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「退けと言っている」


 ドオォォォォッ!


 中庭を衝撃の風が走った。

 草花がその風に吹き飛ばされて、サリーナたちの元にも吹き荒れた。

 サリーナは、目を細めながらもその中心で起こっている事を見ようとした。しかし、ランスの剣の光がガイナードの剣と衝突した際に生じた衝撃と共にその光も拡散した為、目が眩み上手くその姿を捉える事ができなかった。


「くあぁ!」


 サリーナは、そのはっきりしない視界の中でランスの声を聞いた。

 ランスは、攻撃を防がれた後、ガイナードの蹴りによって吹き飛ばされて中庭の東側の壁に叩き付けられた。それはただの蹴りでは無く、蹴った瞬間に爆発的な衝撃がランスに加わっていた。反衝の鎧(マギスドゥーヌ)と言うガイナードの鎧の力による物だった。

 ガイナードの纏うその鎧も、ランスとの力の衝突の中で無事では無かった。打ち合った剣を持っていた右腕は、ランスの剣の光の刃に切り裂かれて吹き飛び、残った左腕も損傷していた。ランスを蹴り飛ばした衝撃で、掴んでいた大剣ごとガシャリと落ちた。


「ランス!」


 視界が戻ったサリーナは、壁に背をつけて座り、ぐったりとしているランスを見つけた。すぐさまサリーナは、ランスの元に走っていた。

 ランスは、サリーナの声に意識を取り戻した。僅かに顔を上げて、涙を浮かべるサリーナが駆け寄ってくるのを見て、手のひらを前に出した。


「だめだ…来ちゃ…だめだ…」


 呼吸がうまくできずに言葉になら無かった。


 君まで殺されてしまう。


 ランスは、ガイナードにまだ余力があるのだと感じていた。両腕を失いながらも、ガイナードに感じる脅威は、衰えてはいなかった。その上、その後ろにはグナークが居る。彼がどう動くかが予測できない。

 だが、サリーナは、止まる事なくランスに駆け寄るとその体を投げ出す様に、ランスの前に両手を広げた。そして、涙に濡れる目でガイナードを睨みつけた。


「ランスは、殺させない!」


 一歩、二歩と、ガイナードが二人の元に近づこうとした。


「くそぉ!!」


 声を上げたのはセードルフだった。

 彼は、盾を構えガイナードに向かって走っていた。


「インナーク!」


 セードルフが声を掛けると、インナークが矢を放った。

 いつの間にかガイナードの死角に回り込んでいたインナークが立て続けに三本の矢を放った。連続動作でありながら、正確な狙いでガイナードを捉えた矢は、その兜を襲った。彼が普通の人間であれば、その攻撃は傷を負わせられなくても効果を生んだだろう。が、ガイナードはそうでは無かった。何も怯む事なく、矢の攻撃を無かったかの様に、向かってくるセードルフを見ていた。下から突き上げようとするセードルフの剣を躱すと、左拳でセードルフの右頬を殴って吹き飛ばした。


「ぐぁ!」


 予測していなかった攻撃にセードルフは、対処などできずに花壇の中に転がった。

 崩れ落ちたはずの左腕は、ガイナードの左肩に戻っていたのだ。ガイナードの魔素が、引き寄せて戻したのだが、魔素によって繋ぎ止めているだけであり、不安定な様だった。


「どぉせぇい!!」


 左手を確かめているガイナードを大きな槌が襲いかかった。

 セードルフとインナークの攻撃の間に近付いていたジングがその大槌を振り上げていた。

 

 ドゴォォン!


 と、鉄の塊がガイナードの鎧を殴る音が響いた。

 ジングの大槌は、ガイナードの延髄辺りを捉えていた。どんなに鎧で固めていようが、突然の激しい衝撃がそこを襲えばひとたまりも無い。

 ガイナードもその衝撃に膝をついた。その兜がゴロリと落ちるのをジングは見た。


 取った!


