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わたし!勇者なんてできません! 〜メルリルーク王女は、魔王を討伐なさりたい!〜  作者: 無月雨景
メルリルーク王女は、北の国を目指して進む!
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「祝福を頂戴」


「エルもメルリも来てくれてありがとう。まぁ二人とも、その礼服、とても似合っているわ。二人の良さをとても引き立てている。とっても素敵よ」


 安楽椅子の背もたれから上半身を起こして、シルソフィアは愛しい妹たちを迎えた。

 こうして会うのは、彼女の結婚式展以来で、二年近く会っていない事になる。

 はしゃぐ様にシルソフィアに駆け寄り、その手を取るメルリにシルソフィアは目の端に涙を溜めて抱き寄せた。

 エルラーナは、そうできるメルリを羨ましく思いながら、努めて淑やかに淑女として成長した姿を姉に見てもらおうと、静かに近寄り首元柔らかく微笑んだ。


「エルもいらっしゃい」


 メルリを抱いていた手を広げてそこにエルラーナを呼び込むシルソフィアにエルラーナのウズウズのタガが外れて、その腕の中に体を寄せた。シルソフィアには、敵わないとエルラーナは白旗を挙げた。


「もう、お姉様ったら」


 見てもらいたい自分を貫けなかったエルラーナは、頬を膨らませて髪を撫でてくれるシルソフィアの手に自分の手を重ねた。


「そんなに気負わなくても、エルは、立派な淑女よ」


 メルリは、シルソフィアを期待の目で見た。その視線にシルソフィアは、ニコリと微笑んだ。


「メルリもとても綺麗になったわ。でも、まだお転婆してるみたいね」


「お姉様、わたし、大切なお友だちができたの」


「まぁ」


「サナエ」


 メルリに呼ばれ、入り口で待機していたサナエはドギマギしながら入室した。


「シルソフィア様、お初にお目にかかります。サナエと申します。メルリルーク様のお側で働かせていただいております。メルリルーク様には…」


「サナエ!」


 何とか挨拶を上手くしようとしているサナエに、メルリは、不機嫌そうに声を掛けた。


「サナエは、わたしの大切な友だちよ。魔法も使えて凄いんだから」


「魔法を?凄いわ」


 シルソフィアは、驚いた顔をした。その好奇心に輝いた表情がメルリに似ていてサナエは、親近感を覚えシルソフィアを好きになった。


「あ、いえ…」


 その目に照れてサナエは、俯いた。


「これからもメルリの事をよろしくね。この子無茶するから側にいてくれる人がいると安心だわ」


「は、はい」


「お姉様、わたしをそんな風に思っていたの?」


「あら、そうよ。昔から好奇心旺盛で、すぐにどこかに行ってしまって、世話係に何度泣きつかれた事かしら」


 シルソフィアは、思い出しながら楽しそうに笑った。その横でエルラーナも強く何度も頷いている。

 メルリも不本意そうな顔をしながらもその表情はすぐに崩れて笑顔になった。


「お姉様、触ってもいい?」


 メルリは、シルソフィアの膨らんだ腹部を好奇心強めの愛しい表情で見た。


「優しくね。お腹の子を、びっくりさせない様にね」


 メルリの手が優しくその膨らみを撫でると、エルラーナも触りたそうに姉を見た。シルソフィアが頷くと、二人で触った。


「いっぱい祝福を頂戴」


 シルソフィアは、妹二人の髪を指ですく様に撫でた。

 メルリとエルラーナは、そのお腹の中の赤ちゃんに優しい気持ちが届く様に優しく口付けをした。


「サナエも、祝福を頂戴」


 シルソフィアの柔らかな包み込む様な微笑みにサナエはドキリとして、はにかんだ。


「よろしいのですか?」


「もちろん。リリーナもロンダもお願い。この子には、いっぱいの祝福を持って生まれてきて欲しいの」


 メルリに手を引かれてサナエは、シルソフィアのお腹に触れた。そこにある命の神秘が愛おしく温かく手に伝わって来た。キスをして頬を寄せると、そこに命が確かにある事を感じられた。サナエの目尻に自然と涙が出て集まってそっと流れた。


「ありがとうサナエ」


 シルソフィアの細く、しかし、心までも包み込む様な指がサナエの髪を撫で、その頬を撫でた。その指先が涙を吸い取った。

 

「貴女は、不思議な子ね。とっても優しい目をしているのに、その奥はどこか悲しげ。痛みを知っている光。それに、ヴァンナットの特徴を持っているのね」


「ヴァンナット?」


「わたしたちナッサヘルクの民の祖先よ。山岳に暮らす魔法に長けた民だったと言うわ。今では、その血は薄れてその特徴はほとんど見られないけど。サナエの様な子はとても珍しいわ。とっても美人だし」


「いえ、そんな事はありません」


 容姿を褒められ慣れていないサナエは赤くなって首を振った。


「そうだわ。お姉様。ここまでの旅の途中でそのヴァンナットの民の生き残りとお友だちになったの。昔、ヴァンティーユ連峰の山奥に住んでいたと言っていたし、日に焼けているけどサナエみたいな黄色がかった肌の色をしているから間違いないわ」


「まぁ、そうなの?」


「その子の村は、十年くらい前に何者かに襲われて無くなってしまったみたい。だけど、その子は何とか生き延びていたの。魔獣(モンスター)も従える能力があるの」


「あら、それは凄いわ。村の事は残念だけど…今度紹介してね」


 メルリは、「はい」と嬉しそうに頷いた。

 エルシエッタは、魔獣(モンスター)を連れて王宮に入る事はできないと判断して、馬車の中にロングを匿い、王都の端の宿屋で待機している。ランティは、エルシエッタの指示でどこかに飛んで行き待機している。森育ちのエルシエッタには、人の多い場所は落ち着かない様で、ましてや着飾って王城へ行くなどできないと本人がそう望んだのだ。


「そうだわ、メッサ王やシルバ様にローレック様にもお耳に入れたい事があるの」


 そう、思い出して言ったメルリにシルソフィアは、小首を傾げた。


「それだったら、今夜の晩餐会の後にお話しできるように通しておくわ」


 シルソフィアは、その内容に言及はしなかった。メルリの表情が少し思い詰めた雰囲気を持っていた為だった。つまり、それは、早急に話せる場を設けなければ、この妹は自ら動き出してしまうのだろうと察したからだった。


「その場には、ラナックおじ様とサナエも同席して貰うわ」


 そこで自分の名前が出た事にサナエは、一瞬戸惑ったが、話の内容を察して言葉を飲み込んだ。


「シルソフィア様、そろそろ」


 シルソフィアの側付きのメイドがそっと口を挟むと、シルソフィアは残念そうな顔をして、妹二人の手を取って指先でさするようにした。


「この後、お医者様と助産師の健診があるの。もう少し話していたいけれど、それはまた後で」


 妹たちも久しぶりの再会にまだまだ話し足りない事ばかりだったが、今日明日で帰るわけでは無いと自分たちを納得させて、少しの別れを受け入れた。


「ロンダ、リリーナ」


 シルソフィアは、ハッとして、拗ねた顔で二人を見た。


「祝福がまだだわ。わたしの事を抱きしめて頂戴」


 ねだる子どものような表情で両手を広げるシルソフィアに二人ははにかみながらも順に抱きしめて、頬を合わせて互いの頬にキスをした。


「では、また夜に会いましょう」


 五人は、シルソフィアの部屋を後にすると入り口で待機していたラナックとジーナと合流して、これから泊まる部屋へと案内された。



 

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