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わたし!勇者なんてできません! 〜メルリルーク王女は、魔王を討伐なさりたい!〜  作者: 無月雨景
メルリルーク王女は、北の国を目指して進む!
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「お許しを・・・」


 メッサリア王城襲撃は、シルバが大地門前で賊を撃退した事で終わりを見たかに思えた。だが、その裏で、重大な事件が起きていた。


 ロイドと別れたカイルが王の執務室前に到着した際、その扉の前には、全身鎧を纏う屈強な騎士たちが五人その扉を固める様に立っていた。カイルは、その光景に自分の必要性を疑ったが、一応騎士に加勢に来た事を告げ、その傍に待機していた。執務室内にも、三人の騎士が護衛に控えていると聞き、カイルはこの場の事よりもロイドの向かった先の事を考えていた。彼が迎え撃つ敵の事よりも、ロイドの行動指針となったとカイルが邪推する少女との事がカイルの興味だった。

 貴族然としない素朴な雰囲気を持ちながら、高度な教育を受けている様な理知的な表情を見せる少女。隙だらけに見えて、深淵を思わせる瞳。カイルが交流してきた女性の中には居なかったタイプの女性である事は確かだった。だが、カイルの本能は、彼女への深入りを拒否していた。それをカイル本人も驚いていた。まだ子どもだとは思うが、見た目も性格も好感を持てるというのに、言葉を交わしに行こうとは思わないのだ。先程まで時間をともにしていたレリアという、彼女と同じナッサヘルクの侍女から聞いた印象では、少女然とした普通の女の子なのだ。そんな彼女をカイルは避け、ロイドは興味を持った。


 彼女に何かあるのだろうか?


 疑問を感じていると、王城の下から響く振動が足に伝わり、カイルはその思考をやめた。


 賊が侵入した王城での戦闘によるものか…?


 カイルも噂で聞いた事がある。この大陸で扱われている力がある事を。

 だが、それが具体的にどういう類いのものかは彼は知らなかった。伝え聞いた事は、あまりにも荒唐無稽で信じられないものだった。

 執務室の中が騒がしくなったのは、その直後だった。

 何かが弾ける音が数回、扉によって少しこもって聞こえてきた。

 扉の向こうで何かを叫ぶ若い男の声が幾つか聞こえてきた。その声が王に呼びかけ、混乱しているのが分かると、扉前も騒然となった。内から鍵を掛けられている為、表の騎士たちは、中の仲間に叫び状況を確認しようとするが、内部は混乱を極め、その声も届いていない様だった。

 騎士の一人が、すぐさま決意し、その扉を破る事を提案し、賛同した二人が彼とともに槍を構えて、突進しその扉を破った。

 扉を破壊して室内に踏み込んだ騎士たちとカイルが見たのは、椅子に座ったまま、頭から血を流し絶命しているメッサ王と大臣のヤカメの姿だった。ヤカメは、騎士の一人に寄り掛かる様に倒れていた。その後ろにいる騎士は、兜を被っていないその顔を真っ赤に染めていた。彼もまた頭部に傷を負っていたが、顔を染める血のほとんどはヤカメのものだった。


「何が起きた!!」


 扉を破壊する事を提案したリーダー格の騎士が悲鳴の様に叫んだ。


「ヤカメ様が…王を…」


 腰を抜かして壁に寄りかかって座り込んでいる若い騎士が震える声でそう言った。

 

「ヤカメ殿が?…馬鹿な…」


 忠臣として知られるヤカメが王を殺害するなど考えられなかった。しかし、現実に執務室内に居た騎士たちは、それを目の当たりにしていた。それは動かない事実だった。それでも尚、リーダーがそれを信じ切れない程、ヤカメと言う人間がいい意味でも悪い意味でも慎重で、何より若き頃から王を側で支え、尽くしてきたのを知っていた。


「ヤカメ様は…時がどうとか、贄がどうとか、うわごとの様に突然ぶつぶつと呟きだしたのです…」


 王の傍でせめてもの応急処置を施そうとしていた騎士は、目にした事実をやはり信じきれずに、それでも冷静な目で見ていた。

 事は、突然に起こったと言う。

 大臣のヤカメは、何かに怯える様に震え出すと、うわごとの様に「…時が来てしまった…神の為の…贄が…混沌を…贄を…」と呟くと、懐から筒状の何かを取り出すと、その先を王に向け、ヤカメは涙を流した。そして、乾いた破裂音がしたかと思うと、王は口から血を流した。


