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わたし!勇者なんてできません! 〜メルリルーク王女は、魔王を討伐なさりたい!〜  作者: 無月雨景
メルリルーク王女は、北の国を目指して進む!
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「馴染むまでかなりかかったんだぜ」


 シルバは、執務室でその音を聞いた。

 轟音と衝撃がその部屋を襲い、水差しのガラスをカタカタと鳴らした。シルバも足下に振動を感じて、ただならぬ事態が起きている事を悟った。

 真っ先に考えたのは、地下の大地門の事が過った。

 何者かが門を開いたとなれば、国の存続にも関わる重大事項である。

 シルバは、すぐさま席を立ち上がり帯剣すると、すぐには部屋を出ずに扉脇に立ち、外の様子を探った。


「何事だ!」


「詳しい事はまだ分かりませんが、城に何かが落ちて来た様です」


「何?!」


 その報告にシルバは眉を歪めた。不可解なその内容に理解が追いつかなかった。

 思わず扉を開き、困惑している警備兵を睨みつけた。


「音のした場所から土煙が上がっているのを見た者がおります。何分、暗くはっきりとは見えなかった様ですが」


 要領を得ない報告にシルバは苛立った。


「王は、どうしている」


「私室でお休みされているはずです。昨晩からの疲れが出た様で、ヤカメ大臣がお連れしたと聞いております」


「即、警備を増やせ」


「はっ」


「私は、現場に向かう」


 シルバは、息荒くそう言うと歩き出した。




 

 ロイドは、城の異変を中央庭園で見た。

 異常な事態である事は明確であったが、関わるべき案件であるかの見極めは、まだ時間が必要だった。火の粉が舞ってくれば払うべきだが、勇んで火中に飛び込むのは立場を弁えていない行為だと考えた。

 だが、異変が起きているであろう城の内部からは、異様な気配を感じた。人の持つ殺気とは違う、より重みのある殺気。圧倒的に押さえつけ蹂躙しようとする殺気だ。それは、距離はあっても、ロイドの背中を冷たくした。ロイドの本心は加勢すべきだと言っていた。


 カイルは、どこに行った。


 城の方を見据えたまま、ロイドは兄弟子の行方を考えた。

 夕食をともに済ませた後、その姿を見ていない。大方、情報収集という大義名分の下、女性の部屋に行っているのだろうと予測はついた。だが、彼の事だから、すぐに状況把握して伝えてくれるだろうという信頼もあった。

 動く理由を見つけたいロイドは、気持ちが急くのを感じていた。

 今朝見かけたサナエと言う少女の事が浮かんだ。異様な気配の向かう先に彼女がいない事を願うばかりだった。主人である王女が危険に晒されることになれば、彼女は立ち向かおうとするだろう。だが、それは自殺行為としか思えない。そうならない事を願うばかりだった。

 気配は城にあり、彼女たちがいるであろう迎賓館では無い。

 いや、ロイドは、気配が建物内を動くのを感じた。

 その方向には迎賓館がある。

 ロイドの足は、意志よりも先に動いていた。



「うぐぅぅ…」


 ガルナスは、体を貫く様な衝撃に片膝をついた。かろうじて倒れなかったのは、この場を守り抜くと言う強い意志だった。

 赤髪の巨躯の拳による攻撃は、確実に防いだはずだった。だが、その衝撃の波動は、止まる事なくガルナスの体に衝撃を与えた。内臓を抉られる様な波動は、体内にダメージを与えガルナスは、喉から上がってくる血を吐き出した。

 これ以上喰らえば、ガルナスの体は持たない事を本人が一番分かっていた。だが、両膝をつく事は、誇りを失う事だった。彼にとっては死よりも重い。

 ガルナスは、剣を杖に何とか体を持ち上げて立ち上がった。そして、再び盾と剣を構えた。


「まだまだぁ!」


 それは、自身を鼓舞する言葉だった。


「ゴルバ、さっさと片付けよ」


 しわがれた声が面倒臭そうに赤髪の巨躯を片目で見た。


「少しぐらい面白味が無けりゃよぉ」


 ゴルバと呼ばれた赤髪の巨躯は、盛り上がった肩をすぼめて戯けて見せた。薄明かりの中にその右肩は左肩と比べて異様に膨らんでいる様に見えた。僅かな灯の中で今まではっきりと見えなかったが、ガルナスに近づいて来た事で、その右肩が見えた。

