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わたし!勇者なんてできません! 〜メルリルーク王女は、魔王を討伐なさりたい!〜  作者: 無月雨景
メルリルーク王女は、北の国を目指して進む!
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「リーシアを探してください」


 リーシアが居なくなったのが分かったのは、昼過ぎの事だった。

 リーシアの側付きのメイドのマイが昼食の際に私室に呼びに行ったがそこにリーシアが居なかった為、宮殿内を探し回ったが見つからず、侍従数人で探し回った。しかし、その姿はどこにも無かった。その捜索の際に発覚したのが、下男見習いのハーマクも居ないと言う事だった。二人は幼い頃から知った仲である事から、ハーマクを付き添いとして連れて出掛けたと考えるのが妥当だった。

 リーシアが誰にも告げずに出掛けるとは、彼女を知る人々には考えられなかった。

 リーシアに関する情報は、今朝シルバが会った以降の目撃情報も無く、城外に出たかも不明だった。と言うのも、昼前にはシルバの命によって城門を閉じていたからだ。出たとすれば、朝の時間帯しかない。

 シルバは、報告を受けてすぐに城外の兵に捜索を命じた。指輪の事といい、シルバの頭痛の種が増えた事に表情を更に険しくした。シルバの中にもしやと浮かぶ考えが有ったが、それを口に出す事は無かった。

 リーシアが居ない事の混乱は、サナエのもとにも聞こえてきた。と言うのも、メルリとサレアナとラナックの所に行く途中で蒼白な表情のマイと会ったからだ。


「マイ?どうしたの?」


「リーシア様が、いらっしゃらないの…サナエは、見掛けなかった?」


 その様子を心配してサナエが声を掛けると、メルリとサレアナが居るにも関わらず、サナエに縋る様に尋ねてきた。


「御見掛けしていないわ」


「そう…何か、気が付いた事があったら教えて頂戴」


「分かったわ」


 マイは、使用人の会合に参加した事を後悔していた。婚約の事で不安定になっているのは分かっていたのだ。だから今は寄り添うべきだったと自分を責めていた。その事が彼女の視野を狭め、ただ慌てさせていた。

 メルリは、マイの様子にリーシアの事を心配しながらも自分の姉の心情をおもんぱかって心重くなった。

 一方サレアナは、リーシアの名が兄が婚約する相手だと思い出すまで少し時間が掛かったが、姿を眩ませた原因が兄に有るのではと想像してしまい、落ち着きを取り戻したはずの顔色に影が差した。



「なるほど。それは、こちらを目指していると言う事ですか…」


 ラナックの所に行くと、メルリがサレアナの感じ取った事を伝えた。指輪やリーシアの話はしなかった。指輪の事は今は口を出すべきでは無いと考え、リーシアの事は、城門を閉ざされていては、動けそうにもなかったからだ。

 話を聞いてラナックは腕を組み興味深い顔をした。


「それをメッサ王やシルバ様にお伝えするには、根拠や確証が足りな過ぎますね。今城内に緊張感がありますし、余計な混乱を招きかねません」


「でも、何かあったからでは遅いわ」


 メルリもその気配を感じていて、胸がざわついていた。だが、確かにラナックの言う通り、それが何であって、何のた為にこちらに向かっているのかも分からない。通り過ぎる可能性だって有る。こちらから刺激するのも危険を招き兼ねない。

 サナエは、二人の様にそれを感じ取ってはいないが、メルリとサレアナの様子にただ事ではない何かを感じ取っていた。サレアナは分からないが、メルリが不安そうにしている事がその脅威を思わせた。


 それ程の事なんだ。


 そう思うと、ラナックを頼り見るその目に心の揺らぎが宿った。


「分かりました。メッサ騎士団長のガルナス殿には、お伝えしましょう。何か有れば、お二人とサナエは、私が必ずや御守りします」


「わたしよりもシル姉様をお願い」

 

「承知しました。必ずや」


 ラナックが、メルリを疑う事などあり得なかった。だから、その言葉は、メルリを安心させる為だけに言った言葉ではなく、そう誓ったと言う事に他ならない。たとえ、メルリが感じている脅威が有ろうが無かろうが、その言葉は変わらないだろう。

 サナエは、そのラナックの応えに安心感を覚えつつ、何か有ればメルリを守らなければと、今朝の稽古の事を思い出した。拙く未熟であってもその為にやっているのだ。鼻から吸った息に体の芯が震えるのを感じた。




