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「分かっちゃいました」


「お前ら、何もんだ!」


 そう言いながらタイナの目の前に現れたのは、短髪の目のグリッとした少年だった。

 その少年が姿を現すのと同時に、後ろを歩くサリーナたちの両側から、弓とナイフを手にした少年と少女が姿を見せた。

 

「お前らこそ、何もんだよ」


 タイナが不愉快そうに目の前の少年を睨みつけた。相手が自分よりも幾つか年下だと推測し強気になっていた。

 そのタイナの鼻先に、少年の抜き放った短剣が突きつけられて、タイナは情けない顔をして、後ずさった。

 その姿を近くで見ていたネッテは、小さく息を吐くと、少年の前に進み出た。


「あたしたちは、シーロ村から来たの。この先の村に用があるから通してもらえる?」


 ネッテは、少年の目をじっと見て言った。


「この先に村なんて無い。帰れ」


 少年は、剣を鞘に収めながらもネッテから目を逸らさずに言った。


「無理矢理にでも通して貰うわよ」


 ユイは、少年たちを苛立って睨みつけた。


「だめだ!」


 右手側の少女が弓を構え、左手側の少年がナイフを構えて、サリーナに向けた。

 サリーナは、落ち着いた様子でそれぞれを一度見た。


「こんな事をしてはいけないわ。私たちを通してください」


 両側の二人は、緊張した表情でサリーナとランスを見ていた。少しは怯むと思っていた一行が全く動じていない事に戸惑っていた。


「だめだ」


 正面の少年は頑なにそう言うと、弓を構えた少女に目配せをした。

 少女は、一瞬、えっと言う顔をしたが、口をつぐむと鼻で鋭く息を吸った。そして引き絞った弓を放った。

 その瞬間、少女はしまったと青ざめた。

 威嚇するつもりの矢が、緊張で手が揺れてしまった為狙いとは違う向きに放ってしまった。

 シュっと空を切り裂いた矢は、サリーナの顔を目掛けて鋭く走った。

 当たる、と思った瞬間、少女は思わず目を逸らした。自分が放った矢が、敵意を見せたわけでは無い相手を傷つける事に恐怖を感じた。

 だが、そうはならなかった。

 少女の放った矢は、サリーナの目の前でランスの剣で叩き落とされた。

 サリーナは、自分に矢が射られた事に気が付いて驚いた。が、それをランスが阻止してくれた事にホッとした。


「フン」


 それを見ていた前の少年は、鼻を鳴らしたが、内心驚いていた。ランスが矢を切り落とした事で、金髪の青年の実力を垣間見て焦っていた。

 矢を放った少女は、相手を傷つけなかった事に安堵の息を漏らした。だが、放った矢が敵意を向けた事になる事実に戦いた。

 少女は、弓を下に向けて攻撃の意思がない事を示し、矢を向けてしまった相手を見た。淡い栗色の髪の少女は、驚いた様子ではあったが、彼女の視線に微かに笑って見せた。そして、矢を切り落とした金髪の青年は何事も無かったかの様な表情で、事の流れを見ていた。


「きゃあぁぁぁ!!」


 森を切り裂く様な声が聞こえたのは、その時だった。

 その瞬間に、少年たちの表情がざわついた。

 タイナたちもそのただならぬ声に辺りを見回した。

 タイナの前に居る少年は、その場を動くか留まるべきか答えが出さずに足元がグラグラとしていた。ナイフを持った少年は、既にナイフをしまいリーダー格である少年に視線を送って、動く事を期待していた。三人には、悲鳴を上げたのが誰であるのか予想が付いていた。特に、ナイフを持った少年は、気が気では無い雰囲気だった。


「っくそ!」


 リーダーの少年は、そう吐き捨てると、後ろ向きに後退りタイナたちを警戒しながら距離を取ると、走り出して悲鳴の聞こえた方へと走り出した。両側に居た二人も、それを見て続いて走っていった。

 ネッテは、短く息を吐くと、タイナの肩をぽんと叩いた。


「ビビってたでしょ」


「な、な訳ないだろ、どう見ても年下だったし」


「でも、彼の抜剣の速度は早かったし、ブレも少なかった。年の割には、かなり鍛えている様だったよ。弓の子も迷いは有ったが、矢は鋭く走っていた」


 と、ランスは、思い出して感心した。


「あんたね、サリーナを矢で狙われたのよ」


「あれは威嚇のつもりだった様だよ。殺気は感じなかった。震えて手元が狂ったんだろう」


「だからって、危なかったわよ」


 ユイは、自分がサリーナの身を案じている事に気が付いていなかったが、ランスはそんなユイにクスリと笑った。


「何かあったのかしら、女の子の悲鳴も聞こえたし、気になるわ」


 二人のやり取りなどお構いなく、サリーナは、少年たちの事を気にしていた。

 こんな森の中で、子どもたちだけでいるのには訳があるのかも知れない。向かっている村の関係者にも思えたが、何処か人を寄せ付けたがらない雰囲気をサリーナは感じていた。


「だったら、追えば良いんじゃない」


 ユイは、どうせそうするのでしょうと言う目で、サリーナとランスを見た。

 案の定、二人はユイの言葉に頷いて走り出していた。


「え、でも、村はあっち」


 少年たちが向かった方と村の方向はずれていた。だから、ネッテは、サリーナたちの行動に反対しようとした。自分たちを追い返そうとした様な少年たちに関わるのはごめんだと、ネッテは思った。