 その右肩には、まるで肩から生えているかの様に仄赤く光る男の拳大の石があった。


「何だ…それは…」


 ガルナスは、その異様に顔を歪めた。


「良いだろう。馴染むまでかなりかかったんだぜ」


 ゴルバは、シニカルに笑った。

 そして、その肩を後ろに引くと、勢いに拳を乗せてガルナスの盾にぶつけた。盾と拳がぶつかる瞬間に、肩の石が光を増した。


 ゴドゥゥ!!


 衝撃が膨らみ弾け、ガルナスは、制し切れずに体を崩して後ろに吹き飛んだ。受けた左腕の盾も砕け、腕は弾かれて後ろに伸びた。


「グハァッ」


 ガルナスは、背中から石の床に倒され仰向けになってしまった。


 何と言う恥!


 背中を打ち付けながらガルナスは、悔しさに顔を歪めた。

 奢りがあったつもりは無い。相手を甘く見たつもりも無かった。だが、こうも圧倒されるとは思ってもいなかった。

 倒れる瞬間に妻の顔やまだ幼い娘の顔が浮かんだ。

 

 まだだ!倒れるわけにはいかない!


 自分の死は、愛する者の死につながる。ガルナスは、死を恐れずとも受け入れる訳にはいかなかった。

 倒れながらも、体を捻り追撃してくるゴルバの拳から逃れると、右足で踏ん張り構えた剣ごとゴルバの脇にぶつかっていった。


 ガガッ!


 ゴルバの硬い鎧に阻まれたかに見えた。が、その切先は、奇跡的に継ぎ目に突き刺さった。


「ああぁぁ!!」


 ガルナスは、声を上げてその切先を押し込んだ。


 ガキンッ!


 ガルナスの剣は、鎧の継ぎ目を押し開き、ゴルバの右脇腹にその刃を突き立てた。


「ぐおぉぉぉ!」


 ゴルバがたまらずに痛みに声を上げた。

 

「ちくしょおぉぉ」


 慢心していたのはゴルバだった。まさかの反撃の痛みに声を吐き出した。

 怒りでゴルバの筋肉は膨らみ、突き刺さったガルナスの剣は抜けなかった。そのガルナスの顔をゴルバの左の拳が吹き飛ばした。右腕の様な不可視の衝撃は無かったが、ガルナスは、激しい暴力の力に石の床に叩きつけられながらも、勢いが止まらず跳ねる様に吹き飛んだ。


「うぐぐぅぅ」


 たまらず、ガルナスの意識は遠といた。遠のく意識の中で、ゴルバが自ら右脇に刺さった剣を抜き、投げ捨てる金属の乾いた音を聞いた。


「殺すぅぅ!」


 ゴルバの呪いの吐息が煙とともに吐き出された。

 身体中の筋肉が赤熱している様だった。

 ガルナスが突き刺した傷口から流れていた血は、シュウシュウと蒸発しているかの音を立てて煙となった。それと同時に、傷口が閉じて消えた。


「だから言ったのだ」


 しわがれた声が嘆息混じりにそう言った。


「うるせぇ!くそジジイ!!」


 ゴルバの体が異形化していった。

 胸筋は倍近くに膨らみ、腕も大きく広かった。変化に耐えきれなくなった硬質な鎧は解ける様にはしゃげて床に落ちた。赤熱した筋肉は熱量を増し、その周囲の景色を歪めた。


「ぶっ殺してやるるるルウゥゥ!」


 ゴルバの巨大になった右の拳が振り上げられた。肩の石がゴウッと強い光を発した。まるでそれが腕に加速を与え、物凄い勢いで倒れているガルナスに向けて振り下ろされた。

 石の床が放射線状にひび割れ、大量の血がそこを中心に弾けた。

 

 





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