。地球の会社員みたいに地位や肩書きみたいなのがあるのだろうか。
神様に怒られるやら、怒ると怖いやらぶつぶつと困り顔で頭を悩ませている女神様をぼーっと見ているとパッと花が咲いたように顔を上げて声を発した。
「そうです! あなたを異世界に転生させましょう!」
「は? 異世界?」
異世界とは何を言っているのだろうか。俺が住んでいた地球以外の星? それともそんな概念すら超えた遠く離れた地のことを言っているのだろうか?
「あなたも何度目か忘れましたが漫画家を目指していた時によく目にしていましたよね? 人間で言うところの異世界転生です」
「異世界転生……そんなことが本当にできるんですか?」
確かに僕は女神様と同じく何回目かは覚えていないが漫画家を目指していた時に文字通り死ぬほど漫画や小説に目を通した。その時の記憶は残っているので特に疑問はないが、実際に自分がすると思うと分からないことはあるもので。
「僕が異世界転生することでこの転生ループの解決になるんですか?」
「管轄が違うのよ。世界が違えば当然その世界の神も違ってくるのよ」
なるほど、なんとなくだが理解出来た。このまま僕をもう一度地球に転生させてしまったらもう一度僕が死んで転生するような事があれば今度こそこの女神様は上司の神様に怒られてしまうわけで……つまり、
「他の世界に僕という面倒を押し付けようと?」
「ギクッ」
「ギクッ」って行ったよ、「ギクッ」って。どうやら図星だったらしいが、女神様は誤魔化すように目をつぶって何かを話し始めた。頬を伝う汗がなんとも虚しい。というか、神様も汗ってかくんだな。
どこかの誰かとの会話を終えた女神様は再び僕の前に向き直ると、さっきまでの感情豊かな姿から一変、神秘的なオーラを纏っていた。
「先程、神様からの許可をいただき、あなたを異世界に転生させることが決定しました。」
「そんなに直ぐに異世界へ送れるものなんですか?」
「送り先の神が既に道を開けてくれてありますので」
そう言うと、女神様は僕に手をかざした。すると何だかぽわぽわと暖かな何かが僕の中を流れているのが感じられた。
「今からあなたを異世界に送りますが、最後に一つだけ」
女神様は神秘的なオーラを纏ったまま、しかし、表情はよく僕に見せてくれていた柔らかな笑みを浮かべていた。
「あなたは今からこの世界の住人ではなくなるのでもしあちらの世界で死んでしまっても、もう私と会うことは無いでしょう。」
そうか、女神様が言っていた管轄が違うというのはそういう事なのか。じゃあ、この女神様と会えるのはこれが最後というわけか。そう考えると今まで何度も転生してもらった感謝がふつふつと湧き上がってくる。
「あなたは何度も転生出来てありがたいと言っていましが、やはり私としてはあなたにはもっと幸せに生きて欲しかったです。」
「確かに大変なことも多かったですが僕は幸せでしたよ」
「そう、ですか?」
「はい、こうして女神様と話が出来て何度もやり直すチャンスをくださったんですから。感謝しかありません」
「そう、ですか」
僕が感謝の意を伝えると少し泣きそうになる。それでも優しい笑みを絶やすことは無いが。
そんな女神様を見ていると今までの自分の生き方を大変だ、不幸せだと言っていた女神様の気持ちがわかるような気がしてくる。
「僕も女神様のおかげで何度も人生をやり直させてもらいましたが、確かに少し疲れたかもしれません」
「ふふ、ようやくあなたも自分の疲れと向き合うことが出来ましたか?」
「はい、ですから次の人生ではあまり無理せず女神様の言っていたように、楽に生きてみようと思います」
「それがいいと思います。あなたは少し頑張りすぎましたから」
女神様と話していると体の中を駆け巡っていた暖かな何かが体の外へ、具体的に言うと女神様の手へと向かっているのを感じる。
「それでは時間です。最後に私から本物の加護を与えます。次の世界での効力は薄いかもしれませんが……」
「いえ、ありがとうございます」
どんどんと女神様の手へと魂が引っ張られていくような感覚を感じると共に直感的にもう転生するというのがわかった。最後の言葉は特に考えることなくスっと口から出ていた。
「今までお世話になりました」
「ほんとですよ、もう……」
薄れていく意識の中、女神様が最後に言った言葉だけは明確に聞き取れたような気がした。
「あなたの人生に幸福を」