「行くぞ」


 そう言って、二人を追って走り出したタイナの背中に、ネッテはどうしようかと戸惑った。


「あの二人があの性格だから、あの日タイナと一緒にあんたを迎えに行ったんだよ。あたしは行かなかったけどね」


「何か、分かっちゃいました。もぅ、しょうがないですね」


 ネッテは、そう言ってユイに笑って見せると、一緒に駆け出した。

 



 リーダー格の少年、サントは、悲鳴のした方向に駆けながら、状況を把握しようと辺りを見回した。弓を持った少女、シエラともう一人の少年ウグナも、すぐ側に来ていた。


「どうして見ていなかったんだ」


 サントは、不安な顔のウグナを責めた。


「すぐ近くに居ると思ってたんだ」


「急に走り出したのは、サントでしょ」


 そう言って、ウグナを庇うシエラは、肩までの濃い金髪を布で巻いていて、布から出た髪が風に遊んで居る。鼻筋が通って高さがある顔立ちは、レーナルス大陸の特徴だった。一方、サントは、黒髪で丸鼻で低く、ヴァンナット人に見られる特徴である。目に涙を溜めているウグナは、その中間の様に見える。


「だってよ!手柄になると思ったんだよ」


 サントは、不貞腐れた様に口を尖らせた。


「いやぁぁぁ!こっち来ないで!」


 何かに向かって声を上げている女の子の声が近付いてきた。

 同時に、獣の匂いも辺りに感じた。


(ラルド)の群れだ」


 サントは、その匂いに嗅ぎ覚えがあった。以前、狩を教えてくれた師が、近付いてはならない匂いとして教えてくれた匂いだった。


「まずいな」


 サントは、口の中で言った。ウグナには、聞かせたくなかった。

 

「居た!」


 目の良いシエラが、真っ先にその姿を見つけた。

 森の中でも太い木の前に背中を付けて立ち、棒切れを振り回して居る女の子がそこに居た。


「メン…」


 その女の子の名前を呼ぼうとしたシエラは、サントに制された。


「まて」


「でも、メンナが…」


「リーダーがどこかに居て、俺たちの事に気付いて居るはずだ。慎重に行こう」


「怖気付いてるの?メンナが危ないのよ」


「誰がっ」


 言葉は虚勢を張るサントだったが、子ども三人では対処しきれない事は明白だと判断していた。だから、これ以上動く事ができなかった。


「いやっ!いやっ!」


 棒切れを振り回すメンナを追い詰める三頭の(ラルド)は、交互に棒切れを躱しながら、メンナの服を引っ張ったり、靴先を噛んだりして、彼女の体力と気力を奪っていた。


「このままじゃ…」


 妹が心配で泣いているウグナを見かねて、シエラは、木の影から体を出そうとした。

 サントは、確かにこのまま見ていても、メンナがやられるだけなのは分かっていたし、それは何としても阻止したかった。


「わたし、行くわ」


 そう言って、シエラは、矢を番えて飛び出した。そして、狙いを定めて、メンナから離れた瞬間の(ラルド)に狙いを定めた。

 その瞬間に、三人を警戒して潜んでいた一頭が、シエラに向かって飛びかかってきた。

 だが、シエラは、狙いを定める事に集中していて気が付いていなかった。


「くそぉ!」


 サントは、飛び出すと、剣を抜き放ってシエラに向かってくる(ラルド)に剣を突き立てた。

 サントの剣先は、(ラルド)の左から前脚の付け根を切り裂いた。

 ギャンと悲鳴を上げて、襲いかかった(ラルド)は、横に飛び、苦しそうに地面でもがいた。

 その間にシエラの放った矢は、メンナを襲って居る(ラルド)を捉え、一矢で絶命させた。


「よし!」


 シエラは、次の矢を番えようとした。

 

「ぐあ!」


 すぐ側で、サントのうめきが聞こえて、シエラはそちらを見た。

 先程シエラに襲い掛かろうとしたのとは別の一頭が、サントに覆い被さる様に襲いかかっていた。

 その牙の勢いに、サントの頬に傷が刻まれていた。


「サント!」


 シエラは、悲鳴を上げた。


「うあぁぁぁ!!」


 サントは、腹から声を出して剣を振り上げた。その剣が、のしかかってきた(ラルド)の脇腹から切り裂いた。

 その返り血を浴びながら、サントは何とか立ち上がって、二人を庇う様に立った。

 その三人を囲う様に四頭の(ラルド)が間合いを図る様に近付いて来た。


「もうだめだぁ」


 ウグナは、涙と鼻水を流しながら恐怖に絶望した。


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