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わたし!勇者なんてできません! 〜メルリルーク王女は、魔王を討伐なさりたい!〜  作者: 無月雨景
メルリルーク王女は、北の国を目指して進む!
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「厄介ですね・・・」


 石の床を殴りつけたゴルバの体から湯気が立ち上がった。

 ゴルバは、ワナワナと右腕を見ながら震えた。飛び散った血がその目の前で蒸発していく。


「貴様ぁぁ」


 その血は、ガルナスの血では無かった。振り下ろされたゴルバの腕が幾太刀も斬りつけられた血だった。

 その傷も、次第に消えていった。


「厄介ですね…」


 その光景にラナックは、片眉を上げた。彼の左腕には、ガルナスが居た。

 ゴルバの拳がぶつかる直前にラナックがガルナスを助け、同時に斬りつけたのだ。

 地面を殴る事になったゴルバの拳から熱波動が発生したはずだが、ラナックは、平然と立っていた。


「しかし、これは凄い」


 ラナック自身もゴルバの放つ熱波動を感じたのは確かだった。が、今ラナックが羽織っている黒いローブに届く直前で掻き消えた。

 ラナックは、ローブをヒラヒラとさせて驚いた。メルリたちが禍々しい魔素を感じると聞いていた為、役に立つか分からなかったが羽織って来て正解だったと静かに息を吐いた。

 シルソフィアの周囲の護衛の為、待機していたラナックだったが、城の破壊とただならぬ気配に駆けつけたのだ。

 襲撃に関しては、メッサ側も考えていたが、ここまでの驚異は予測していなかった。ラナックがガルナスにそれとなく言った際もそれは感じていた。だが、予測できていても、対処できなければ、奇襲は奇襲として意味を成す。奇襲の最たる効果は混乱だ。ラナックは、混乱が広がる前に抑えなければ事態は最悪の結果に至ると考え、その前に食い止める為にやって来たのだ。


「てぇめぇ!そいつをよこせ!」


 頭に血が上っているゴルバは、大きな腕をぶんと振って、ラナックの傍のガルナスを指差した。その勢いの風がラナックの頬を撫でた。


 彼が床を殴った時の衝撃波の様なものはローブで消えましたが…


 ラナックは、ローブの効果を考察していた。

 熱の波動は、ローブの効果で消えた様だったが、男が大きな腕を振った事で起きた風は届いてきた。このローブは、魔術や魔法で起こった現象に効果を発揮する様だった。

 

「それは、ジャーナブルのローブ。何故持っている」


 しわがれた声が意外そうな顔を見せたが、すぐに何か気が付いたらしくそれ以上聞かなかった。


「おおぉぉらあぁ!」


 ゴルバが声を上げて、ラナックに襲い掛かっていった。

 それはあまりにも大振りなモーションだったが、ゴルバの右肩の石が赤熱しそのエネルギーが弾ける事で、その瞬間から圧倒的な加速をした。その事で、ラナックの予測を超える動きとなった。

 避け切ることができたはずのゴルバの鋼の様な拳がラナックを捉えた。ラナックは、咄嗟にその拳を細身の剣で受け流そうとしたが、ゴルバ本人にもその拳の軌道は制御しきれていないらしく、加速が加わった事で軌道が外側に伸び、ラナックの左脇から抉るようにラナックの左背面に突き刺さった。ゴルバの拳が纏う熱量は、ローブによって消されたが、加速した暴力はラナックの左腕上腕の骨と肋骨にヒビをいれた。


「ぐうっ」


 さすがのラナックも右側に吹き飛ばされながら、痛みに顔を歪めた。

 左腕は折れてはいない様だが、ラナックが状態確認のつもりで動かすと痛みが走った。動かせない事はないが、かなりのリスクがある状態だった。


「ちっ」


 ゴルバが舌打ちをしてギロリと血走った目をラナックに向けた。今の攻撃で動けない程の衝撃を与えられると思っていたが、その手応えの薄さに、ラナックが攻撃を受けきらない様に対処した事に気が付いたのだ。


 咄嗟に飛んだつもりが、喰らってしまいましたか…


 それはラナックにとっても不本意な事だった。拳の軌道の変化に対応しきれず、僅かに対処が遅れたのだ。


「グハハハハハッ!」


 ゴルバが笑った。

 ラナックは、しまったと顔色を変えた。

 ゴルバの攻撃の対処に精一杯で、動けないガルナスから離れてしまったのだ。

 ゴルバは、左腕でガルナスの頭を掴んで持ち上げると、右の拳を引いて構えた。


「やらせないっ!」


 ラナックは、剣を構えて床を蹴った。鋭い痛みが走ったがぐっと堪えて、巨腕の男の左腕を切り裂いた。


「グアッ」


 ゴルバが左腕を切り裂かれて声を上げるが、遅かった。緩んだ左手からガルナスがずるりと解放されたが、ゴルバの右腕は、加速を始めていた。その状態では、ゴルバがいくら怯んでも動きは止まらなかった。


 ドガァァッ!


 ガルナスは、吹き飛ばされて大地門の閉ざされている扉に激しく叩きつけられた。

 門は、魔法的な結界があるのか、淡い紫の光を纏い傷一つつかなかった。

 叩きつけられたガルナスは、まるで人形の様に抵抗もできずに激突し、床に崩れた。ゴルバに殴られた場所は、熱によって鎧すら溶けた様にひしゃげていた。


「ガルナス殿!」


 ラナックは、ガルナスの身を案じて駆けつけようとした。だが、その足を何かに捕らわれ、一歩すら動けなかった。


「何っ!?」


 ラナックは、驚き足下を見た。その足は石の床に飲まれる様に埋まっていた。


「フヒィヒィヒィヒィ」


 しわがれた笑い声がラナックに浴びせられた。

 それが、異様に背中の丸まった老人による魔法である事をラナックは、理解した。と、同時に自分の甘さに奥歯を噛んだ。老人から攻撃を受けるなど考えて居なかった。いや、考えていたが、それが魔法や魔術の攻撃だと考えて意識的に外していた。魔法や魔術ならば、ローブで防げると。ラナックの身長では、丈の足りないローブの足下が効果範囲外だと思っていなかった。


「ぐぁりゃぁぁああ!!」


 ゴルバの歓喜にも似た雄叫びをラナックは聞いた。その瞬間に、ラナックの胸をゴルバの超加速した大きな拳が撃ち抜いていた。

 

「ガハッ!!!」


 ラナックは、口から血を吹き出して、吹き飛んだ。足下の石の床も砕ける程の激しい力で吹き飛ばされて、大地門の脇の石壁に叩きつけられて、ラナックは、意識が飛んだ。





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