「…ヤカ…メ…なに…を…」


「王!王!どうなされましたか!王!」


 騎士たちは何が起こったのか分からなかった。一人は王の容体を確かめる為にそばに行き、一人はヤカメを押さえるべきか戸惑い、一人は何者かの襲撃だと辺りを探った。

 その中、ヤカメは、「違うのです…違うのです…」と、首を振りながら、筒を弄った後、再びそれを王に向けた。

 再び、乾いた破裂音が鳴り、今度は王の額に穴が空き、血が吹き出した。

 そこでようやく、王に危害を加えたのが、ヤカメでありその手に持つ筒である事を理解した騎士がヤカメを羽交い締めにした。


「お許しを…」


 ヤカメはそう泣きながら、今度は筒を自分の口に咥えると、三度目の破裂音が響いた。

 その直後、カイルたちが飛び込んできたのだ。

 この不可解な事件により、メッサは王、シッコウ・ラナ・メッサを失った。


 



 王の死は、瞬く間に王国に広がった。

 詳細は明かされなかったが、城への襲撃事件はあまりにも衝撃的で王の死と切り離して考えるなど出来ず、賊による暗殺と言うセンセーショナルな事件として人の耳を渡っていった。犯人に関する情報は、多岐に渡り様々な憶測によって多くの名前が飛び交った。その中には、隣の大陸の王子や他国の王族を犯人と予測したり、早期の王位継承を望んだシルバだと主張する者までも現れた。

 穏やかで臣民思いの王の死は、政治的な侵略を想像させ、人々の情勢に対する不安を煽る事となった。一方で、他国に対して強気に交易を行いたい一部の豪商たちは、他国の顔色を伺う様な弱気な今の外交が、シルバが王になる事で変わるのを期待する者もいた。しかし、ほとんどの国民は、王の死に心を痛め泣いた。


 王の葬儀は、王の死から三日後に行われた。

 メッサリア城の東棟の鐘楼の鐘が、夜明けと同時に鳴らし続けられた。

 メッサリアの町を王の棺を乗せた馬車が一日掛けてゆっくりと進み、人々への最後の挨拶を済ませると、代々の王の眠る王都東のメッサロックナード神殿に埋葬される事となる。

 王の死を知ると、王妃を始め王の肉親の悲しみは深く、皆泣き取り乱した。シルバは、戦いの疲弊から目覚めるまでに半日を要したが、訃報を知ると声を押し殺して泣いた。

 第一王女のシーナリネは、父王の死と夫のガルナスの死を同時に知り、悲しみのあまりに失神した。

 第二王子のローレックは、第二王女のリーシアを連れ戻す事ができたが、自分が不在時の王が殺害された事実に無念をあらわにして、声を上げて泣いた。

 リーシアの悲しみは、更に深かった。自分の起こした行動が引き金となったのだと自分を責め、その死に責任を感じて自ら命を絶とうとまで思い詰めたが、王妃と姉に強く諭され思いとどまった。父王の死とハーマクの死を自分の罪として魂に刻んで生きる事を自らに誓った。

 ジナークたちとの戦いで、重傷を負ったラナックは、奇跡的にメルリの治癒魔法が間に合い、紙一重で命を拾った。が、三日経った未だに目を覚まさず、メルリとエルラーナが昨晩まで付き添い看病していた。今朝から二人は、葬礼に参列する為にサナエと交代している。サナエは、ラナックの側に付き添い、少しずつ治癒を続けていた。

 

 結局、ジナークたちの目的は地下に眠る何かとメルリたち魔素に恵まれた者である事は明確だったが、ヤカメとの繋がりは全く見つからず、彼が何故、王を殺害しなければならなかったのかは、謎のままだった。それと同じ様に、王宮内部に何人もの賊が入り込み、兵たちの足を鈍らせたのだが、それが何者であるのかも分かっていなかった。ジナークたちの一派と考えるのが妥当に思えたが、その行動指針が同じには思えなかった。あれだけ派手に攻めて来たジナークたちに対して、分散して各所を狙う戦術はチグハグなのだ。

 ローレックは、リーシアを襲った者たちを直に見たわけでは無いが、彼女を助けて保護してくれていたナッサヘルクの騎士たちの報告と、王宮内に侵入した者の遺体とに似た特徴がある事に気が付いた。それぞれ、拷問でできたと思われる傷が体全体に広がっていて、個人を判別する事が難しいのだ。その上彼らは、全員が兵士に倒され死んだり、劣勢を悟ると自死した。その為、何も情報を引き出すことができていなかった。

 その上、王を殺害する為にヤカメが使った物が、この大陸には無い武器である事が、カイルとロイドの証言から分かった。しかも、二人の出身の大陸でもごく最近開発され、手に入りにくい物であることも。

 うわごとの様に何かを訴えていたヤカメが自らの意思なのか操られていたのかも分からない。


 誰もが、悲しみを抱えながら、湧き上がる感情の行き先を見つけられずにただ沈鬱と自分の歩く足先を見るしか無かった。



 





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