 その頃、リーシアの失踪を知った第一王女のシーナリネは、二人の男兄弟と王妃を呼び、王の執務室に集めていた。


「お兄様。リーシアの様子がおかしかったのを気付いておいででしたか?」


 シーナリネは、リーシア以外の家族が揃うと、そう切り出した。

 シルバは、分からないという難しい顔をした。


「婚約の話を快く思っていなく、落ち込んでいました」


「そんな話は聞いていない」


「言える訳がありませんわ。国の為と思えば、覚悟しようとしていたに違いありません。良い噂の無い相手だとしても…」


「当たり前だ。王族の女の結婚とは政治だ」


 シルバは、シーナリネの言いたい事が分からなかった。


「ローレックも気が付いていたでしょうに」


「いや、ですが、受け入れようとしていたと感じていましたので」


 シーナリネは、大きくため息をついた。


「二人は、女心を知るべきです。特にお兄様!結婚していると言うのに、ラメリナ様に月に一度しかお会いになっていないと聞いています。お腹にお子もいらっしゃるのにお可哀想に…昨晩も晩餐会にお呼びもせずに…」


「何の話をしている?身籠ったばかりの妻をあの場に呼ぶのは負担だと考えただけだ。そんな話をする為に呼び寄せたのではないだろうな」


 シルバは、苛立って足を鳴らした。


「王の指輪の行方を明らかにしなければならないという時に」


「それで、貴賓の方々を疑っておられるのでしょう」


「王の権威が掛かっているのだぞ!」


 シルバは、声を荒げた。

 王のシッコウは、息子たちのやりとりに言葉が出ず、視線を泳がすだけだった。その横で妃のロンナは、リーシアの行方が分からない事に失神しそうな程、憔悴していた。

 

「リーシアを探してください」


「兵に命じて探している」


「足りません。早く見つけなければ、リーシアの身に危険が迫るかも知れません」


 シーナリネは、言葉を口にすればする程自分の言葉に実感が湧き、心が急いた。


「指輪は、リーシアが持っているのだと思います」


「…」


 その可能性がよぎりながらも口にしなかったシルバは、強く息を吐いた。


「リーシアにそんな事をする動機があるとは思えません。誰かに唆されたか、脅されているのか…」


 ローレックは、額に手を当てて妹の身を案じた。

 それでも、シーナリネの憶測に過ぎないとシルバは、眉間に皺を寄せて考えを巡らせた。ローレックの言う通りに誰かの指示での行動とも考えられる。誰にも告げずに城を出たのには理由があるはずだが、シルバには思い当たらなかった。ならば、今朝、執務室を訪れたのは、その事を相談もしくは助けを求めたのかも知れないと、シルバの気持ちを焦らせた。


「リーシアが指輪を持っているとすれば、その身が危険です」


 ローレックは、想像して血の気が引いた。指輪を奪わせた何者かが、リーシアを無事で帰すとは思えなかった。今、リーシアを護衛している者はいないのだ。ハーマクを連れてはいるかも知れないが、護衛としては役に立つ様にも思えなかった。

 王妃は、末娘が危機的状況にあるかも知れない事実に直面して血の気が失せて、近くのソファに座り込んだ。その体をローレックが支えた。


「シルバ兄様!私が捜索に出ます」


 ローレックは、そう進言した。


「…分かった…」


 シルバは、しばらく考えていたが、絞り出す様にそう言った。城門を閉ざしている今、指輪が外に出ているとすれば、リーシアが持ち出した以外無いだろうと考えた。リーシアが指輪を持っていなければ、城内に有る事になる。そう、自分に言い聞かせた。

 シーナリネは、伝えたかった方向とは違う伝わり方をしたと兄と弟のやり取りを見ていたが、結果的にリーシアの身柄の保護に向いた事にひとまずホッとしていた。

 確証は無かったが、リーシアが指輪を持っているで有ろう事がシーナリネには分かった。パンスティークのカーナス王子が来た事で、進みそうになっているリーシアに取って不本意な婚約の話を無かった事に、もしくは先延ばしにする為に取った行動だろうと、シーナリネは考えていた。それと言うのも、リーシアから何度か婚約の話に関しての不安と相談を聞いていたのだ。その気持ちを知っていたシーナリネには合点がいった。

 とは言え、して良い事ではない。それは、リーシア本人も分かっているはずだ。それだけ追い詰めたのかも知れないと、妹の気持ちに寄り添えなかった自分をシーナリネは責めていた。


 リーシア、どうか無事でいて…


 リーシアの家出に指輪が関わっているいないに関わらず、護衛も付けていない世間知らずな王女には危険しか無いのだ。

 シーナリネは、指輪よりも妹の身を心配して祈った。




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