 ジングは、その手応えに口元を緩めた。だが、それは甘かった。


「ジング!」


 ガイナードが動くのを見ていたサリーナがジングに障壁を張ろうと魔法の構築をしようとした瞬間には、ガイナードの左手がジングの顔面を掴んでいた。


「ぐっ!何!」


 兜が吹き飛ぶ程の絶命してもおかしくない衝撃を当てた相手が、気絶すらせずに動いた事が信じられなかった。ジングは、驚愕して動けなかった。


「吹き飛べっ」


 膝をつかされた事に苛立ちながら、ガイナードは、そう言い放った。

 その左手のジングを掴んだ掌から、ガイナードがジングから受けた衝撃が弾けた。


「ぐあぁぁ!!」


 ジングの大槌から放たれた衝撃が、掌の大きさに凝縮されてジングの顔面を襲った。

 その余りの威力に、ジングの頭骨は砕けた。顔が原型をとどめぬ程ひしゃげたジングは、その衝撃で吹き飛ばされて、花壇に落とされた。

 ジングの死を悟ったサリーナは、自分が間に合わなかった事を責めて泣いた。


「ガイナード」


 また一歩サリーナたちに近付いたガイナードに声を掛けたのはグナークだった。


「退け」


「何を仰る。王よ、この男の力は私の体を砕いた。放って置くわけにはいきません。我らの道に僅かな小石も許されません」


「退けと言っている」


 グナークは、再び静かに言った。

 だが、ガイナードの足はまた一歩進んだ。その右腕も砕かれた破片が集まり歪に腕の様になっていた。その腕に取り込まれる様に魔素喰いの剣(グドゥールガフ)があった。

 ガイナードは、グナークに従わずに更に一歩進んだ、その足が花壇の花を踏みにじった。


「ガイナードォォ!!」


 サリーナは、見た。

 グナークの魔素が膨れ上がるのを。膨れ上がった力が風を起こして、グナークの纏うローブをはためかせるのを。

 そのグナークから溢れ出る魔素は、禍々しくそして斑に蠢いている様だった。心の奥底を長く鋭い爪で深くゆっくりと傷つけられる様な不快感と痛みが恐怖と混ざり合い吐き気をもよおさせた。発汗と寒気が襲い、サリーナはブルブルと震えた。

 それでもサリーナは、グナークを見ていた。父親が何になったしまったのかをその目で見ようとしていた。

 はためくグナークのローブの下には、細身の鎧があった。サリーナの記憶よりもかなり痩せ細った体に纏った鎧。だが、彼女の目を捉えたのは、それよりも鎧の無い露出した場所だった。両腕と両足と胸に鎧で覆われていない場所があった。そこには、鈍く光を放つ魔石があった。その異様な光景にサリーナは、目を逸らしそうになった。拳よりも一回り大きいその五つの魔石は、グナークの体から生えているかの様に皮膚に埋め込まれていた。

 その魔石がグナークの意思に呼応するかの様に光を増した。

 

闇の雷(グルグラーディル)


 グナークの指先がガイナードを示すと、ガイナードの鎧を幾つもの走る閃光が駆け巡った。それは数を増して次の瞬間スパークした。

 

「王よ…なぜ…」


 ガイナードは、その鎧から煙を上げて砕け散った。


「愚か者」


 グナークがそう言うと、ガイナードの鎧の破片が集まり、塊となって、グナークの元へと飛んでいった。

 グナークは、鎧だった塊と魔素喰いの剣(グドゥールガフ)を手に掴むと、その体を浮き上がらせた。


「まって!」


 サリーナがグナークに手を伸ばすが見る事もなく、グナークは、その高度を上げて飛び去って行った。


「お父様…」


 サリーナは、その飛び去った方向をしばらく見ていた。が、圧迫される程の緊張感から解放された事で、その意識が暗く途切れた。

 

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